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テンゴク  作者: 和尚
第3章 異世界でもダメ、ゼッタイ
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第34話 孤児・レオナ



雑務担当の人たちに後のことを任せ、その日の仕事は終了したわけだが……来る時に3人だった俺たちは、4人に増えていた。


あの、牢屋にとらえられていた少女――レオナ、という名前らしいその娘が、一緒にいた。


見た目ほど大したことない傷だったのか、はたまた飯食って元気が戻ったのかはわからないが、普通に歩けるようにまでは何とか回復していたらしい彼女は……しかし、心の傷の方までは回復しきれていなかったようで。


なんか……カロンがいなくなると泣きそうになるんだよ。

不安になるのか、単に懐いているのかはわからんけども。


カロンに迷惑をかけてることになる、っていうのはわかっているのか、『大丈夫です、1人で帰れます!』って口では言っているものの……目は涙目だし、足は震えてるしで、そのまま送り返したらこっちの方が罪悪感覚えそうになる感じだった。


乗り掛かった舟だと思って、今日1日くらいは面倒見るか、ってことになったのだ。


町で適当な安宿を取って、そこに4人で入る。

少しして、組の人に頼んでおいた伝言を聞いて……夕食持ってアリシアも駆けつけてくれた。


何で呼んだかと言えば、単純に女の子の世話するなら女性がいいと思っただけだ。

見たところ、体も結構汚れてるし。安宿だから風呂なんて気の利いたものはないが、追加料金でお湯をもらって体を拭くくらいはできる。それなら、同性の方が抵抗がなくていいだろうし。


その夜は、そのままその宿に泊まって寝た。

大部屋だったので雑魚寝だったけど、まあ、たまにはいいもんだ。


☆☆☆


で、翌朝。


1晩経って恐怖とかは和らいだのか、レオナは、震えとかはだいぶマシになっていた。


とりあえず朝飯を食わせる。問題なければ、このまま解散して家に帰していいだろう……もっとも、『家』なんてもんがあればだが。この格好とかからして、なあ……。


それもあって、一応、何であんなところにいたのか、事情を聴いてみることにした。


辛ければ話さなくてもいいが、とはきちんと伝えたが、レオナは話してくれた。

世話になったんだから、そのくらいはきちんと、ということらしい。


「この身なりで大体わかると思うけど……私、孤児なんだ、です。家も、家族もなくて……同じような境遇の孤児たちのグループに所属して、身を寄せ合って暮らしてたん……ました」


「あー、敬語苦手なら無理しなくていいぞ? 誰も気にしないから」


なお、今更だがレオナが今着ている服は、あのアジトから持って帰ってきた、彼女自身の服だ。


ただ、服と言っていいものか……つぎはぎでそれっぽい形にしただけの粗末な布の集合体、っていう感じで……この宿が『ヘルアンドヘブン』の息がかかってる店じゃなきゃ、入店拒否されてもおかしくなかったレベルのそれだ。小学生の家庭科でももうちょっといいもん作れるだろう。


所々にある、昨日手当てしてやった包帯とかの清潔な白色が、余計に浮いて見える。


それはそれとして、話を戻す。


レオナは元々、スラムにいる孤児たちのグループの1つに所属していた。


色んな理由で家族を失って1人になったり、家を飛び出していく当てがなかったり……そんな感じの連中が集まっているグループであり、ある時は盗み、ある時は物乞い……生きるためなら何でもして、その日その日を食いつないでいっていたそうだ。


そんなある日、貧しいながらもどうにか暮らせていた彼女らの生活に、暗雲が差した。

あの、昨日俺らが全滅させた連中がやってきたことによって。


「4か月くらい前、かな。突然現れて……これから毎月、上納金を寄こせって言って来たんだ。毎月決まった日に、自分たちのアジトに持ってこい、って……」


「上納金?」


「ああ……もちろん、私達は最初は反発したけど……」


そこでレオナは、怖いことを思い出したのか、わずかに身震いして、


「断ったり逆らったり、払えなかったりすると、殴られたり蹴られたりした。歯向かった奴はもちろん、何も言っていない、その場に一緒にいただけの奴もまとめてさ……そのせいで死んだやつもいたよ……だから、従うしかなかった。私達には、他に行くあても何もないから」


