第11話 夢と現
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お城に向かう馬車の中で幼い私が、父親と会話をしている。
『お父様、これからお会いするお方が私の婚約者になるんですの?』
『そうだ、家名に泥を塗るような失態をおかしてはならぬぞ』
『分かっておりますわ』
……
…………これは、夢?
そうですわ、確か14年ほど前の…当時まだ6歳だった私と王太子フェルナンド様との婚約発表の日。
初めてフェルナンド様とお会いし、聡明で勤勉で、とても優しくて心惹かれたのを覚えてますわ。
初めてお会いしたあの日、フェルナンド様は私を城の裏庭にある花畑に連れて行って下さった。色とりどりの、とても綺麗な花畑でしたわ。
『フェルナンドさま、わたくし立派な王妃になる為に、王妃教育頑張りますわ!』
『!、うん、ありがとう。ボクも頑張るよ、シアに負けないようにシアの隣に立つに相応しい立派な王になる』
『約束ですわね!』
『うん!約束するよ』
嬉しそうに、笑い合う2人に、私はとても悲しくなった。今の私を見たら悲しむわね。
『フェルナンドさま』
『フェルでいいよ、シア』
『……!、フェルさま』
『なんだい?シア』
『えへへ』
はにかみ、心底嬉しそうにフェルナンド様の名を呼ぶ私。周りの精霊達も嬉しそうだ。
ああ、本当に幸せでしたわ。
あの頃は、フェルナンド様も民を心の底から愛し愛されていた。
何時から…いつから変わってしまったのかしら。気づけていたら、今も私たちはこの頃のように笑い合っていられたのかしら。
『あのねフェルさま、精霊様が……』
内緒話をするように、フェルナンド様の耳元に顔を寄せる幼い私。
何を言っているのか……分からなかった。
2人の姿が、白く霞んでいき完全に真っ暗になってしまったからだ。
もう、あの頃には戻れない。
ああ、幸せな夢も終わりなのね。
さよなら、私の……フェルナンドさま。
意識が浮上し、目を開ける。
眩しさに、瞬きを繰り返し、自分の状況を顧みる。
私は……そうだ!魔獣ですわ!
ガバッ!
「つっ」
全身の痛みで、起き上がりかけた体を再び倒れるように横たえる。
ポフッ
(ん?)
私の体を受け止める何か。
柔らかい何かに受け止められた。
恐る恐る、横を向くと、狼が、こちらを見ていた。私の頭は狼の腹の上に乗っかっていた。
狼は私の顔をペロリと舐め、自分の足の上に顔を乗せた。私を見つめる目は、とても優しく。先程の嫌がりようが嘘のようだ。
手を伸ばしても、狼は逃げようとはしなかった。頭に触れて、優しく撫でる。とても、ふわふわで触り心地が良かった。
気持ち良さげに目を細め、尻尾で私の顔を撫でた。
(ああ、私はようやく自由なのね)
穏やかに時間が過ぎていき、私は安堵しきっていた。撫でるだけでは足らず、狼に抱きつき腹の上で微睡んでいた。
首に付けられた魔道具が、微かに淡く点滅している事に気付かないまま。
狼が、魔道具の異変に気付き警戒を強めている事に気付かないまま。
私は、再び眠りに着いた。
けたたましい音で、私は目覚め体を起こす。
狼も警戒心を顕にし、辺りを見回す。
何が起きたのか、直ぐに分かった。
数頭の馬がこちらに向かって走ってきたから。馬の背に乗る男が、私を見やる。
「あ……ああ」
私は逃げられない事を、この時に悟った。魔道具に何かしらの細工がしてあるだろう事も。
ニヤリと笑う男達が、ロープを取り出す。両端を2人の男が持つ。距離を取り、私たちの所まで駆け寄ってくる。
狼が向かって行くのを止め、私は狼に別れを告げた。
「そば…ありがと……で、も…さよなら」
次の話数から、また、残酷な描写及び暴行的発言が多く出ます。苦手な方は遠慮して下さいね。