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テンゴク  作者: 和尚
第3章 異世界でもダメ、ゼッタイ
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第37話 進展と下手人



「さて、まず自己紹介から始めるか。初めまして、嬢ちゃん。俺はレイザー……ここに居る連中の兄貴分で、まあ早い話……こいつらより偉い人だと思ってくれればいい」


 さっきまで俺が座っていたソファに腰かけて、レオナに正面から向かい合い、レイザーは気さくな感じでそう挨拶した。


 もっとも、床に座っているままのレオナからすれば……いくら気さくに話しかけてもらえたとしても、緊張を緩めることなどできなかったと見えるが。


 まあ……さっきまでも、状況やら何やらに十分緊張して怖がってたもんな。

 俺やカロンに対して、すでに知っている『偉い人』だとか『恩人』っていう立ち位置があったとしても、純粋に沙汰を待つ身っていうのはそれだけ体が固くなるものだし。


 そんなところに、俺らよりずっと偉い身分というか立場にいるレイザーがやってきたんだから、もうこの後自分がどうなるか全くわからなくなっているだろうな。


 この世界は、命の価値が軽い。貴族とかならともかく……スラムの子供の命なんて、社会的には虫けら同然に扱われる。それも、当然のようにだ。

 総じて、上の身分の者が下の身分の者に向ける目は冷たく、下す裁きは容赦がない。


 さっきの『どうなってもいい』ってのは、覚悟決めて本気で言ったんだろうけど……それでも、いざそういう段階になると、怖いもんは怖いんだろう。


 ……ただ、この場面で恐怖が湧き上がってきているとすればそれは……レイザーの立場や、これから自分がどうなるか不安なこと以外にも……もう1つ、理由がありそうではあるが。


「おい貴様、先程から若頭に返事もせずどういうつもりだ、舐めているのか?」


「ひっ……!」


 ぎろり、と。


 レイザーの隣に立っている1人……メイド服に身を包んだ、黒に近い蒼髪に切れ長の目が特徴的な少女が、見下ろす形で睨みつける。敵意はもちろん、殺気すら乗っていそうな視線だ。


 口から飛び出した言葉は、内容もそうだが、言い方やら声音は冷たく刺々しいもので、レオナはわかりやすく恐怖でその身をすくませた。


 そんな様子に、はぁ、とため息をつきながら、


「おいルゥナ、俺は気にしてねえから威嚇してやるな……つか、今は俺が話してんだろ」


「はっ……申し訳ありません、若頭」


 言われた直後、素直に謝罪するメイド服の少女。

 受け応えは、大声とかではないけども、はきはきとしている。声の通りもいい。


 この、ルゥナと呼ばれた彼女は……さっきは一瞬気づけなかったが、俺も面識のある奴だった。


 というか、一緒に入ってきた幼女と熊も、全員知っている。

 3人とも……レイザーの弟分・妹分だ。俺らとソラヴィアみたいな関係だと思えばいい。

 

