軍事演習①
私は兵士として軍事演習に参加することになった。
エラシストラ王国における軍事演習はシンプルだ。
言うなれば、自軍を分けて行う模擬戦争だ。
模擬戦争といっても、殺し合いをするわけではない。
一定時間の経過か、敵軍の総大将の捕獲、もしくは戦闘不能で終了となる。
軍事演習における軍の総大将となるのは少将たちだ。
彼らは実際の戦争でも前線で指揮を取る。
現在は王国に30人ほどいるらしい。
少将たちは、自軍の兵士長たちをリーダーとする小隊を編成し、戦略を練って戦わせる。
中には自ら前線に出ていく猛者もいるという。
その戦いの様子を見て、中将や大将が兵を評価する。
どこで、どうやって監視しているのかはわからない。
この国の中将は10人、大将にいたっては3人だ。
彼らは全員、実際の戦争の経験者だ。
私は、マークス兵士長の小隊に組み込まれている。
推薦してもらった以上、兵士長の顔に泥をぬる訳にはいかない。失敗は無しだ。
4士で、訓練に参加するのは珍しいらしい。
何でも、実戦さながらの訓練で、下手すれば死人が出るほどの過酷さだという。
本来なら、2士からの参加が一般的だ。
とは言っても、私はあの森で死線をくぐってきた。
死にかけた経験は、もう両手で数え切れない。
今や、死に対する恐怖はかなり薄れている。
(…とはいっても、緊張するよね。)
私の森での戦闘の基本は奇襲だった。
睡眠中や食事中、背後から近づき急所に攻撃。
それも、相手が一匹の時を狙っていた。
だけど、今回は違う。
相手はこちらを迎え撃つつもりで準備する。
ましては、かなりの大人数だ。
今までの戦いのノウハウは通用しないだろう。
そうわかっているなら、なぜ参加するのか?
答えは至ってシンプル。
(肉食いたい。)
この街に来てからはあまり肉が食えてない。
それもそのはず、5士なんてほとんどただの雑用。
給料が高いはずないのだ。
(昇格した暁には、たらふく食ってやるぞ!)
軍事演習は単なる模擬戦争ではない。
肉が食えるか食えないかの聖戦でもあるのだ。
それほどリィンネルジュことリンにとって、肉とは、必要不可欠なものになっていた。
肉を前にした獣ほど恐ろしいものはない。
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そして、軍事演習当日。
軍事演習は、私達の住む街ドスタから少し離れた所にある、山々に囲まれた平原で行われる。
「それにしても現地集合かよ…」
誰かの愚痴が聞こえる。あるいは私か?
平原までは現地集合となっている。
これがまた大変で、装備を持っていく必要がある。
私達は小隊単位で街から移動した。
半日ほどかけて移動し、ようやく到着。
到着してやることは拠点作りだ。
基本的にはそこに総大将の少将が陣取る形だ。
(攻めにくく、守りやすいが一番。)
今回は撤退は無しなので、後方は高い山。
前方は一方向になるような場所を選ぶ。
ここなら場所も分かりづらく、攻めにくいだろう。
明日の夜明けがスタートの合図となる。
それまでは自軍の拠点から動いてはいけない。
敵拠点の正確な位置はお互い知らされていない。
知っているのはある程度の方角のみだ。
私達は今回の軍事演習の作戦を再確認する。
1, 軽装で隠密に長けた部隊が敵拠点を発見。
2, 拠点を見つけ次第、自軍の拠点へ報告。
3, 小隊を大きく2つにわけ、敵拠点を挟み撃ち。
私達の小隊は、回り込んで挟み撃ちをする役割だ。
その中でも私は、敵を押し込むタンク兼アタッカー。
純粋な力だけならこの小隊の中で一番だ。
今回の私はかなりの重装備だ。
顔を除く、体全体を覆う鎧は肌が見える隙間はない。
背中には巨大な剣と大楯を背負っている。
背も高く、周りから見ればかなりの威圧感だという。
そのほか細かい指示や、不測の事態への対応策など、各小隊単位で確認が進められ、間もなく夜明け。
制限時間は2日。
陽の光があたりを包む。
ほぼ同時に隠密部隊が拠点を飛び出した。
そのほかの小隊は拠点近くにさらに陣地を構える。
私は兵士長と共に最前列で移動する。
移動途中にふと私はあることに気づく。
私達の小隊に知らない兵士が1人加わっている。
私は兵士長の肩をつつき、後ろのその兵士を指さす。
すると、
「ああ、こいつは他の小隊だったんだが、あんまりにも使えないそうで、私達の小隊へ配属になった。」
という。
私達の小隊は、4士の私が所属しているせいなのか、実力を低く見られがちでこういうこともあるそうだ。
まぁ、なんだそれ、とは思うけどね。
その兵士は、こちらに気づき、話しかけてくる。
「はっはっはっ、俺はヒュバだ、よろしくなぁ!」
ガタイは良い。
身長は180は超えている。
声から察するに、おっさんだ。
(……そんなに使えなさそうには見えないな。)
私が目を向けていると、ヒュバがこちらを見て言う。
「ほぉ、赤髪で兵士長のお気に入り。もしかして君が、今回から参加する4士のリンで間違いないか?」
こちらをジロジロと見ながら、そう喋りかけてくる。
私は、返事はせずにただ頷いた。すると、
「まさか女の子なんて知らなかったぜ、めちゃくちゃ美人じゃねえか!こんな子と一緒の部隊とかラッキーだな!」
…なんやこいつ。
私は、ゴブリンを見る目でヒュバを見る。
するとその様子を見ていた兵士長が、
「ヒ、ヒュバ君。やめないか。今は軍事演習中だ。」
と声をかける。
「へへ、すみませぇん兵士長!集中します!」
ヒュバは、そう言うとニヤニヤしながら黙った。
私の小隊にこんな軽薄そうな男が来てしまった。
少しショックだが、迷惑さえなければそれでいい。
体に触ってきたら、ぶっ飛ばす。
そんな会話をしつつ、陣地を構え終わる。
敵拠点の報告が来るまでは、ここで敵を迎え撃つ。
今日中に敵拠点が発見できれば、都合がいいが。
…陣地を構えて数時間後。
警戒班の兵士からの連絡が来る。
敵だ。
模擬戦争こと軍事演習が始まりました!
主人公ちゃんには頑張ってもらいたい。
リィンネルジュ
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