第9話 精霊の嘆き
精霊編
『いないね』
『うん、ここにもいない』
『どこかな?』
『あっちかな?』
ムカムカムカムカ
『なぁーんでなのよー!!』
街から少し出た所にある、森の入り口で小さき者達が騒いでいる。
木の葉のざわめきに、かき消されそうな程小さな声。精霊達だ。
『なんーで、見つかんないのよぉー!』
『シアさまぁー!』
『ミイ、おこってるね』
『うん、おこってる』
『みつかんないからね』
小さい精霊達と中くらいの精霊が、辺りをパタパタしながら、何かを探してる。
あの日、兵士に連れられて消えた主を精霊達は探していた。あの日、自分達は傍を離れ、遠くから見守っていた。気が付くと会場から主の気配が消えていて…
会場にいた精霊を、捕まえて問い詰めた。
事情を知った中位精霊ミイは、急いで主の気配を追い森の入り口付近まで来たのだ。
でも、そこで主の気配が消えた。
死んだ……では無いと思う。弱ってく感じがしなかった。
だから、必死に探してるのに…みつからない。森の中も探してるのに、みつからなかった。苛立ちばかりが募っていく。
人間と話せれば、こんなに苦労しないのに!
人間が私達を感知出来たら、苦労しないのに!
『どうしよ、どうしよ』
『おうさま、おきない?』
『うん、まだ、おきない』
過去に起きた大きな事件のせいで、精霊王様は眠りについていた。大きな力を使ったせいだ。それだけじゃない、人間の魔術師も眠りについていた。私達を感知できる数少ない人間なのに…
『こんな時に、こんな事になるなんて』
『おうさま、なく?』
『おうさま、おこる?』
早く、見つけなければ
精霊王さまが目覚め、この事が知られれば、人間を滅ぼしかねない!
『探すの!王さま、起きるまえに!』
『うん!さがす!』
『さがそう』
『さがそう』
ミイは、まだ知らない。
この時、主たるシルフィアが地下で拷問を受けてる事を。
結局、精霊王にバレて怒りを買い、7日7晩神聖王国に嵐が吹き荒れる事を。
必死に探し、砂漠の国でようやく主を見つけた精霊達は安堵した。……が、それも束の間、何故か主に近づけない。上位精霊なら、原因が分かるかもしれないが、自分達には分からない。
魔獣に襲われ、主に危機が訪れてるのに自分達には何も出来ない。そもそも近づけない。
『何でよ、なんで、助けれないの?』
『あるじさま』
『……つっ』
『逃げて!逃げて!主さま!』
力いっぱい、声を張り上げる。こんなに離れては、届かないと分かってる。それでも、諦められない。
届け!とどけ!とどけぇー!
声が届いたのか、分からない。でも、主さまは立ち上がって、こっちの方に走ってきた。
魔獣は、まだ食べてる。逃げられる!
『こっち!』
『大丈夫だから!』
『走って、走って!』
『もう少しだから!オアシスだから!』
主が、こちらに向かって走ってくる。精霊達は、1人、また1人と離れていく。
気持ちの悪い、魔力の波動を感じるからだ。
『ミイ、ダメ、ボクも…』
『あとは任せなさい、主さまの無事確かめたら、私もいくから』
『うん、キヲツケテ』
主さま、ごめんね。今は、何が起きたのか分からない。でも、絶対助けるから。傍にいなくても、傍にいるから!
ルイさま達と合流して、助けるから!
『待ってて、主さま』
本日あと1話、銀狼目線を更新します。