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テンゴク  作者: 和尚
第3章 異世界でもダメ、ゼッタイ
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第38話 教会のハーブ畑



 アイビス達が『薬局』対策の会議を開いて、今後の方針を色々と決めた、その翌日。


 ところ変わって、ここは、レオナたちが食事の炊き出しのために先日利用した『教会』。

 そこでレオナは、シスターから割り振られた仕事の手伝いをしていた。


 今日は炊き出しはないが、時々こうしてレオナ達は、何もなくてもこの教会の色々な仕事の手伝いをするために顔を出しているのだ。

 常日頃から気にかけてもらっている恩返しのためでもあり……お駄賃としてもらえる、わずかなお小遣いや、質素ながらも美味しいおやつが目当てでもある。


 だが、今のレオナの頭の中には、そんなものは微塵もなかった。考える余裕も含めて。


(あー……忘れようとしても、考えないようにしても思い出しちゃうよ……)


 彼女は、半日ほど前の自分の失態を思い出して、はぁ、とため息をついていた。


 昨夜、事情聴取を終えたレオナは、得られた情報の価値を鑑みて、その罪を許され、解放された。その際、すっかり遅くなってしまった時間を鑑みて、カロンに送っていってもらった。


 知らなかったとはいえ、恩人に弓を引いてしまった罪。それに対する償いとして、どんな厳しい処罰も覚悟していた彼女からすれば、肩透かしではあったが……好んでそうなりたいというわけではないのも事実である。安心している自分もまたいることに気づいていた。


 とはいえ、心の底から感謝し、尊敬していた人を、意図せずして裏切ってしまったという事実が彼女の心にもたらした影は大きい。


(あの夜のことは全部一切秘密にする、誰にも言わない、っていう条件で許してもらったけど……カロンさん、怒ってたなあ……。絶対嫌われたよね……うぅ……)


 自分のやったことが、カロン自身以上に、アイビスに対して害になる(強さ的に足りなかったとはいえ)というものだったがために、アイビスを敬愛しているカロンからの敵意や怒りは、レオナが心の底から怯え、絶望するに足るものだった。


 もっとも、その絶望は、必ずしも恐怖からだけのものではないのだが……


 そんなことを考えていると、ふと目の前に影が差す。

 見上げると、自分より頭一つ分背が高いシスター・シャーリーが、やれやれといった感じの表情になってレオナの方を見下ろしていた。


「レオナちゃん……さっきから変よ? 何か、つらいことでもあったの?」


「え、えっと……いや、大丈夫だから」


「大丈夫そうに見えないのよ……疲れてるようにも見えるし、その目、うっすらだけど隈ができてるんじゃない? 今日はもう、帰ってゆっくり休んだ方が……」


「い、いや、大丈夫だよホントに! ……体動かしてた方が、気が楽だし(ぼそっ)」


 最後に呟かれた一言は、シャーリーの耳には届かなかったものの、実際、シャーリーから見て今日のレオナは、手を動かしてはいるものの、あきらかに気分的に何か落ち込んでいるのが丸わかりで、彼女のみならず他のシスター達、それに一部の孤児もわかるほどだった。


 そこから一番に想像されるのは、彼女が孤児であるがゆえに、過酷なスラムでの暮らしを生き抜く中で、人には言えないような危ない橋を渡っているのではないか、という懸念。


 しかし、今までにも何度もそう疑い、聞いてみるたびに……気丈にふるまって『大丈夫』『何でもない』と言ってのける彼女に、シャーリーや他のシスター達はいつも何も言えずにいた。


「ならいいんだけど……この前も言った通り、レオナちゃんに何かあったら悲しむ子はいっぱいいるんだから、無理しちゃだめよ? そうね……なら今日は、レオナちゃんには別な仕事を頼もうかしら」


「? 別な仕事?」


「ええ、菜園のハーブの手入れと刈り取りをお願いしようかしら。やり方はわかるでしょ?」


 そう言って、教会の中庭の一角にちらっと視線をやるシスター・シャーリー。

 それを反射的に追って、レオナも同じ場所を見る。


 そこには、そこまで大きくはないが、小さくもない、という規模の家庭菜園が形作られていた。同じ孤児たちのうち、力が弱く、力仕事に向いていない小さい子や女子などが、そこでシスターが言った仕事を黙々とこなしている。


