第29話 茶会と暗殺
薔薇が咲き誇る庭園に、テーブルが置かれ、お菓子やお茶がセッティングされている。
ナタリーさんとヴィムク様は、私を探しくれていたらしく、挨拶をしたら下がっていった。残されたのは、陛下とルーカス様、グレッド様と1人の執事だった。
「何してる?座れ、アシャラ」
(出来るわけありませんわ!)
陛下と同じテーブルに着くなど、出来るわけがない。何故、ルーカス様もグレッド様も何も言わないのか…
「何を言っても無駄ですからね。アシャラ嬢、座って下さい」
そう言って椅子を引いてくれるルーカス様。
観念し椅子に座ると、ルーカス様も席に着いた。グレッド様は、私の後ろに立ち執事の方は紅茶を入れ始めた。
出されたお茶に口を付ける。
丁度良い温度で、仄かな香りと甘みが口内に広がり、とても美味しい。自然と笑顔になる。
「「!!」」
(え?な、に?)
皆様が、とても驚いた顔で私を見ている。
そして、何故か皆嬉しそうに破顔し、お菓子を進めてくるのだ。
「どうした?アシャラ、食べないのか?」
「アシャラ嬢、今回のお茶菓子はルークがアシャラ嬢の為に悩んで悩んで買ってらしたものなんですよ」
「おい、言うな」
顔を少し赤らめ、陛下は視線を外す。
「そもそも、ルークは甘い物食べませんからね」
「おい!」
「おや、申し訳ありません」
ルーカス様は、気にする様子なく話していた。
視線を戻した陛下が、少し落ち込みながら聞いてきた。
「それとも、怒っているのか?」
「その、狼が俺だって事を言わなかったのが…」
「騙されてた訳ですからね~」
「お前は黙ってろ!」
「だいたい!お前にも責任はあるんだぞ!」
お茶を飲みながら、ルーカス様が突っ込んでいる。
陛下とルーカス様は、幼なじみと聞いた。
こんな風に軽口を叩ける間柄というのは羨ましいと、正直思う。
食べないのも失礼に当たるかもと思い、手前にあったお菓子を手に取る。
2人は軽口を言い合いながらも、私を気遣ってくれる。それが、無性に嬉しかった。
手に取ったお菓子を1口、口に含むと舌先にピリっとした刺激を感じた。
「!」
(これは……!)
ジッとお菓子を見つめ、全てを平らげる。舌先に感じた違和感は確信に変わる。
(やっぱり……毒?!)
バッと陛下を見上げると、陛下はお菓子を手に取る所だった。
「おや陛下、甘い物は好きではないのではなかったのですか?」
「うるさいぞ」
(!食べてはいけない!何とか阻止しないと!)
「ん?どうした?アシャラ」
ジーッと見てたのがバレたらしく、陛下が問い掛けてくる。
私は何とか、陛下にお菓子を食べさせない為の策を考え……「そうか」と陛下が手をポンと叩いた。
無言でお菓子を差し出す陛下。
……え?
(これって……いや、でも、陛下を護る為よ!)
陛下の差し出すお菓子を、口に含む。先ほど感じた違和感が、このお菓子からも感じられた。全てのお菓子に毒が入っているのだろう。陛下達は気づいていない?伯爵の仕業?
ならば、暗殺者が……
毒が回ってきたのか、少しふらつくが、視界の端にキラっと何かが光ってみえ、反射的に陛下の腕を引き覆いかぶさった。
「!」
途端、左の脇腹に強烈な痛みが走る。
「殺れ」
短く鋭い声が遠くから聞こえた。
バタバタと複数の人間が走ってくる音も。
「つっ!アシャラ?!」
「ルーカス!グレッド!」
陛下が声を張り上げる前に、ルーカス様は結界を張った。
グレッド様は剣を抜き、向かってくる暗殺者達を倒していく。
「っ、大丈夫です、陛下。陛下にお怪我は?」
「俺にある訳がなかろう!」
「そうですか、良かった」
私の意識は、ここで途切れた。
そろそろ、プチギャフンです。
シルフィアを嬲った男をギャフンです!
まだ、この後、それぞれの視点を書かせて頂きまして、その後に伯爵をギャフンです。
セレスティナにギャフンするのは、もう少し先になりそうです。