「……もしかして、君が昨日、あそこで捕らわれていたのも?」


「うん……今月の分が払えなくて……」


デモルの問いに、こくりとうなずくレオナ。


……つくづく不快な連中だな。


聞いた感じじゃ、その『上納金』とやら……ヤクザのそれや、いわゆる『ミカジメ』なんかとも違うみたいだ。ただ、力のある不良が弱い奴からカツアゲしてるだけって感じだな。


特にそれで守ってやったり、他に色々面倒見てやったりとかしてるわけじゃなく、一方的で強引な搾取。単なる弱い者いじめか……酷いもんだ。


何が酷いって、あいつら小金持ちだから……しかも、スラムの子供たちが集められる程度の金からピンハネできる程度の、たかが知れた額なんて、欲しがるはずないんだよ。あってもなくても、ぶっちゃけ変わらないだろう。


つまりあいつら、レオナたちをいじめることそのものが目的で、金を巻き上げる行為を行っていた……ってことだ。それを、楽しんでたんだ。


上納金が普通に支払われれば、それでよし。支払われなかったりする場合は、制裁を加える……色んな形での、情け容赦ない暴行を。


そして、それをもまた、楽しむ……孤児だから、最悪死んでも問題ない。

これも酷い話だが、この世界で孤児に対する社会的評価って、そんなもんなんだよな。


今月、彼女達は上納金を払えなかった。それを報告に来たのが、最年長の1人であるレオナ。

皆を守るために1人で来たレオナは、そのまま拉致・監禁され、暴行を受け続けた。それが、あの地下室での状況ってわけだ。


「覚悟してはいたけど……やっぱり辛かったよ。痛くて、苦しくて……食事も満足に貰えなかったから、お腹も空いて……。レイプはされなかったのは、不幸中の幸いだったかな……スラムの汚らしい孤児だからって理由でね。それでも、もう限界で……このまま死ぬんだ、って思った」


