第40話 魔道具と精霊とモフモフ
……
…………
「森の中には小屋があって、そこで奴隷の烙印を胸元に付けられましたの。
奴隷は、人間ではないのですって……
奴隷は家畜以下だと……」
小屋の中の出来事は、思い出すだけで辛かった。
涙が頬を伝った。
震えは次第に酷くなり、自身で抱き締めても止まらない。ローザ様が、私の手を取り握って下さる。
「……屈服させる為の拷問の数々、血が出ない日はなかった」
「腫れて開かなくなった瞳、喉が潰れ出なくなった声……」
「精霊にも、見放されたと思いましたわ」
……
…………
………………
『チッ!シアをそんな目に合わせた奴ら全員、同じ目に遭わせてやる……!』
レン兄様の声が響く。
『ルーカスの連れてる月精霊と私が連れてる月精霊は繋がってるんだよ』
『お前達の声は聞こえてる』
「レン様、私も手伝わせて下さいませね」
「勿論、俺も」
「私もです」
「いいえ、ダメです。行方は分かりませんわ」
「そんな事はないだろう、ジェラルド殿やライラ殿が血眼になって探しているからな」
いつの間にか、隣に移動してきた陛下が優しく親指で涙を拭ってくれる。ルーカス様も、ローザ様も傍に寄り添い……とても温かくて……涙が止まらなかった。
『シア……』
兄様の声が、私を包み込んでくれる。
私は、1人じゃない。
あの時は、1人だったけど……
いまは、1人じゃない……
みんなの声が、優しが、こんなにも胸を暖かくしてくれる。
大丈夫。
乗り越えられるわ。
あの時の誓いを、もう一度。
絶望を希望に
強く、気高く、そして、優しさを兼ね揃えし青薔薇を胸に……!
もう、後ろを振り返るのは止めよう。前を向いて、一緒に歩いてくれる方達が、こんなにも沢山いるのだから。
「もう、大丈夫ですわ」
ニッコリ笑い、皆さんの顔を見渡す。
俯いていた顔を上げ、見た目など関係ない。
中身が大切なのだと……。
その後、オアシスで、狼の陛下と出会い。
伯爵の仕打ち、全てを打ち明けた。
「伯爵の拷問の数々を証明する事はできますわ」
「この魔道具さえ破壊出来れば、精霊王より賜わった精霊」
「私の瞳に宿りし、真実を司る精霊を呼ぶ事が出来ますわ」
皆がシルフィアの右の瞳を覗き込むと、キラキラと煌めく光が見えた。精霊を解放出来れば、精霊王とも連絡が取れる。目覚めているのなら、何か情報を得られるかもしれない。自然界より生まれし精霊を束ねる存在なのだから。
お兄様の声がする。
『陛下、ルーカス様……そろそろ……』
時間になってしまった。
これ以上、陛下達を拘束する訳にはいかないわよね。
(でも……)
お願いしたら、許可して下さるかしら。
「陛下、ここから去る前にお願いしたい事が御座います」
「何だ?」
「……」
「頼みにくい事か?言ってみろ、無理なら無理と言う」
「……モフモフさせて下さいませんか?!」
食い気味に、前のめりに頼み込む彼女に、一瞬唖然としてしまった。
「………………は?」
長い沈黙の後、彼女の言葉を頭の中で繰り返す。
(モフモフ?)
「……ダメ、ですか?」
「いや、……モフモフ?」
「……」
「シア様は、陛下に銀狼になって頂きたいんだと思いますの……モフモフが大好きなんですのよ」
「ローザ様!」
「狼姿の陛下に一目惚れだそうですわ」
「…………ダメ……ですか?」
真っ赤になって俯き、上目遣いに見つめてきたらダメとは言えない。
「分かった」