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テンゴク  作者: 和尚
第2章 初めてのシノギ
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第21話 他の探索者との交流



調べ、魔物と遭遇し、倒す。

そんなローテーションで、俺たちは進んでいた。


そこに、探索と戦闘以外の要素が初めて加わったのは……地下5階だった。


罠を警戒しつつ、歩いて進んでいると……カロンから『ちょい待ち』と声がかかった。

聞けば、奥の方から、何やらガチャガチャと騒がしい音が聞こえるらしい。戦闘音か?


俺たちにはまだ聞こえないので、もう少し進んでみると……


「畜生! 数が多すぎる!」


「こんなところでっ……おい、まだ魔法は撃てねえのかよ!?」


「無茶言わないで! 今日何度目だと……っ……もう、限界よ……!」


「バカ野郎! それでもどうにかしなきゃ死ぬだろうが!」


薄暗いダンジョン内だが、どうにか目視できるくらいの距離で――ただし、ダークエルフ、悪魔、霊獣人の能力基準で――おそらくは、別の探索者のチームが戦っているようだった。


相手は、魔物の群れ。

それも……俺たちがまだここで遭遇したことのない、見たこともない魔物だ。


ただ、見た目一発どういう魔物かはわかる。


「スケルトン……」


「アンデッドが出るっつー階層に来た、か」


肉のついていない白骨の体に、剣と盾、そして少々の鎧?で武装した兵士たちが、探索者チームの3~4倍程度の数で襲い掛かっていた。


対する探索者チームは……5人か。ちと厳しそうだな。

よく見れば、それぞれ疲労もたまってるようだし……中に1人混じっている、魔法使いっぽい見た目の女性は、もう魔法使うのしんどい的なこと言ってた気がするし……ピンチか?


んー……さて、こういう場合どうしたもんかね?

別に、助けなきゃいけない決まりはないから、極論助けなくてもいい。自分たちも相当に疲れてるとか、物資が尽きそうだとか、状況が厳しかったりする場合は、特に。


しかし、探索者協会が、探索者同士の互助組織であることもあり、そういう時は極力助けてあげましょう、的なことを奨励はされている。

困った時はお互い様の精神、とでも言うのかね。


俺たちはそこに加盟していないとはいえ、理由もなく見殺し、っていうのもアレだし……一応、助けとくか。


ちょうどその瞬間、そのチームの中の魔法使いの背後から、剣を持ったスケルトンが迫ってきているのが見えて……直前で魔法使いはハッとして振り返ったものの、到底味方の援護が間に合う距離ではなく、顔色が驚愕と絶望に染まっていくのがよく見えた。


と同時に、デモルに視線で合図を送ると、デモルは素早くショートボウを構え、矢を放つ。


間一髪、って感じで……その矢がスケルトンの頭部を貫き、半分以上粉砕した。

パッと見じゃわからないが、デモルが魔力をまとわせていたその矢は、普通に放つよりも数段強力だ。刺突や斬撃が効きにくいスケルトンが相手でも、この通り。


突然のことに驚いていた魔法使いやその仲間たちだが、直後にこっちに気づき、視線を向ける。

そのタイミングで、俺は声を張った。


「そこのチーム! こちら通りすがりのもんだが……応援要るか!?」


「……っ、頼む! 礼はする、助けてくれ! 俺たちだけじゃこいつらは無理だ、殺されちまう!」


「あいよ。カロン」


「合点っす」


返事と同時に走り出すカロン。その足音に、こっちに気づいたスケルトンが何体か、標的を変更してカロンに向かっていく。


が、カロンを相手にするのに……その動きは遅すぎる。


スケルトンたちが一斉に、剣を振り上げ……振り下ろすよりも早く、カロンの拳が、スケルトン2体の頭蓋骨を粉砕する。さらに、3体目の剣をよけながらカウンターで同じようにし、ちょうど背後にいた4体目を、後ろ蹴りであばら骨を粉々に。支えを失って床に転がった頭蓋骨を踏みつぶした。


そのまま駆け抜けるカロン。左右から迫ってきていた新たなスケルトンは無視して。


そのスケルトンたちは……半分はデモルが弓矢で狙撃して仕留め、もう半分は、カロンに少し遅れて到着した俺が、鞘に収まったままの剣を振るって粉砕した。


向こうの方ではカロンが、探索者たちに襲い掛かっているスケルトンを、背後から、首を刈り取るような鋭いハイキックを繰り出して叩き壊している。


探索者たちは驚いていたものの、敵の狙う的が分散し、さらには数も減って余裕が出てきたことで攻勢に、いや反撃に出る。


魔法使いは、正真正銘限界だったようで、庇われている形に終始していたが……その他の3人は、上手く連携してスケルトンたちを破壊していた。カロンの半分にも満たない数ではあったが。