 そのスペースに植えられているのは、何種類かのハーブである。


 もちろん、現代日本で言うような隠語としての『ハーブ』ではなく、ハーブティーに使ったり、時には薬の原料になったりする……どちらかというと薬草の一種だ。


 ある程度の広さの土地と、こまめな世話。その2つさえクリアできれば、さほど難易度も高くなく、素人でも栽培可能であり、売れば多少ではあるが資金源になる。この教会の家庭菜園も、その目的や、一部は自分達でハーブティーにして飲んだりするために栽培していた。


 通常、レオナよりも幼く、小さい子向けの作業になるのだが、疲れている子などにとってはむしろ丁度いい、楽にできる作業とも言える。


 ……一番いいのは、疲れを取るために何もせず休むことだろうが。


 明らかに、何かしらの無理をしている自分を気遣った指示だったが、レオナは今日は素直に従っておくことにした。


 久しくやっていないが、植物の世話や土いじりは、心を落ち着けるにはいいかもしれない。そんな風に考えて、レオナは運ぼうとしていた荷物を置いて、中庭に向けて歩き出し……


 ……その時にふと、あることを思い出し、シスターに尋ねる。


「ねえシスター。あのハーブってさ……ドギューラさんからの勧めで作ってるんだよね?」


「ええ。教会の収入源にいかがですか、ってね。作り方も丁寧に教えてくれたし……実は、ここのシスターにも趣味の感覚で世話してる人も多くて、いい気分転換になってるの。あなた達との交流も含めてね。おまけに、できたハーブはドギューラさんがいいお値段で買い上げてくれるしね」


 ちょっとお世話になりっぱなしだけどね、と、ややばつが悪そうにするシャーリー。


 レオナはそれを聞いて、改めてその菜園を見る。

 自分達に危ない仕事を回してくる男の勧めで作ったという、見る限りでは、ごく普通で平和な様相を醸し出している、生い茂ったハーブの数々を。


(……何か危ないものを作ってるんじゃないか、って心配だったんだけど……これだけ堂々と作ってるのに、憲兵とかは何も言ってこないみたいだし、そんなことないか。第一、ここのハーブは、シスター達も時々、ハーブティーとか食事の添え物にして普通に食べてるもんね)


 頭をよぎった嫌な想像は早々に追いやり、レオナは自分もそのハーブを育てる作業に参加すべく、すたすたと歩いて行った。


 ☆☆☆


 とりあえず、状況を整理しよう。


 レイザーの調査で、縄張りで『薬局』やってる下手人が、元・構成員のベアードっていう男だってことは知れた。どこに潜伏しているとかは不明だが。

 さらに、出回っている薬物の調達経路も不明だ。


 そこまで大した量じゃないとはいえ、細々とやり取りできるような量でもないはずなのに。


 その薬物についての情報も、簡単にだがもらっている。

 どうやら、これまでにはない種類……つまりは新種のドラッグらしい。


 というか……種類や成分だけでなく、その性質が明らかに違うらしい。


 通常、わずかな量でも大きな額が動くのが違法薬物だ。グラム単位数千円、数万円なんてざらにある……ああ、この世界だと『ロール』だけども。


 新種の薬物が出回る時も、その大前提……『かさばらなくて高く売れる』を基本的に順守して作られる。依存性や感じる快感が強かったりすればなおよし、って感じでだ。


 だが、今回問題になっているこれは、その真逆。


 まず、加工の丁寧さがかなり粗い。というか、雑だ。形状が粉末なんだが、全部が粉になり切っていない、繊維質みたいな固形物とか残ってる。


 手に入れたっていうサンプルを見せてもらったんだが、見た目一発、粉末として品質がよさそうには見えない感じだったな……。色も変だし。

 かさ増しのまぜものするにしたって、もうちょっと丁寧にやるだろうに。


 量はけっこうかさばる。一回に使う量がそこそこ多いようで……粉をパイプに入れたり、たばこ用の巻紙でくるんだりして吸うのが主な使い方だそうだ。

 同じようにする薬物が他にないわけじゃないが……それにしたって違いは大きい。


 そして、品質はお世辞にもいいとは言えず、その代わりになのか値段は安い。また、禁断症状も弱く、総じて、従来のドラッグにあるような『ヤバさ』がかなり緩和されてるイメージがあり……それが、まだまだ一部とはいえ、常連が付くくらいに広まっている一因でもあるようだ。


 ヤバいイメージをごまかして売りさばくやり方は昔から主流だが……値段が安い、ねえ?

