第23話 探索終了と戦利品売却
「雷矢」
デモルの指先から一条放たれる電撃。
まだ大分距離がある場所に飛んでいた蝙蝠の魔物を、よける間もなく貫いて撃ち落とす。
その下から、大型犬くらいある大きさのネズミの魔物が、十数匹もまとまった数になって襲い掛かってくるが……今度はそれらは、突然足元が凍り付いて、つるっつるに滑って前に進めない。
立ち往生してる間に、またデモルの電撃が何発も何発も飛んできて、全滅。
1匹残らず黒焦げになったのを確認し、
「さて……何つったっけ、コレ?」
「ビッグラット……見た目そのままの名前ですね。換金可能な部位は……なしです。一応、肉が売れるようですが……雀の涙ですね。それに、少々荒っぽく仕留めてしまいましたし」
「どっちみちアレ持ってくのはコスパ合わなそうだからいいか……さて、次行くぞ」
こんな感じで、俺たちのダンジョン探索はすこぶる順調である。
あれから――『オルケテン』に遭遇・即撃破した日から、さらに1日が経った。
ゆっくり、慎重に、かつテンポよく、ダンジョンの探索を進め……魔物を倒し、財宝を手に入れ、夜になったら寝る。で、朝起きたらまた探索……その繰り返し。
手持ちの食料の残量に気を配りつつ……今、地下9階だ。
この辺になると、さすがに俺らも、普通の攻撃だけではちと対応に苦労するレベルの魔物もちらほら出てくる。各々得意な、属性系の魔法を解禁しなきゃならん程度には、色々。
それだけじゃなく、階層のあちこちに『宝箱』が見られるようになってきた。
この世界、この『ダンジョン』という場所における『宝箱』というのは、誰かが配置しているわけじゃない。これらを配置ないし補充しているのは、『ダンジョン』そのものだ。
ゲーム的というか、よくわからんシステムだが……この『ダンジョン』って奴の中の宝物やモンスターは、勝手に補充されるらしい。一説には、それを餌にして人間をおびき寄せるために、ダンジョンそのものが作り出している……とか何とか。
ダンジョンの中で人間が死んだり、戦いのために魔法を使ったりした時にまき散らされるエネルギーを食って、ダンジョンは存在しているらしい。いわば、ある種の生き物なのだ。
まあ、その辺は別にどうでもいい。俺ら的には、手に入るもんがあれば。
上の方の階層と違い、この辺までくると人も少ない。ってかほとんどいない。
相応の実力がないと、ここまで潜ってくるってのは無理だし……無理もない話だろう。
まあ、俺たちからしてみれば、まだまだ余裕ある範囲だが。
「いやー、なんか悪いっすね、兄貴にデモルっちも。戦闘、なんか任せてばっかで」
頭をぽりぽりとかきながらばつが悪そうに苦笑しているカロンは……背中に、かなり大きな、リュックサック型の鞄を背負っている。中身は、ここに来るまでに手に入れた財宝とかだ。
ゲームみたいに、どれだけ入れようが容量が変わらないアイテムボックス的なものがないので、普通に人力で運ぶ必要がある。そして単純な腕力では、この中ではカロンが一番強い。
なので、運搬役になってもらっているわけだが……そんな大荷物を背負っていれば、必然的に動きは鈍くなるし、戦いにくくなる。
結果、戦闘は主に俺とデモルが担当している、というわけだ。
ぱっと見、そんなに重そうにはしていないし、いざとなれば機敏に動けるんだろうが……そんなことをしたら、今度はリュックの方が耐えられなくて破れかねないので、念には念を、ってことで、カロンには大人しく運搬に徹してもらってる。
幸いと言うか、2人でも戦闘はぶっちゃけ余裕だし、カロンは動けなくても、危機察知能力は健在だ。何かが近づいてきたらすぐに教えてくれる。
「カロン、そのリュック、あとどんぐれー入る?」
「んー……今、容量7割弱ってとこっすね。あともうちょっとで限界っす。容量以上に詰めるのは……俺は全然平気なんすけど、入れ物が耐えられないかもなんで、しないほうがよさげかも」
