第32話 魔術師団長と精霊王
それぞれの想いが交差しようとしている時、元凶であるセレスティナ神聖王国では……
商人が王都に足を踏み入れた瞬間、後悔した。目の前に広がる光景は異常を喫していたからだ。まるで死人のような町人が彼の前を通り過ぎて行く。
(な、なんだアレは)
声を掛ければ振り返るが、何を喋っているのか分からない。
街の中を勇気を出し進んでいく。
彼らスピカ商人団は、シルフィアと懇意にしている。商売をしながら、国を跨ぎ情報を集めるのが与えられた仕事だ。
セレスティナの実情を調べ、ソルファレナに居るであろうシルフィアに渡す。その為にも、この街を成る可く調べ上げたい。
街の中を調べ始めた商人達に気付くこと無く、フィルフィアは城にある一室に向かっていた。贅の限りを尽くした豪華な扉の前でフィルフィアは足を止めた。
扉には大きな紋章が描かれ、フィルフィアが手を翳すと紋章に魔力が帯び光を放つ。光が収まると扉は勝手に開き始めた。
カツカツとヒールを鳴らしながら歩くフィルフィア。
彼女は、2人の男性の前で止まると、スカートを摘み仰々しく頭を垂れた。
「2日ぶりですわね、魔術師団長様、精霊王様。お目覚め後の気分は如何ですか?」
「良くはないな。何時まで、この場所に閉じ込めておく気だ?」
「閉じ込めるなど…お二人共、まだ体調が万全ではないでしょう?ゆっくりと休んで下さいまし」
大袈裟な程に肩を落とし、シュンと項垂れる彼女は傍から見れば可憐な少女だろうが…2人から見れば、呆れる程に悪どい悪魔のような女という認識だ。
短いため息をついたのは、淡緑の髪を地面に着くほど長く垂らし、澄んだ青色の瞳をした男性だ。耳は長く尖り、明らかに人間ではない。
精霊であり、精霊を束ねる存在。精霊界に身を置き余程の事がない限り人間界には来ない。
今回、人間界に降りて来たのも愛し子であるシルフィアがどうしてもと言うからだ。
こんな、面倒事になるなら降りてなど来なかった。
「出てけ、我は機嫌が悪い。死にたくなくば…」
精霊王から発せられる殺気に、サーっと血が引く。ガタガタと振るえ怖気づくフィルフィアを一瞥すると、精霊王は興味が失せたように視線を外し奥に下がって行った。
(まったく……コレでは、情報を聞き出す事も出来ませんね)
「行きなさい。精霊王を怒らせると、どうなるか貴方様も分かってますね」
落ち着いた色合いのローブを着こなすのは、濃紺の髪を横で縛り流した男性だ。眼鏡を中指であげ、フィルフィアを睨むように見る。
「つっ!」
「出口まで、エスコート致しましょうか?」
「結構ですわっ……」
彼もまた、とても機嫌が悪かった。
「そうですか……では、さっさと出て行ってください」
そう言って、精霊王の後を追うように奥に下がって行った。
「また来ますわ…シアなんかより、私の方が素晴らしいと直ぐに分かりますわ!」
彼女は来た時と同じように、ヒールを鳴らし出て行く。扉が静かに閉まり、魔力封じの紋章が刻まれる。
奥に下がった魔術師団長は、精霊王を軽く睨み愚痴を零す。
「何故、もう少し堪えて下さらないのですか?お陰で情報がちっとも集まらないじゃないですか」
「私は、あの女は好まん」
「好む、好まないの話ではありません。……シア様が本当にこの国に居ないのか聞くことも出来ないじゃないですか」
私達は、数日前には目覚めていた。だが目覚めてから、一切部屋から出してもらえない。城内の情報は入らず、部下達からの連絡も無い。更に、精霊が1人も居ないのだ。
精霊王である、オルフェリウスにも分からないらしい。それは、そうだろう私達はずっと、眠っていたのだから……
だが、オルフェが言うには、シア様に付けた精霊とも連絡が取れないらしい。だから余計に機嫌が悪い。
どうしたら良い?
シルフィア様……!