 お互いの弟分・妹分同士を紹介しとこう、ってことで顔合わせした時に知り合って、それ以来色々な機会にちょいちょい関わってる。

 ただ、俺らと違って拠点住まいじゃないから、日常生活で会う機会は多くないんだが。


「そう緊張すんな、若いの。何もとって食おうってんじゃない。お前は聞かれたことにだけ答えていればいい……嘘偽りなく、だがな」


「あんたがそう言っても説得力皆無だよね、ゴウライ」


「っ……!? く、クマが、しゃべっ……あ、す、すいません」


 と、目の前で(後ろだけど)唐突に繰り広げられた意味不明なやり取りに、思わずレオナも驚いて聞き返していた。まあ、無理もないか……熊がいきなり喋ればな。

 俺も、最初はびっくりした。ファンタジーだからそういう種族もいる、で納得したが。


「気にするな、そういう反応には慣れてる……この見てくれだしな」


「喋るたびに驚かれるもんね、あんた。まあ、しゃべらなくてもそれはそれで怖がられるけど」


「舐められるよりかマシだ。どこかのちびと違ってな」


「う、うっさいな! それは言うなよ!」


「エムロード、ゴウライ、おめーらもちょっと静かにしろや」


 ……レオナの緊張を解そうとしたのかと思ったが、コレ多分素でやってるな。

 少なくとも、エムロードの方は。


 レオナから見て斜め後ろにいる、オーバーオールの幼女。

 色黒の肌に、ツインテールの金髪が特徴的だ。ちょっと髪色はくすんでいるが。

 あと、よく見ないとわからないけど……小柄な体だが、その腕や足、肩のあたりには、引き締まった筋肉の形が見て取れていて、割と鍛えられているのがわかる。


 こいつの名はエムロード。種族はドワーフだ。


 ドワーフと言えば、ファンタジーものでは定番の、鍛冶や彫金なんかの技術に優れた種族。

 この世界でもその認識で大体あってる。そして、彼女もまたそういうのが得意だ。種族柄、幼い頃から色々と学んで育ってきたそうで。


 一方、その横に居る……レオナを盛大に驚かせていた喋る熊だが。

 名前はゴウライ。れっきとしたレイザーの弟分だ。

 先に断っておくが、ペットとかではない。熊だが、ちゃんとした『組員』である。


 もっと正確に……というか答えを言えば、こいつはカロンと同じ『霊獣』である。ただしカロンと違って、人語を扱うことはできても、人間の形態になることができない種族だが。

 喋れるのはそういう理由からなのだ。まあでも……初見で見たらそりゃ驚くよな。熊だし。


 で、最後に……その2人(1人と1匹か)とは、レオナを挟んで反対側に居るメイド。


 こいつの名は、シャールゥナ・クゥインス。

 通称ルゥナ。今は服で隠れているが、背中に鳥のそれのような羽毛の翼をもつ種族『セイレーン』であり……俺と同じ『幹部候補生』の立場に居る女だ。


 見ての通り、気が強い……というよりも、けっこうきっつい性格だ。兄貴分であるレイザーや、その他同僚には比較的優しいというか、話せるものの……他者に対しては基本ドライで、口調は遠慮なく辛辣な感じになるというか……。悪い奴じゃないんだけどな。


 仕事は真面目にやるし、勤勉で文武両道。

 戦闘能力も高い。何回かカチコミで一緒になったりしてるので、それは俺もよく知ってるし……それぞれの上役からの指示で、コンビ組んで戦ったこともある。

 シノギも、俺らほどじゃないが、結構太いのを抱えているらしい。詳しくは知らないが。


 ちなみに俺は、こいつとはちょっと個人的な――仕事の上でのこと、と言えなくもないが――因縁というか何というか、があるんだが、それはまた今度。


 さっきから話が進まずにあちこち飛んでいるわけだが、それをレイザーが元に戻し、


「さて……いいかげん話の続きだけどな。お嬢ちゃんにちと聞きたいことがあんだよ」


「は、はい……何ですか……?」


「おう、その前に……どうだ、ゴウライ?」


 レイザーは、今から早速『本題』に入る……というか戻るのかと思いきや、なぜかレオナの後ろのゴウライに話を振った。

 すると、ゴウライはくんくん、と鼻を鳴らしてレオナの匂いを嗅ぐようにして、


「ほぼ間違いないな。多少の違いはあるが……服や、香油か何かのせいだろう。『ベアード』だ」


「そうかい……なるほど、なるほど」


 それを聞いて、レイザーは何かを納得した様子になり……あらためてレオナに向き直る。


「さて、嬢ちゃん。単刀直入に聞くぞ……嬢ちゃんの知り合いに、土色の髪で、頬に刀傷のついた太ったおっさんはいねーか? そうだな……時々仕事を持ってくるような人の中に、とかな」


「えっ……!」


 その質問に、レオナは一瞬、緊張や恐怖を薄れさせて……その分、その顔に、何かに気づいた様子を浮かべて見せた。それはもう、わかりやすく。


 それを見逃すレイザーではない。きちんとその反応に気づき……にやりと笑う。

 同時に、若干目を細めて……こっちを見た。


 ……多分だが……俺も、レオナと同じような反応をしたからだと思われる。


 ……いや、別に俺の方は、隠す気も何もなかったわけだし、いいんだけどな。

 むしろ、きちんとこっちの情報を報告するタイミングが巡ってきそうだし。


「知ってるみてーだな、嬢ちゃん」


「あ、その……ええと……」


「頼みたいことってのはそれだ。そのおっさんについて、知ってることを全部話してほしい……ちっと理由があって、お兄さんそいつを探してんだわ。もし教えてくれたら……そうだな、雰囲気からすると、こいつらと何かトラブってんのか? それに俺が多少口きいてもいいぜ?」