「だな……今回はこのへんにしとくか。容量8割5分くらいになったら引き返そうぜ?」
「? 容量いっぱいじゃなくていーんすか?」
「帰り道で何か見つけるかも知んねーだろ?」
ぽん、と手を打ってなるほど、と納得するカロン。
さて、と。そうと決まれば……さっさと宝箱探しと行きますか。
それから2時間ちょっとして、宝箱が2つ見つかり……カロンのリュックの容量は8割を超えたくらいになった。それを中に詰め……あとは、地上に戻るのみ。
「さて……地上に戻ったら、もっと丈夫ででかいリュックがないか探してみるか?」
「そうですね……ここよりも深く潜れるようになったら、財宝もより多く手に入るかもしれませんし……その度に、入れ物の容量不足で地上に戻るのは、さすがに非効率的です」
そう、ここより深くで探すとなれば、もっと多くの、それも質のいい宝物が見つかるはず。
宝石、金塊、工芸品に武器、マジックアイテム……取捨選択が難しいものも多くあるだろう。ベストはもちろん、それら全てを持って帰ることだ。
……マジでアイテムボックスほしい。
「……馬車とかは無理としても、荷車か何かでも持ち込むっすか? 俺引くっすよ?」
「いや、だから階段降りる時どーすん……ああ、担げばいいのか。いやでも、それにしたって戦闘に巻き込まれてぶっ壊れたら目も当てられねーし……他の探索者連中ってどうしてんだ?」
「基本どうしようもない問題ですからね……先程挙がったように、容量が大きく丈夫な入れものを用意するか、運搬専門のメンバーないし奴隷を用意しているようですが……」
「……運搬専門、か……俺らには無理だな」
「ええ……我々について来れる者となると、それこそ身内にも限られますからね」
「ましてや、荷物持ちに付き合わせられるとなれば……やっぱ、デモルっちの召喚悪魔で代用するのが一番手っ取り早いんじゃないっすか? 魔力食うっすけど、人間用意するより簡単だし確実っすよ」
「それがいいかもな……なんか、馬力あって荷物持ちとかに適してそうな悪魔いねえ? 牛とか馬みたいな見た目の奴だとそれっぽくていいかもだな」
「悪魔を荷物持ちですか……まあ、別にいいんですが……」
と、若干脱力したような感じで言うデモル。
まあ、『悪魔召喚』の使い道って、術者が悪魔か人間かに限らず、基本、荒事だしな。
敵と戦わせたりとか、暗殺とか、呪殺とか……たまに、禁じられた魔法を使うためとか、伝説の秘薬を作るため、とかもあるけど……少なくとも、生活感のある使い方をすることは、ない。
「というか……それならカロンの『使役獣』の方が適しているのでは?」
「あー……まだいまいち上手くいかないんすよ。家畜に言うこと聞かせるくらいならできるんすけど……戦闘や、こういうとこに連れてくるとかはどうも……デモルっち、やっぱ今度コツとか教えてくれないっすか? こう、些細なことでも、何でもいいっすから……」
「ですから、似たような技術とはいえ、系統が違いますから難しいですって……」
デモルが言う『使役獣』というのは、読んで字のごとく、『使役する獣』だ。霊獣、ないし霊獣人の能力の1つで、普通の獣はもちろん、魔物なんかもその力で『使役』することができる。
横文字で言うなら……『テイム』とかいう感じになるだろう。
ただ、カロンはその辺がまだ上手くできず……身近にそれ系の技能を持つ者もいなかった。なので、ノウハウを学ぶことができなかったのである。
もし、カロンの親の『霊獣人』が居れば、教わることはできたかもしれないが……生憎とカロンは、親の顔すら知らない孤児だった。どこにいるかなんてわからん。
一応、組員には『テイマー』や、悪魔使いであるデモルはいたものの……今デモルが言っていたように、そういうのとはまた違う感じの分類の『固有能力』であるため、教えるのが難しい。
実は今までにも2、3度やっているのだが、上手くいってないし。
