第10話 銀狼
まだまだ、暑い日が続きます。
皆様、体調は大丈夫でしょうか?
本日最後の投稿は、銀狼目線です。
銀狼編
(……ん?)
俺は、ふと、気配を感じ顔を上げる。
すると、側近達が、怪訝そうに俺を見た。
「どうかなさいましたか?陛下」
「……いや」
(気のせいか?)
再び書類に視線を落とし、政務をこなす。
ここ最近、魔獣の動きが活発になりつつある。対策を取らねばならん。
「各地の様子はどうだ?」
「兵士を派遣してる事もあり、今の所、魔獣の被害が出てる村はありません。」
「そうか、魔獣発生の理由さえ分かれば対策も取れるであろうが…」
頭を抱え仕事に取り掛かろうとした…だが
ピューー
バタァーン
それは、同時だった。
俺の顔に張り付く者と、兵士が駆け込んで来たのは。
「……何事だ…?」
「陛下……それが!」
『たいへん!たいへんなんだょお』
「魔獣が発生し」
『まじゅう!なかま!』
「商人を襲っているそうです!」
『なかま!あるじ!たすける!』
同時に話され、要領を得ない。
ましてや、精霊は俺の顔に張り付いたままだ。緊張感が無い。
『はやく!はやく!』
「分かった、案内してくれるな」
『うん!あんないする!』
直ぐに、出かける準備をし変身する。
俺たち、ソルファレナの王族は代々獣に変化する能力を有してる。父は獅子だったし、祖母は鷹だった。そして俺は狼、能力も比較的強い分類に入る。
精霊が言っていた主が気になるが、俺は急ぎ宮殿を出た。
宮殿を出て、砂漠を駆ける。
風の精霊の力を借り、魔獣の出た地点まで駆け上がる。
かなりの距離を走り抜けたが、魔獣が発生したのはセレスティナとの国境付近か?
目の前を飛ぶ精霊に目を向ける。精霊は本来、自由気ままでのんびり気質だ。こんなに焦った精霊を見た事がない。主様が原因なのか?
『おうさま、おうさま!もうすぐ!』
「分かった」
俺は、走るスピードを上げる。
近付くにつれ、魔獣の発する瘴気が濃くなってきた。
だが、たどり着いたその場所に、魔獣はいなかった。
(既に移動した後か)
食べカスと思われる馬の死骸が、転々としている。恐らく、獲物を探しに行ったのだろう。だが、まだ遠くに行ってないと思う。
(後手に回れば、手遅れになる!どうする?)
『おうさま!なかま、よんでる!』
『あるじさま、きけん!たすけて!』
『どこだ!!』
俺は念話で問いかける。主様を気にしてる場合じゃない!手遅れになる前に、助けなければ!
『こっち!こっち!』
少し駆けるとオアシスが見えてくる。すると精霊は…
『このさき!オアシス!あるじさま、たすけて!…ワタシ、モウ、イケナイ!』
悲しそうな顔をして、精霊は離れていく。
何が何だか分からないが、取り敢えず精霊が指し示したオアシスに向かう。そこに居たのは、水辺に座り込む1人の女だった。
『魔獣はどこだ?』
魔獣の気配を探るため、臨戦態勢のまま辺りを見回すが女だけだった。
だが、油断は出来ん。この女とて、味方とは限らんのだから。
この女から発せられる気持ちの悪い魔力がさらに、俺の警戒を強めていた。
『っつ!』
嫌な気配を感じた。
女が這うようにして離れた先に、巨大な魔獣が立っていた!
『まずい!』
魔獣は、女に狙いを定めている。女は恐怖で動けないのか、魔獣を見つめたまま微動だにしない。このままだと食われる!
「ギャァウ!」
女に渾身の力で体当たりをした。まずった!流石に全力はまずかったか!?女はかなり転がっていった。
だが、魔獣は女から俺に狙いを定めたようだ。本来なら人に戻り戦う所だが、見知らぬ女の目の前で変化を解く気にならん。この姿のまま戦う事にする。
魔獣を倒し終え、女の方を向く。
『怪我などしてないだろうな』
女を怯えさせないよう気を付けながら、近寄る。怪我の有無を確かめる為、鼻先を近づけると、女は前髪を上げた。その瞳を見て素直に綺麗だと思った。
ペロペロと顔を舐めていると、女は急に倒れた!
『なっ!?おい!大丈夫か?!しっかりしろ!』
女は気を失ったようだ。何者か分からないが、身なりからして、奴隷だという事に気付いた。片言の言葉、やせ細った身体、一体どんな目に合ってきたのか……
女の体に寄り添い、目が覚めるまで傍にいてやることにした。
俺は、この時、まだ気付いていなかった。
彼女が神聖王国の公爵令嬢だという事に。
以前、1度会ったことがある事に。
そして、精霊が言っていた主が彼女だという事に。
お楽しみになりましたでしょうか?
誤字、脱字が多いかと思います。
気づいた時に修正するようにしてますが、気になった方はご報告くださいませ。