 俺らの方を見ながらレイザーが言う。


 まあ、トラブルというか何というか……ちょっと問題が起こってたのはそうだけども。


 それを聞いて、レオナはちらっとこっちを見て、少し迷うようなそぶりを見せたものの……数秒後、今度はできる限り震えをこらえつつ、レイザーを正面から見返して言った。


「ありがとうございます……私が知っていることでよければお話しします。でも……カロンさん達へのお口利きは結構です。自分がやったことの責任は……自分で取ります」


 その言葉に、一瞬きょとんとするレイザー。

 しかしその直後には、さっきとは違う感じの……心底楽しそうな笑みを顔に浮かべていた。


「ほぉ~? 面白いこと言うじゃねーの。本気かい? ちょっと怖いこと言うが……まあ、何があったのかはよくわかってねーけど、もしかしたら嬢ちゃん、かなりひどい目に遭うかもしれねーんだぜ? こいつらはまあ、基本おおらかで優しい連中だとはいえ、やる時はやるからよ」


「わ……わかってます。でも、私が自分でやってしまったことだから……覚悟はできてます」


「………………ふむ」


 それでも、迷わず――迷ってはいないが、さすがに恐怖と緊張で口調がたどたどしくはなってたな――返答してきたレオナに、レイザーの『嬉しそうな笑み』は継続中。

 満足げに『うんうん』なんて感じでうなずいたりもしている。


「立派なもんだ……皮肉でもなんでもなく、本心からそう思う。今どき珍しいぜ、お前みてーに、きちっと筋の通った、漢気のある奴はよ……って、まあ、女に対して言うのも変だがな」


「え、あ、はあ……あ、ありがとうございます」


「わかった、よくわかった。そこまで言うなら、どういう話か知らないが、そのけじめはお前さん自身がつけな。おいアイビス……と、何かしらねーが名前呼ばれてたカロン。お前らもこの嬢ちゃんときっちり向き合ってやれよ? 今どき珍しい逸材の可能性ありだぜ」


「「「はい!」」」


 どうやら、意図せずしてレオナはレイザーに気に入られたらしい。

 まあ、そうでなくてもきちんと向き合うつもりではいたけど……そろって返事を返す。一応、名前呼ばれてなかったデモルも一緒に。


 ……カロンだけさっき名前が出て来たのは、やっぱりレオナにとって懐いてると言うか、特別に意識してる相手だから……ってことなんだろうな。まあ、それは別にいい。


「で、それはそれとして……そのおっさんについての話はしてもらえんのかい、嬢ちゃん?」


「あっ、はい。ええと……」




 そしてレイザーの頼みの通り、レオナはそのおっさん……さっき俺たちにも聞かせた、『ドギューラ』と名乗る男について、レイザーに説明した。

 内容は、俺たちに話したのと同じだが。それ以外に説明することがないんだろう。仕事でつながりがあるとはいえ……聞く限りじゃ、最低限の接触だったようだし。


 時々レオナ達のグループに『バイト』の話を持ってくるクライアントであり、報酬はいいが怪しげでヤバそうな仕事をメインに回される。ちなみに、その関係で俺たちと今話していた。

 そしてそいつは、レオナ達には『ドギューラ』と名乗っていた。


 簡単にまとめればこれで終わりである。

 それを聞いていたレイザーは、全部を聞き終わると同時に『なるほどな』と呟くように言った。


「ようやっと尻尾つかんだみてーだな……こんなところにいやがったか、『ベアード』の野郎」


 ☆☆☆


 時間は一気に飛んで、夜。場所は、拠点のレイザーの私室。

 そこに……俺ら3人に加え、ソラヴィア、レイザー、そしてレイザーの舎弟の3人がそろっていた。レイザーから『晩飯の後でいい、部屋に集まってくれ』って言われてだ。


時期が時期だし、理由というか、話の内容に関しては、皆察していた。


「よし、そろってんな……んじゃまあ、俺の方からちっと報告することがある、聞いてくれ」


手で促して、居る全員を席につかせるレイザー。

本来は横とか後ろで立って控えているのが常の俺らやルゥナ達も、結構長い話になるからって座っていいことになったので、お言葉に甘えている。


「さて、ソラヴィア達にはこないだ親父が直接話したし、ルゥナ達には俺から話した。その上で、各自ここんとこ調べてたからわかると思うが……例の『薬局』の一件だ」


 組長からの指示は、『内密に調べろ』というもの。ゆえに、弟分や組員を動かして大規模に調べるわけには行かず、結果としてソラヴィアとレイザー、そしてその弟分というごく限られた範囲で調べることになったわけである。