今自分で言っていたように、家畜に言うことを聞かせる程度……放牧してる牛や羊たちに『厩舎に戻れ』とか、鶏舎の鶏たちに『卵を取るけど邪魔するな』とか、そのくらいなら問題ない。
今ではすっかり、カロンの基本業務だ。
でも、こういう普通じゃない場所に連れてきて、大人しく言うことを聞かせたり、あまつさえ敵と戦わせたり……っていうのは難しい。
戦い以前に、魔物なんてものを見た、あるいはその存在を感じた時点で、普通の動物は怯えて暴れる。大人しく荷物を運んだりなんてしてくれるわけがない。無理無理。
魔獣にしたって、意に反して戦わせられるほど、深く、強力に支配できるわけじゃない。
なので、『今はまだ』ではあるものの……デモルの悪魔と同じような使い方はできないのだ。
もっとも、できるようになれば便利なのは間違いないし、カロンも鋭意訓練中である。
手探りだから、まだまだ時間はかかりそうだけども。
で、結局俺らは、帰り道、自分たちの足でさっさと走って帰ることにした。
ソラヴィアのスパルタ指導で鍛えてる俺たちの身体能力は、地球のトップアスリートを鼻で笑えるくらいにはなっているし、運動生理学上の常識、みたいなものも軽くぶっちぎっている。
さすが異世界、と当時は思ったものの……いま考えるとすごいと思う、ホントに。
腕力や敏捷性が強化されて、自分の体重の何倍もの重量を持ち上げたり、全力疾走で1時間以上走り続けたり、その他いろいろ。
で、その状態からさらに魔力や魔法で体を強化するわけなので、とりあえず『さすが異世界』で片づけたくなる程度にはぶっ飛んだ身体能力になるのだ。
幸いだったのは、そういう能力も、きちんと俺たち3人、コツコツ修行しながら積み上げて体得したおかげで、力に振り回されるようなこともなく、十全に扱えていること、かな。
それはともかくとして……今俺たちは、その身体能力を存分に発揮し、自分の足で走って地上を目指している。
魔力で強化して、ペースを維持できるちょうどいい速さということで……時速30㎞ちょっと。オリンピック級アスリートの全力疾走よりちょっと遅いくらいの速度、だったはず。このくらいの速さでなら、俺たちなら5時間は走り続けられる。
途中、すれ違った探索者チームがぎょっとして、とっさに武器を構えたりしたけど……次の瞬間には通り過ぎてたので、不意遭遇戦はなし。
罠とかも、位置は前と変わっているとはいえ、パターンや対処法も把握していたし……様子見の手間がないので、さっさと避けて進むか、踏みつぶして強行突破、みたいな感じで進んだ。
魔物は基本無視するか、ひき逃げか辻斬りよろしく蹴っ飛ばしてそのまま進む。
途中、『おおっと止まりな! 命が惜しけりゃその荷物置いぶべらぁ!』なんて間の抜けたことを言っていたバカを蹴飛ばしてなぎ倒して踏みつぶした気もするが……まあいい。
……ホントに無法地帯だな、ダンジョンの中って……。
そんな感じで、もう地上まで一直線。階段なんか4、5段飛ばしで進んで……結局その日中に、日が暮れる前にどうにか俺らはダンジョンの外に脱出。
俺たち3人の初めてのダンジョンアタックは、こうして無事に終わったのだった。
☆☆☆
ダンジョンの中で手に入れたものは、探索者協会の窓口で換金することができる。
宝箱から手に入れた財宝はもちろん、魔物の素材や薬草・鉱石なんかの資源まで……とにかく金になるものなら、何でも買い取ってくれる。それもきちんと、適正価格でだ。
また、場合によっては……探索者協会に『登録』している探索者の場合、その買い取り額に色がつく品物もある。品薄で、需要に追い付かせるために値段が上がってたりとか。
そうでない俺たちでも、きちんと『適正価格』では買い取ってもらえるので、まあ何も不都合はない。今回持ち込むのは、手に入れた財宝だけだ。こういう、資源や素材でないものに、買取補正が付くことは少ないので、重ねて問題ない。