 薄利多売なんて、一般的な薬局の現場ではまずありえねえ考え方だ……そういう意味じゃ、革新的なのかもしれないが……いや、そんなもん褒める意図は全くねーけども。


 それに、入手経路が全く不明、っていう点も気になる。流通している量からして、そこそこのラインがなければ供給ができないはず。同時進行でレイザーが、あくまで通常業務に見えるようにこっそり探してはいるものの……未だに見つかる気配がない。


 なら、自分達で持っている拠点で秘密裏に作っている? 作ってから薬物に加工するまでを全て秘密裏に、物理的に隠れて行っているから目につかない?


 それは……考えづらい。

 これは俺だけでなく、レイザーやソラヴィア、それにデモルやルゥナにも共通の見解だ。


 そもそも、大麻草やケシ等の植物から作られる薬物は、温度や湿度の管理のため、それ相応の設備を用意しないと栽培するのは難しい。室内でやるには、近代レベルの換気設備が必須になる。

 屋外で栽培するのはそれよりも比較的楽だが、それなら今度は目立つことになる。


 現在出回っている量を生成するために必要なだけの畑やプラントが、そう上手く隠して設置できるとも思えない。


 ……というか、そもそも何の植物から作られてるのかって点がわかってないんだけどな。

 分析した結果だと、植物が原料なのは間違いないが……今までと似たような効能はあるものの、これって感じでぴったり一致する植物が見つからないそうだ。


 なので、それっぽいのを探すしかないのが現状であり、もしこれが今までにない全く新しい植物とかだったりすると、さすがに探すのは難し…………ん?

 

(あれ、何だ? 今何か、ひっかかるような『何か』が頭に浮かんだ気が……?)


 それっぽいものを……安い値段で……見た目……植物……まぜもの……まぜ?

 いや、もっと何か……そんな感じの、前世の知識に、似たようなのがあった気が……


「兄貴、兄貴、ついたっすよ」


「ん? おっと……そうか」


 と、そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか俺たちは目的地に到着していた。


 そこは、この間レオナに教えてもらった……彼女が時々手伝ったり、炊き出しを食べさせてもらっているっていう教会。


 拠点に顔を出したところ、留守だった。ここにいるって言うんで、来てみたのだ。


 ……なんというかこう……あんまり設備的に充実しているというか、整っているとは言いづらい状態だな。あちこち痛んでるようだが……恐らくは予算不足か何かで、修繕できない?

 まあ、このご時世、どこの建物も似たようなもんだが。


 まあでも、コレはこれで質素なイメージが出て悪くはない……なんて考えていると、向こうからゆっくり歩いてくる1人のシスターが目に入った。


 そのシスターも、歩いてる途中でこちらに気づいたらしく、俺たちに向けてぺこりと一礼。

 俺もカロンも、返す形で会釈しておいた。


「こんにちは。何か教会に御用でしたか?」


「ああ、どうも。ちょっと知人がここに来ていると聞いたもので、訪ねて来たんですが」


 見た感じ、まだ若い……それこそ、女子高生くらいの年齢じゃないかな、このシスター。

 まあ、この世界じゃそのくらいの年齢で働いてるのなんて当たり前だし、不思議でもないか……シスターって職業自体は、わりと珍しい方ではあるけど。


「レオナって女の子なんすけど、知らないっすかね?」


 と、カロンが聞くと、シスターは『あら』と少し驚いた風な顔になって、


「レオナちゃんですか? でしたら……はい、今日ここにお手伝いに来てくれていますけど……あの、失礼ですが、どういったご用件で?」


 あーっと、どう答えたもんか……ありのままを話すってんじゃあまりに露骨というか、アレだしな……このシスターさんがレオナの『バイト』のことを知らないようなら、なおさらだ。

 上手い言い方はないもんかと考えていた、その時だった。


 さっきシスターさんが歩いてきた方向から、何やら慌てた様子のレオナが走ってきたのは。


「し、シャーリーさん! 大変! ビンクスがケガした!」


「あら、レオナちゃん。今ちょうど……え? 今何て……ケガ!? 本当!?」


「うん! 運んでたレンガを足に落とし……って、あれ!? か、カロンさんとアイビスさん!?」


 『何でここに!?』と驚くレオナと、『やっぱり知り合いなのか』とこっちを見るシスター……シャーリーって呼ばれてたな。


 いや、そんなことより。


「あーっと、まずいいや。ケガしてる子がいるんだろ? 俺らの用件は後でいいよ」


「え、あ……は、はい、すみません。ありがとうございます。シスター、薬箱とかある!?」


「あ、あるけど……い、今行くわ!」




 シスターとレオナが2人して走ってったのを、なんとなく追いかけて俺たちも教会の中に……その中庭に来てみると、そこには足を痛そうにおさえて泣いている、小さな男の子がいた。