 情報収集自体は、広い情報網を持ってる『ヘルアンドヘブン』にとって難しい物じゃないが、これを極秘に……それこそ、組の中にも知られないようにやるとなると話は違ってくる。従来の方法じゃ不可能だし、難易度も跳ね上がる。

 ぶっちゃけ、俺らにはちょっと荷が重い領域だ。


 なので、今回の『調査』は……役割を徹底的に分けて行っていた。


 こういうのが得意なソラヴィアとレイザーが調査を行い、その指示に従って俺らが動く。

 なお、俺らってのは、俺とカロンとデモルだけでなく、ルゥナとエムロード、それにゴウライもだ。普段通りにしつつ、それぞれの兄貴分・姉貴分の指示でいつでも動けるようにしておく。


 本当に普段と同じ仕事もあれば、普段と同じに見せかけた『密命』がらみの仕事もある。


 例えば、薬局がらみの連中の存在をソラヴィアが嗅ぎつけて、それを素早く調べるために、別件の理由を適当に立てて俺らにカチコミに行かせ、素早く証拠品その他を押収する、とか。


 そんな感じで、完全に司令塔はレイザーとソラヴィアに任せて今までやっていたわけだが……ここにきてそれに進展があったわけだ。


 というか、全くの偶然だが……その『進展』、俺たちが絡んだ先にあった。

 レイザーは別ルートで、情報の解析を進めてたどり着いたところだったが……俺たちは、他ならぬあの少女・レオナつながりでそこに行き着いていたのだ。


 もっとも、それがこの件の核心だと教えられたのはレイザーからで、それがなきゃ俺たちはスルーしてた可能性が大きいけども。


「結論から言うぞ。今回の一件、下手人は……ベアードだ」


「……奴か」


 ソラヴィアが、ほとんどつぶやくような感じでそう返す。どうやら、知っているらしい。

 残念ながら、俺やカロン、デモルは知らない名前だが……昼間の感じだと、ルゥナ達は知ってるっぽいな? レイザーから聞かされてたのか?


「アイビスたちは知らねーだろ。あいつがまだ組にいたのは、お前らが入ってくるよりずっと前だからな……もっとも、それはルゥナ達も同じだが」


「その言い方だと……そのベアードという男は、この組の元構成員だったんですか?」


「まあ、な。より正確に言うなら……『絶縁』処分になった、っていう肩書がつくな」


 はい、ここで用語解説。『絶縁』。


 ヤクザの業界で言う『絶縁』とは、一言で言えば、所属する組から追放される処分のことだ。


 ヤクザの組も組織だ。当然、何か問題を起こせば、それ相応の処分が下る。

 軽い物なら、ヤキ入れられたり、罰金ないし詫び料とかの金で解決できる場合もあるが、問題が大きい、重いものになると……それに比例して償いも重くなる。


 金なら金額がどんどん高額になるし、場合によっては、かの有名な『指詰め』とかもあるわけだが……そういう処分の中で、最も重いとされる1つが『絶縁』だ。

 類似するものに『破門』があるが、細かい違いは今回は省く。


 単なる解雇と同じに思えて、実際はもっと重く、悲惨である。


 読んで字のごとく、『絶縁』された者は、今後一切その組とは関わりのないものとして扱われると同時に、今後新たに関わりを持つこともできない。

 それに加えて、絶縁処分になるような者とは、今後一切のあらゆる付き合いが許されない。縁組・商談・交友……文字通りあらゆる関係を持つことが禁止される。


 そしてこれは、絶縁元の組だけでなく、業界の団体全てにおいて共有される価値観だ。


 要するに、『絶縁』した者を擁護したり、自分の組ないしグループに迎え入れた場合、それは元の所属の組織に対する挑戦ないし宣戦布告とみなされてしまうのだ。

 こっちの組を絶縁されたから、あっちの組に入れてもらおう、なんてことはできないわけだ。


 さらに言えば、一度ヤクザになった者が、普通の社会に復帰しようとしたってほぼ上手くいかない。過去の経歴が邪魔をして、表社会で生きていくことが難しい。


 現代日本で例をとるとすごくわかりやすいんだが……前科はあるわ、小指はないわ、刺青入ってるわ……そんなのを雇う会社がはたしてあるか、って話だ。


 もっとも、この『剣と魔法の異世界』では、もともと物騒な商売なんてあちこちにあるし、そこまで切迫した状況になることはないかもしれないが……それでもきついことはきつい。