そんなわけで、俺たちはダンジョンから出ると……その窓口に行き、財宝を換金した。
けっこうな量だったし、一度にこれだけ持ち込まれるのは、俺たちみたいな少人数のチームではそうそうないこともあって、窓口の人には驚かれたが、すぐに落ち着いて仕事にかかってくれた。
量が量だけに、査定に時間はしばらくかかったものの、別にそのへんは気にするようなことでもないし、提示された買取金額は、十分に納得できるものだった。
……正直、てっきり俺たちみたいなガキ3人相手だし、侮られて安く買い叩かれるかと思ってたこともあり、最初からデモルが『このくらいですかね』と見てた適正価格をきちんと提示されたのには、逆に驚いたけど。荒くれ者の集まる組織なのに、随分と誠実かつ良心的だな、と。
こちらとしては何も言うことなし。その通りの価格で売却した。
……ただ、今回の探索における俺らの収入は……これで終わりじゃない。
もう1つ、行くところがある。
俺は、あるものが入ったリュックサックを背負い、カロンとデモルと別れて……この都市『リングウッド』の中心街にある、ある店に来ていた。
夜だというのに、いや、夜だからこそ、店の前をいくつもの照明でこうこうと照らし、客を呼び込もうと客引きも出しているこの店は……きれいな女の人がたくさんいる、大人の店だ。
こういう、ある程度以上の大きさの町には、必ずあると言っていい店……『娼館』である。
この異世界じゃ、金銭と引き換えに女が男の相手をするのも――その逆もあるが――何もおかしなことでも、ましてや犯罪でもないし、それを利用するのに何も後ろめたいことはない。双方合意の上で、金も払うわけだから。
「いらっしゃいませ、お客様。当店のご利用は初めてですか?」
店に入ると、服の面積が露骨に小さい、煽情的な服装の受付嬢が笑顔で出迎えてくれた。
「いや、久しぶりだけど2回目だ。去年の冬……いや、秋だったかな。まあいいや、一晩頼む」
「かしこまりました。ご希望はございますか?」
「ここの店にはずれがないのは知ってる。今日、空いている娘を適当に頼む。それとオプションで、ヴァナ産ワインのゴールドを。つまみはチーズとクラッカーがいい」
そう、注文を伝え……先に個室に入って待つ。
それから数分ほどで、俺が待っている部屋に……煽情的な衣装の女性がやってきた。
「失礼いたします……よろしくお願いしますわ、一夜限りの、私のご主人様」
わずかにウェーブのついた、流れるようなピンクブロンドの長髪に、妖艶な笑みの浮かぶ美しい顔。薄手のネグリジェの布地は、透けてこそいないものの、体の線がはっきりわかる上、豊満な体によってあちこち押し上げられていて、ともすると裸よりも煽情的かつ蟲惑的だ。
人によっては、視界に入っただけで理性を失ってもおかしくない、と思えるほどに強烈な色気を振りまく女性は、ゆっくりと歩いてきて、俺が座っている卓の向かいに腰かけた。
……さて、これで俺が『娼館』というものを使う本来の目的のために訪れていたのなら、しばしの間、酒と軽食を軽く楽しんで談笑した後、場所をベッドに移し、めくるめく退廃的な時間が始まったんだろうが……俺がここに来たのは、情欲を発散するためじゃない。
今、こうして部屋に入ってきたこの女性も、そのために来たわけじゃないし……さらに言えば、彼女はたしかに娼婦だが、別の顔を持っている。俺が用があるのは、そっちの方だ。
「……お前かよ、ナタリア」
「相変わらずノリが悪い上に失礼ね……アイビス」
直後……その顔に浮かべていた妖艶な笑みも、男を惑わす色気もきれいに引っ込んで、椅子の背もたれに体を預けた楽な姿勢で、その美女――ナタリアは、盛大に脱力した。
猫かぶるのはやめて、地で対応することにしたらしい。
まあ、賢明だろう。こちとらその本性も知ってるんだ。猫かぶる意味はないわけだし……こっちの方が、俺としても普通に……というか、雑に対応できて気が楽だ。
