第28話 葛藤と茶会
案内された場所はお風呂場で、豪華な装飾が施された大浴場だった。
(ここは……)
王族専用と思われる場所に案内されて、私は戸惑っていた。
「な、なんで……」
「陛下から、此方を使うよう申し使っております。さ、アシャラ様、ココにお座り下さい」
有無を言わせぬ物言いで、鏡の前に座らされた。
「お怪我をされた場所に触らないよう気をつけますが、痛かったら申し付けくださいね」
フワフワの泡が体を包む。ナタリーさんの手が体を滑る度に、濁った泡が流れていく。髪も体も綺麗に洗われていく。けれど、貴族だった頃のような真っ白い肌、お父様と一緒の青銀の髪は1度洗っただけでは元に戻らなかった。
湯に案内され、ゆっくりと浸かった。温かくて、何故だか少し涙が零れた。
用意された部屋に戻る途中で、貴族と思われる方々が通った。私とナタリーさんは、壁に寄り頭を下げる。だが、貴族の1人が立ち止まり、私をジロジロと見てきた。
「貴様か、陛下を誑かしている奴隷というのは」
(つっ)
前髪を掴まれ顔を上げさせられる。
「ふん、平凡な顔立ちじゃの。貴様の様な小娘が伴侶になれるとでも思っておるのか?」
「下等な存在が、我等と同じ空気を吸う事すら烏滸がましい!身の程を知れ」
パッと手を離し、汚いものを触ったかのようにハンカチで手を拭った。そして、拭ったハンカチを一瞥し『いらぬ』と言って後ろに放った。
「奴隷なら奴隷らしく、床を這っておれ」
そう吐き捨てて、去っていった。
貴族がいなくなると、ナタリーさんが悲鳴に似た声を掛けてくる。
「アシャラ様!大丈夫ですか?!」
「大丈夫ですよ、伯爵で慣れてますから」
そう言うと、彼女はとても悲しそうな顔をして何かを呟いた。
私には聞こえなかったけれど、彼女は『慣れるものではありませんよ、アシャラ様』と言っていた。
部屋に戻り、ナタリーさんが香油を髪に付けてくれ、私は久しぶりのベッドで眠りについた。
翌朝、ナタリーさんが部屋に来て、食事と紅茶を用意しくれた。今日は、陛下にお茶会に誘われていた……けれど、昨日の貴族の言葉が脳裏をよぎる『下等な存在』
私は所詮奴隷…陛下と言葉を交わす事も、目を合わす事も本来ならば許されない事。
(だけれど……私は…)
昼間、私は1人馬屋に隠れていた。どうしても、茶会に行く事が出来なかったから。
陛下は顔に似合わずお優しいから、奴隷な私を哀れんで誘って下さったのでしょう。
ですが、行ってはいけない。立場があるのですから。
どれくらい時間が経ったのでしょうか
時間の経過は分かりませんが、太陽は傾き始め空を綺麗な鳥が横切っていく。
暫く見とれ、地上に視線を戻すと目の前に銀の狼がいた。
「!」
『探したぞ、こんな所で何をしている?』
「……へいか」
「わたくしは……」
『何も言うな、行くぞ』
立ち上がり、陛下の後ろをトボトボと歩く。陛下を避けたい訳では無い。
傍にいたい。
でも、そんな事が許されない事は分かっている。
狼がチラッと振り返り、再び前を向く。
『背に乗れ、アシャラ』
『茶会に遅れる』
「できません……」
陛下は『そうか』と言い諦めたように見えた。だが歩みを止め、アシャラの傍に来ると
股の下に潜り込み自身の背に座らせた。
「!へいか!?」
『走るぞ、アシャラ!落ちるから掴まっていろ』
何故か急に楽しそうな声を出し、走り出した。
狼の首に、落とされないよう抱き着いた。とても早くて、ずっとギュッと目を瞑っていた。
茶会の会場には、ルーカス様、ナタリーさん、グレッド様、ヴィムク様がいた。
みんな、私達の姿を確認すると安心しように顔を綻ばせた。




