第15話 砂漠の国の王2
謁見の間で、初めて挨拶を交わしたあの日。彼女は、眼を反らす事なく強い眼差しで俺を見てきた。
「ファルーク陛下、この度は拝謁賜りましてありがとうございます」
「本日より数日間の滞在許可、重ねて御礼申し上げます」
挨拶をした、彼女の服装は、ソルファレナ特有の衣装を身に付けていた。チョリと呼ばれる上着にショールを羽織、スカートにハーレムパンツを穿いた身なりだった。
彼女曰く
「郷に入れば、郷に従え。ですわ陛下」
「神聖王国の出で立ちでは、この国で動くには不便ですもの」
「だが、神聖王国の令嬢は、肌を出す事を良しとしないのだろう?」
「……確かに、そういう考えの者もいますわ」
「ですが私は、そうは思いませんの。服は、その国の良さが出ておりますでしょう?」
そう言って、シルフィア令嬢は笑った。
とても美しく、思わず見惚れ……てる内に挨拶を終えた彼女は謁見室を出て客室に向かっていった。
謁見室に残された俺は、言うまでも無く宰相にからかわれた。
「…くっく、結婚でも申し込みますか?」
「馬鹿を言え、彼女は神聖王国にて王太子と婚約してるだろう」
「えぇ、残念な事に…折角陛下が興味引かれた初の女性だと言うのに…残念です」
彼女が滞在中は、驚く事が多かった。
本来なら、ここに来るのは彼女では無かったが…外交としての能力が高いらしく、有利に事を進める為遣わされたのだそうだ。
有能過ぎて、敵に回したくないと外交官、宰相、大臣が話していた。
その上、軍司令官や軍団長が彼女は強いと褒めていた。
これ程に有能な人物が、神聖王国にはいるのか…薔薇の称号は伊達ではないと。
俺達は、この国だけは敵に回すまいと決めた。
「宰相、シルフィア嬢を探すよう通達しろ」
「畏まりました」
「それから、後々レンフォード殿とアルベルト殿が来る」
「この国での捜査ですか?」
「そうだ。自分達も探したいから、国での捜索許可を取りに来る、と」
「畏まりました。そちらの対応もしておきます」
「頼んだぞ」
(俺は少女の様子を見に行くか…)
彼女の様子を見に行くと、数日見なかっただけで様変わりしていた。絶望に塗り潰された彼女の瞳は光を失っていたのだ。俺は心配になり、ちょくちょく様子を見に行くが、彼女が反応する事は無かった。そして、言われてしまった「構わないで」と。
拒絶の言葉を言った彼女に会いに行く事は出来なかった。それでも、心配でこっそりと様子を見に行っていた。
「…陛下、完全に付き纏いですね。構い過ぎは嫌がられますよ」
宰相の言葉を無視し、その日も様子を見に行く。
雨が降っていた。
彼女は雨の中、ずぶ濡れになりながら俯き立っていた。その様子を建物の影から見ていた俺は、とても悲しくなった。降り続ける雨が、彼女の涙のようだったから。
人の往来が激しい広場で、街の人々も心配そうに彼女の様子を伺っていた。
ふと、顔を上げ空を見上げる彼女。
降り続けていた雨が、徐々に小降りになり止んだ。空を見上げると、2重に重なった虹を見た。俺は、彼女に視線を移し
「!」
笑っていた。
背筋を伸ばし凛とした雰囲気を醸し出した彼女は、気高さと強かさを併せ持った貴族の令嬢のようだった。
(…一瞬、シルフィア嬢だと思った……)
そんな事、あるはずがないのに…
彼女の瞳に絶望は無かった。光が宿ったその瞳は、見惚れる程綺麗な翡翠だった。
彼女の笑顔に皆が、俺だけじゃない、その場に居合わせた全ての者が彼女の笑顔に見惚れていたのだった。
少しずつ、イチャラブが書けたら良いな~と思ってます。
ただ、口下手で鈍感、女性の扱いが下手くそな彼との恋愛に進展があるのか心配になりますね。
恐らく彼女は、ヤキモキしそうです。