「で? モノは?」
「ほい」
俺は、持ってきていたリュックサックを、どさっと卓上に置く。
ナタリアは、それを開いて中身を確認し……ひゅう、と感心したように口笛を吹いた。
中身は……財宝。俺たちが、ダンジョンから持ち帰ったものだ。
ただし、探索者協会で換金したのとはまた別。コレらは……初日の夜に寝込みを襲おうとしてきた、あの恩知らず共が持っていたものだ。
ろくでなしでも、自称『ベテラン』というだけあり、集めて持っていた宝は結構な量だった。
それに、ダンジョンで手に入れたものかどうかはわからないけども、各自が持っていた金目のもの、金になりそうなものは、一応回収してある。その上で『火葬』した。
で、それらは……さすがにそのまま売り払うのは、ちょっとためらわれた。彼らの装備や持ち物を知っている、見たことがある者の目についた場合、面倒なことになりかねないからだ。
具体的には、あの連中を始末したことを罪として指摘される可能性がある。
俺らとしては、アレは完全に正当防衛だと思っているけども……それが通るかどうかはわからないし。それを示す証拠もないからなあ。最悪、疑いをそのまま、権力か何かで押し切られる可能性もある。なんか、大手のクランに属してるみたいなこと言ってたし、そのへん不安だ。
だから、この宝は……正規の方法ではない、足がつかない方法でさばくことにした。
それが、このナタリアに……『沈め屋』に頼むことだ。
『沈め屋』ってのは……表には流せない訳ありの金目の物を、裏でさばいてくれる業者のことだ。業界用語で、その作業を『沈める』って言うから。
この娼館は、俺らが拠点にしている教会と同じように、裏組織の隠れ家である。看板通りの営業もしているが……その裏で、非合法の物品を売りさばく取引所もやっているのだ。
ここだけでなく、この国の各地に似たような感じの裏ルートの取引所はある。
今まで、俺たちは先輩方の稼業を手伝う中で、そういう場所を利用する機会も多かったため、その利用法も含めて、大体は把握しているのだ。
今回の目的地であるこの町にもそういうのがあったのは幸いだった。
そして、さっきの俺と受付嬢との会話は、暗号を含んだ要件の伝達だったのである。『裏の品物の売却がしたいから、査定ができる者をよこしてくれ』って感じの内容だ。
で、ナタリアが……俺らとは顔なじみである、この女性が来たわけだ。
今年16歳、3つ年上の彼女とは、お互い新入りで『見習い』の頃からの付き合いだ。俺はまだ『部屋住み』になったばかりで、ナタリアはまだ娼婦ではなく、個々と同じような店で見習いだった頃からの。
何度も品物を持ち込んで取引で、あるいはその他色々な仕事で関わる内に、次第に打ち解けて仲良くなり……今じゃ、こんな風に砕けた口調で話す仲である。
さっきはああ言ったものの、彼女は仕事も早いし信頼できるから、正直助かる。
「なるほど、浅い階層だから質はそこまでじゃないけど、売り物としては……破損が酷いものはバラして売るとしても……今の相場が……で……売却益が……」
「……時間かかりそうなら一眠りしてていいか? ちょうどベッドもあるし、疲れててよ」
「娼婦がいる横でナニもせずに平気で寝るとか、相変わらず腹立つほどビジネスライクだこと……まあいいわ、さすがに量と種類がアレだから、ちょっと慎重に、時間かけたいし」
「んじゃ、ちょっくら仮眠するわ。……ネコババすんなよ?」
「しないわよ。この商売、信用が命なんだから……終わったら起こすわね」
その後、30分ちょっとくらい寝て、査定が終わったナタリアに起こされた俺は、売却代金から、『沈め』の手数料を引いた分を受け取って、取引終了。
その後俺は、軽食を頼んで夕食として食べたり、雑談しつつ情報交換したりして適度に時間をつぶし――娼館の客として一晩利用する体でここに来たから、あまり早く出ると目立つ恐れがある――適当なところで外に出た。