 特に、絶縁元の組織が大きければ大きいほどきつい。『ヘルアンドヘブン』の関係団体全部が、その絶縁者と『関わらない』って形でシカトする……どころかむしろ敵対するわけだから。

 完全中立のフロント企業とかなら、商売くらいならまだ相手してくれる可能性はあるが。


 業界からは完全に追放され、表社会への社会復帰もかなわず、お先真っ暗な状態で、社会的弱者とすら言える状態にされた上で放り出される。それが『絶縁』だ。


 さて……説明はこのへんにしておいて、話を戻す。

 レイザーの口から、今度はそのベアードについての説明。


「ベアードは、俺やソラヴィアの後輩にあたる奴でな……優秀と言っていい男だったんだが、強欲でどうにも金稼ぎに突っ走る悪癖があったんだわ。いやそれ自体はまだいいんだが……時に、組織の掟すれすれ、ないし明確に違反するラインの行為すら働くことも多かった」


「それなりに功績もあったから、厳重注意や罰金、他の処分で見過ごされてきたんだが……ある時とうとう、ご法度の『薬局』商売に手を出してな……それが問題視されて、『絶縁』になった」


「以来……少なくとも組に関わってくることはなくなって、音沙汰なしだったんだが……どうやらここ最近、性懲りもなく薬物を扱って稼業やってるらしいんだよな。その際にはいくつもの偽名を使いわけてるようだが……その1つが、『ドギューラ』だ」


 そう……『ドギューラ』。

 レオナが、最近自分たちに仕事を持ってきてくれる人、として覚えていた奴の名前。


 そいつが今回の『薬局』の件の元凶だったとは……妙な偶然というか何というか。


 ちなみに、その裏付けになったのは、ゴウライの嗅覚である。


 レオナにあった時、ゴウライがレオナの体から、事前に覚えていたベアードの匂いを嗅ぎ取って感知し、この娘と関わりがあることを見抜いたのだ。

 ゴウライの嗅覚って、犬以上に利くらしいからな。


「もっとも、俺たちがつかめたのは、ドギューラもといベアードにそういう動きがある、っていう所までで、具体的な範囲なんかはとっかかりがまだだったんだが……このあたりの孤児や浮浪者相手にアコギな仕事ばら撒いてるらしい、っていう噂があってな。そんな時に、ちょうどアイビス達が、完全に別件で顔が利く孤児がいるっていう話だったから、そっち行ってみたら……」


「予想以上の成果だったと。1件目でビンゴを引き当てることができた、というわけか」


「ああ、そういうこった。秘匿性最重視の条件に照らして、最小限の聞き込みで全体像が見えて来たってのは、最高と言っていい結果だ。あの嬢ちゃんには感謝しねーといけねーよ。アイビス、それにカロンとデモルも……あの娘にあんまりきついことしてやるなよ?」


「承知しています」


 あの娘……言うまでもなくレオナのことだ

 さっきも言った通り、完全に偶然だけども……結果的に、彼女は俺たちが今問題にしている案件を解決に導くための有力な情報源になってくれた。


 それどころか……ここからさらに協力してくれる、とまで言っている。

 そりゃ、いくらレオナが『責任は自分で取ります』って言ってても、きちんとその分の目はかけてあげなきゃ、こっちに罰が当たるってもんだ。


 元々、俺たちはそこまで怒ってたわけじゃないんだしな。


 それはそうと……そんな感じで今回の一件はかなり大きく動き出したわけだが、このまま一気に解決まで持っていける、というほどではない。

 まだわからないこと、調べなければいけないことはいくつもある。


 その1つが、薬物の入手経路だ。


 連中が売っている薬物は、新種とかではなく既存のものらしいんだが、総合で結構な量をさばいているにも関わらず、それを扱えるような太いルートが見つからないのだ。


 供給・販売のペースからして、相応に太いルートがあるのは間違いないのに、それが見つからない……相当上手く隠蔽しているのか、あるいは何か別のからくりがあるのか。


 明日からの調査は、そのへんがメインになるかもな……まあ、例によって俺たちは指示待ちだが。


 待ってる間に、今回、意図せずして功労者になったレオナの方の問題に片つけとくか。





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