 足には、そんな大した量じゃないが、血がついてて……それを見た周りの子供たちや、シスターは顔を青くしている。

 R15指定の映画みたいなグロ画像になってるわけじゃないが、血の赤色ってそれだけでも結構なインパクトだからな、無理もないだろう。


 そのケガを治すために、シャーリーさんは別なシスターが持ってきてくれた薬箱から、薬を出してその子の足の傷に塗り……


 ――おぅ、中々の大音量。しかも子供特有の甲高い声。耳キーンってなった。


 うん、まあ……こういう時の薬って総じてしみるもんな。そりゃ泣くよな。子供だし。

 あー、暴れる暴れる……薬縫って包帯巻くのも一苦労だなこりゃ。


 けど、こっちとしては……その子をないがしろにする意図じゃないけど、さっさと終わらせて話をしたいというか……。実はこの後、俺もカロンも用事がないわけじゃなくてね?


 なので……しょうがない。


「どれ……ほら坊主、ちょっと見せてみな」


「えっ……? あ、アイビスさん、ついて来てたんですか!?」


 ちょっと横からシスターさんとレオナに割り込む。


 その2人含め、『何だこの人?』みたいな感じの、怪しさを咎めるようなそれも混じった視線が、あっちこっちから飛んでくる。


 結束が強いというか……この怪我した彼が何か変なことされないのか、注意してんのかね?

 それはそれで結構なことだ。視線も、気にしなきゃいいだけの話だし。



 まあそれも、治癒魔法で男の子のケガを治すまでだったが。



 そこからはわかりやすいというか単純というか。子供たちからは、魔法を使ってけがを治してしまった俺は、あっという間にヒーロー扱いになってしまった。


 彼らにしてみれば、見る機会自体ほぼないもんだろうし……それで助けてもらえたってんだから、色んな感情が後押しして、警戒心がひっくり返ったみたいになってるな。

 まあ、子供なんだし、無理ないのかもしれないが。


 その辺を適当にいなし、何回か『ほら仕事に戻れー』と声をかけて、ようやく子供たちを散らし……その頃には既に、カロンからレオナに、用件を伝え終えたところだった。


「そういうわけで、今回は……まあ、さすがにお咎めなしってのは難しいかもしれないが、そこまで深く責任追及するってこともないから。それを伝えに来たんだよ。せいぜい、後で何かしら仕事を手伝ったり、頼み事を聞いてもらう程度に落ち着くと思う」


「そう、ですか……ありがとうございます」


「できれば、これに懲りて……今後はきちんと仕事とか選んでほしいもんだけどな」


「はい……今回は本当にすいませんでした。これから、気を付けます」


 諭すような感じで、カロンはレオナに言い聞かせていた。


 2人とも小柄だし、なんか雰囲気も近い(そしてどっちも獣人)せいか、妹をしかる兄、みたいな感じに見えなくもない。もうちょっと色気がある……互いにあと何年か経って成長した感じなら、友達、あるいは恋人同士にも見えたかもしれないな。


 そんな風に考えていると……ふと、その向こう側にある、あるものが目に入った。


(? 畑……いや、家庭菜園か何かか? この匂いは……ハーブかな)


 恐らくはそんなところだと思う。アマチュアないし趣味で、あるいは小遣い稼ぎのためにやっているのかもしれないが、面積だけ見れば結構なもんだな。


 ふと見ると、偶然か、カロン達も同じように向こうのハーブ畑を見て何か話している。

 その途中……よく見てなければわからないが、なぜかカロンの目が一瞬鋭くなった。


 直後、契約のパスを介して念話テレパシーが届く。

 

『兄貴、たった今レオナから聞いたんすけど……あの畑、例の奴の勧めで作ってるみたいっす』


『例の奴って……ベアードか?』


『ええ。レオナは例によって、ドギューラって呼んでるっすけど。そいつが、教会の資金長達の足しにいいんじゃないか、って勧めたそうで。しかも、育ったのを定期的に、結構な量買っていったりもするそうで……』


