時間よ 止まれ
「私は今、砂漠のど真ん中にいる。すごく喉が渇いて水が欲しい。いでよ。コップ一杯の冷たい水!」
私は魔法の呪文を現代風にわかりやすく唱えた。
「失敗かぁ」
マッチの火を連想しても火は出ないし、やっぱりファンタジーには程遠いんだね。
今出来る魔法は時間を止めるだけだよ。なんか凄く役立ちそうなのに何も思いつかない。そりゃ 泥棒とか簡単なんだろうけど、犯罪に使っちゃダメだよ。悪い人から盗むくらいはいいか?でも、然るべきところに返してその御礼を貰うってのもみみっちい。
今日のバイトは『ヨッシー』だ。この子は高一の癖にしっかりしていてひとりで全部やってくれるんだよね。
私はお客さんと遊んでるだけでいい。楽勝だ。
「あーん。また負けた」
ヒロ君って言ってカードゲームファン。相棒のカズ君がまだ来ないから私がカードゲームの相手をしてあげた。
私が勝ったら飲み物注文するんだぞ!負けても注文だけど。
でもね。ヒロ君強いんだよね。私のカードを見ているんじゃないかってくらい強い。透視能力か?ヒロ君も魔法が使えたりして。
「じゃあ、俺が相手しよう」
誰だろう、見た事ないお客さんだ。ってメイドの私じゃなくてヒロ君を相手にするの?
私は、他のお客さんの相手もしなきゃだから、ヒロ君の相手はお願いしようかな。
お客さんみんなに声かけて来てから、戻るとヒロ君がただならぬ雰囲気。
「実はお金かけて3万円も負けているんだ。もう、お金ないよぉ〜」
ちょっと、私の店でなんて事しちゃってくれてるのよ!
「私が取り返してやるわ。いい?三万円勝負よ!」
「だって、のんのんって貧乏だし、弱いし、ダメだよ」
「大丈夫よ。その時は身体で払うわ。カズ君がね」
「よくわからないが、俺はなんでもいいぞ」
私の勝負が始まり、様子を聞いた店のお客さんが集まって来た。
「俺の後ろに立つな!お前らメイドの味方だろう。全員あっちに行け」
私の後ろに何人も集まっている。ちょっと怖いけど頑張ろうっと。でも私弱いんだ。よし、時間を止めて!
「お願いヒロ君のため、関係ないカズ君を犠牲にしないで!止まって!」
よしよし、ちょっとズルいけど相手の手札覗いておこう。うんうん。覚えたぞ。時よ戻って!
相手の手札が見えちゃえば、簡単さ。私は優位にゲームを進めた。みんなもノリノリで応援してくれる。盛り上がって来たよ。
え?返された。私が弱いから?なによ!そのにやけた悪い顔は。やったなぁ。イカサマだ。さっき見たカードと違うカード出して来た。
この人はカードのすり替えをしてヒロ君に勝ったんだ。
だから、後ろに立つなって怒ったのか。もう二度とお店に来ない様にコテンパンにやっつけてやる!
ヒロ君のカタキ!思い知れ!
私は最後の勝負どころで逆転を狙う。
(よし、今だ)
時間を止めて、相手が出す寸前のカードをすり替えちゃえ!私が勝っちゃうカードを出させて自爆だよ。
時よ!戻れ。
イカサマ師は自信満々に出したカードを見て
「ちょっと待った。間違えた!」
後ろのギャラリーは当然許さない。
「もう出したんだから負けだよなぁ」
「そんなバカな。間違いなんだ。そうだろう。ここで自爆するなんて。俺が間違えるなんてあり得ない。」
パラパラって隠しカードが落ちた。
私が落ちる様にちょっと細工しといたんだよ!テヘッ
ヒロ君が叫ぶ!
「おまえ、イカサマしていたのか!俺のお金、返せ」
みんなが睨んでいる。イカサマ師も焦っている。
「わかったよ。返せばいいんだろ。ほらよ」
私はテーブルの上に置いた三万円をヒロ君に渡した。
「気分悪い。俺帰るからな!」
「じゃあ、私に三万円払ってね」
「は?さっき返しただろう!」
「みんな!私、三万円の勝負して勝ったよね!」
「ああ。あと三万円払うべきだろう。当然だ。俺たちみんなが証人だ」
「さっきのはイカサマのお金。今度は勝負に負けたお金だと思う。」
「なんだとぉ。てめえら、俺様をなめるなよ」
「ストップ!」
私は時を止めて、殴りかかってきた男の足に棒を挟む。そしてポケットから財布を抜いて置く。
男はものすごい勢いで転んだ。私は頭を踏みつけて全体重をかけた。
「警察には言わないから、もう二度とお店に来ないでくね。もちろんあなたのお財布からお金は貰うよ。ちょっと足らないな。仕方ないか。利子は一日につき倍ね。今度お店に来たら払って貰うから」
私は脚を退けた。男は真っ赤な顔をして逃げていった。
歓声が湧いた。
「ノンちゃんありがと。助かったよ」
「ノンちゃん。大手柄だね。あいつ馬鹿だなぁ。自分で転んでやんの」
「俺もノンちゃんに踏まれたい!」
ひとりキショいのがいるけど、まあいいや。久しぶりにお小遣いが出来たし。