そんな、限界ギリギリな状態で……俺たちが来たと。運がよかったとしか言えないな。


なお、その連中がすでに壊滅しているのは、昨日実際に目視してレオナも知っている。

それをやったのが俺たちだってことも。理由が、単に敵対したからだってことも。


「カロンさん達には、本当に感謝してるよ……ありがとう。助けてもらっただけでなく、こんな……大金までもらえて」


「気にすんな。これからグループが生活してくにも、要り用だろうし……あの連中に巻き上げられた分が戻ってきたと思えばいいだろ。あとはまあ……情報提供料ってことで」


「巻き上げられた額より明らかに多いけど……うん、本当にありがとう、カロンさん」


「あとついでに言えば、この中で一番偉いの兄貴だからな。言うならこっちに言えよ?」


「えっ、あっ、す、すいません! あの……」


「いーっていーって、気にすんなそんな細かいこと。実際に世話になったのはカロンになんだからな。おめーもいらんこと言わんで、黙って感謝されとけ、恩人」


「うっす」


つか、カロンって俺やデモルやアリシアの前以外だと、普通に『~っす』抜きの口調なんだっけな。あんまり見る機会がないから、うっかり忘れそうになる。


ちなみに、今レオナが言っていた通り、彼女にはお見舞金ってことでいくらか渡している。

財源は、あの連中を蹴散らしてから戦利品として剥ぎ取った財布である。そんなのを受け取るってのもレオナ的にはアレかもしれないが、まあ、金に罪はないってことでひとつ。


なお、大金というが、決して大した額ではない。いや、孤児からすれば大金だろうが。

もっと渡すこともできたが、あんまり大きい額を渡しても、それはそれでためにならんしな。


それとレオナ、やっぱりカロンになついてるっぽいな。

俺たちと話す時にはある緊張感みたいなのが、カロン相手だと幾分和らいでるようにも見える。助けてもらったからか、はたまた、同じ(微妙に違うが)獣人系だからか。


これが学園ラブコメとかなら、このまま恋愛とかに発展しそうな可能性もあったんだろうが、残念ながら?レオナはこの後、自分のいるべきところに戻っていった。


彼女が身を寄せているという話の、孤児のグループのところに。


まあ、もともと偶然出会って、一晩面倒見てやっただけだしな……少し寂しいが、似たようなことが今までにも何度もあった。引きずるのもアレだし、俺らは俺らで戻るかね、拠点に。


後始末、下っ端連中に全部任せちまったからな……ご苦労目に何か土産でも買っていくか。


☆☆☆


アイビスらと別れたレオナは、もらった金を隠して持ちながら、無事に彼女のいるグループのところに戻ってくることに成功していた。


そこで、もう何日もレオナが戻ってこなかったことから、今までと同じように……と考えて沈んでいた、弟分、妹分たちに、歓喜して迎えられた。おかえり、と。


そこで、自分の身に起こったことのうち、怖がらせてしまいそうなことはうまくぼかして、あのアジトで起こったことを……あの連中の組織が壊滅し、今後は上納金をせびられることもなくなったのだ、ということを話すと、歓声はより大きくなった。


涙を流して喜ぶ弟妹たちを見て、レオナもうれしくなった。


またこうして、ここに戻ってこられたことが。これからも、弟妹たちと主に、決して楽ではないが、助け合って生きていけることが。


特に最近は……あの連中の『上納金』さえなければ、割と楽に生活ができていたのだから。

もっとも、それも『昔に比べれば』というものではあるのだが。


そんな時だった。彼女達が拠点にしている廃屋に、来客があったのは。


「おう、邪魔するぜ……おっと、なんだ、帰ってたのか、レオナ」


「っ!? ……なんだ、ドギューラさんか」


入ってきたのは、小太りの中年の男だった。

特に高級そうでもなく、かといって見すぼらしくも見えない、普通な商人風の服に身を包み、そこらに瓦礫などが転がっていて微妙に歩きづらい道を、慣れた様子で歩いてくる。


「なんだとはご挨拶だな、これでも結構心配してやってたんだぞ?」


「ああ、うん、ごめんよ。単にびっくりしてさ……」


最初こそ驚いた様子を見せたものの、レオナは特に警戒するような様子も見せず、入ってきた男を迎え入れて、座るように進めた。拾って集めてきたガラクタの中でも、比較的マシと言えそうなものだが、ある中では一番上等なイスに。


ドギューラと呼ばれた男の体重に、ぎしっ、とやや不安な音を立ててきしんだが。


「まあ、無事ならよかった……あの連中は最近、色々なところで悪さをしているようだったからな。いなくなってくれて、俺もせいせいしてるってもんだ」


「何だ、もう知ってるのか」


「ああ、商人は耳が早えーんだよ。それでレオナ、今日ここに来た用事なんだがな?」


「また、仕事の話か?」


「ああ、察しがいいな。もちろん、いつも通り礼は弾むぜ?」


「……やっぱり、また危険な仕事なのか?」


ドギューラは、そのレオナの問いに、一瞬ぴくっと反応するも、


「まあ、大変な仕事なのは確かだな。けどよ、お前ら孤児に回せるような仕事となると、どうしても限られてきちまうんだ……そこんところはわかってもらわねえとな」


「…………」


「もっとも、俺も強制するつもりはねえ。お前達が嫌だって言うならそれでも……」


「いや、やるよ。生きていくのに……金は必要だから」


「そうか。なら、今度もよろしくな」





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