 ……なにそれ怪しい。


 だが、確認してみたところ……植えられているのは、特に怪しかったり危険だったりもしない、本物というか普通のハーブだった。

 レオナの話では、ハーブティーとかにすることもあるそうで。


 そうして教会のシスターさんたちが飲むし、時々レオナ達もごちそうになるそうだ。


 なら……ふと頭をよぎった、あのハーブが原材料か何か、って可能性は……ないか。


 けど同時に、カロンからは気になる情報も入った。


 サンプルとして、レイザーが持ち込んだ例の『薬物』を見せてもらったんだけども、その時にカロンが覚えた、その薬の匂いと……あれらのハーブの匂いが、少しだけ似ていたのだという。


 『同じ』でも『全然違う』でもなく『似ていた』。

 それも……植えられているハーブのうちのどれかが、ってわけじゃなく……どういうわけか、畑全体でそういう印象を受けたのだそうだ……どういうことだ?


 あのハーブを……メインの成分ではないにせよ、材料として使っている? いや、そんなん聞いたことも……ドラッグにいらんもの混ぜたら、まぜもの扱いになるだろう。品質駄々下がりだ。


 あるいは……そういう扱いにしても問題ないタイプのドラッグ?

 または、特定の調合でドラッグの成分が表出する、隠された秘伝のレシピみたいなものが……?


 前者はともかく、後者だとしたらちょっと手に負えない部分が出てくるな……剣と魔法の世界だけあって、『そんなもんないだろ』とは言い切れないわけだし。それでなお『新種』……いままでの記録になく、当然知識にもないようなものだった場合は……きっついな……。


 それに、仮にそうじゃなくて別の可能性……さっきの2つのうちの前者だったとしても、それはそれでわけわからんよなあ。混ぜ物が入っても問題ない薬物なんてあるわけない。


 注射か吸引か……方法に違いはあれど、体の中に入れるものだけあって、品質は重要だ。適当なものを混ぜてかさ増しして、儲けを優先するなんて………………待てよ?


(……まぜものするなら、アウトだ。確かに、どう考えても。けどもしこれが……ハーブを加えるのが『まぜものじゃない』としたら? その場合、ファンタジー特有の不思議調合とかのレシピの可能性もある、が……もし、それも違うとすれば、考えられるのは……)


 そもそも、ちょっと目に入った程度の家庭菜園から、似た匂いがする、ってだけのとっかかりだ。いくつも想像やらこじつけで補填した部分があるし……仮に、この菜園が例の『薬局』とつながりがあると仮定するなら、そりゃ色々無理があるってもんだ……少なくとも、現状は。


 ただ、今頭をよぎった1つの考えというか、可能性は……個人的に、そう遠い想像じゃあないように思える。意外とあるんじゃないか、って思えた。

 さらに言えば、さっき出そうで出なかった、ひっかかっていた『何か』の正体でもあった。


 要するに……まだあくまで可能性、ないし妄想の領域ではあるものの、妙に全てのピースがぴっちりはまっちまったんだよな……それこそ、『可能性として』無視できないくらいに。


 結構な量が出回っているにもかかわらず、見つからない供給ルート。

 原材料のわからない、植物由来と思しき粗い粉末。

 薬物から感じ取れた、ハーブっぽい匂い。それと似たような匂いが、家庭菜園から。

 家庭菜園でハーブを栽培するのはベアードの入れ知恵。時々買っていくらしい。


(さっき考えた条件。もし仮に、ここで栽培されてるハーブも、例の薬の材料の1つで……けど、まぜものの扱いになるんじゃなく、むしろメインの材料で……なおかつ、秘伝の調合法とかで変な超反応を起こしてドラッグになるとかじゃないとすれば……それに当てはまるのは……)


 ……ある。あるぞ、そういうドラッグ。


 これも同様に、俺の想像が正しければ、だが……妙なところで、現代日本との共通点というか、同様の進歩とげてんな、ドラッグ業界。


 いや……単にそのベアードって奴が考え付いたものなのかもしれないわけか。

 それはそれで脅威だけど。『優秀と言える男だった』っていう評価は妥当だったわけだ……こんなやり方を思いつくのだとすれば。


 もし、俺の予想が正しければ……『薬局』で扱われている、あの薬の正体は……




(おそらく……『脱法ハーブ』だ……!)





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