☆☆☆


スケルトンの軍団が全滅し、一息つけるようになるまで、1~2分といったところだった。

俺たちにとってはあっという間だったが、彼らにとっては長い時間だっただろう。


「さっきは助かった。礼を言わせてもらうぜ……俺はバングス。この探索者チームのリーダーだ」


そう言って、単発に筋骨隆々、重鎧を着こんだ男がそう挨拶してくる。

それに続いて、他の3人も。


「いや、気にしないでくれ。こういう時はお互い様だし。あ、俺はアイビスな」


同じ感じでこっちも自己紹介しておく。


後続のモンスターは来る様子もないし、傷の手当とかしないといけないということで、しばらく俺らはその場にとどまっていた。作業しながら、他愛ない雑談何かを交えて。


話してみると、割と気さくな人たちだった。


「それにしても、あんたたち強いな? 見た感じ、まだ子供に見えるがよ……」


「いや、バングス。よく見ろ、この……アイビスだったか? ダークエルフだ」


「? それが何だって……ああ、なるほど。見た目通りの年齢じゃねえのか」


「どうりであんだけ強かったはずだぜ。ひょっとして、そっちの2人もか?」


「あー、まあ、似たようなもんです」


何か、俺の種族を見て勝手に納得してくれた様子。

いや、確かに種族はそうだけど……ホントに見た目通りの年齢ですよ? ……まあ、言うと余計にややこしくなりそうだから、言わんけど。


その後、傷の手当が終わったらしい彼らは……何やら仲間内で相談していたかと思うと、リーダーであるバングスが、代表するかのようにこっちに歩いてきて、


「なあ、アイビス。提案があるんだが……お前ら、今日はこの先まだ進むつもりなのか?」


「え? あー、いや……まあ、一応は。ただ、そろそろ休もうかな、とは思ってましたけど」


時間的にそろそろかな、と思ってたところだったから。ちょうど。

まだまだ体力はあるが、慣れないうちから無理は禁物。セオリー通りに、きちんと休んで寝て、って感じの生活リズムは維持しよう、とあらかじめ決めていたことだ。


ダンジョンの中では、地べたにそのまま寝袋とか毛布を使って寝てもいいし、テントを張ってその中で寝てもいい。……要するに、野宿と変わらない。安全地帯とかはないので。


基本的に、誰か1人か2人、見張りを立てて、交代で、というのがセオリーだ。何かあった時に、すぐに対応し、また迅速に仲間を起こすために。


……本音言えば、俺たちの場合、ある理由でそれも必要ないんだが……当然、そのことについては説明しない。必要な意思、そもそも割と内容的にヤバいから。


すると、『もうそろそろ休むつもり』と聞いて、バングスはニヤリと笑った。


「そうかそうか! ならちょうどいい……提案があるんだが?」


「提案?」


「ああ。どうだ? 俺たちと組まないか?」


バングス曰く、ここから先は敵がさらに強くなる。ならばこちらも、攻略するなら戦力は多いほどいい。そのために、俺たち3人と手を組んで攻略にあたりたい、という。


加えて、これから野営するにあたり、人数が多い方が交代要員・スパンも多くとれるので、1人あたりの休む時間が長くなる。そのためにも、多すぎてもいけないが、ある程度人数がまとまって行動した方がいい、というものだった。


「俺たちもよ、本来はこの先の階層を探索できる実力はあるんだが……いかんせん、あれだけの大軍に囲まれるとは思わなくてな。だが、あんなことがなければもっといけるんだ。お前達と俺たちが組めば、それこそ怖いものはない、もっと下の階層まで行けるだろうぜ?」


「ああ。あんたら強いが、ダンジョン探索は初心者なんだろ? 俺たちはこれでも、もう何年も潜り続けてるベテランだ、色々と教えてやるよ」


なるほど、言ってることはわかるし、メリットもその通りだろう。

休める時間が長いってことは、それだけ体力・魔力を万全な状態にできるってことだから……下手すれば四六時中戦闘することになりかねないダンジョンの中では、有利なことだろう。


4人+3人……7人程度なら、探索のための人数としてはまあまあある程度だし。


それに、彼らの言葉を信じるなら……彼らは現場を知るベテランだ。ならば、学べることは多いだろう。それこそ場合によっては、紙面から読み取れる、購入できる情報よりも。


それは確かにわかる。探索が有利になることだと、理解できる。


が、断った。


バングスらからは、『何でだよ?』と、やや不機嫌な顔で問いかけられたが……そのへんは適当にお茶を濁してかわしておいた。

『俺たちはあくまで、俺たちのペースで進みたいから』とかなんとか言って。


それでも、メリットを並べて説得してくるバングス達だったが、丁重にお断りする。


「おいお前ら……こっちがせっかくこうして申し出てやってるのに、さっきから何だよ?」


「そうだぞおい。初心者なんだから、俺たちベテランの言うことをちゃんと……」


「おい、やめろお前ら。そうか……そこまで言うなら仕方ないな。けど、せっかくのチャンスを不意にしたこと、いつか後悔するかもしれないぜ?」


何度かそれを繰り返したところで……不満げではあったが、ようやく折れてくれたようだ。

途中、若干……押しつけがましいような問答もあったけども。


「その時はその時ですよ。手探りでなんとかやっていくのも、探索の醍醐味でしょ」


「そうか……なら無理にとは言えないな。だが折角だ、今日の野営だけでも一緒にどうだ? さっきの恩もあるし……金だけってのも味気ねえ。どうだろう、今日の夜の間の寝ずの番は、俺たちだけでやってもいい。お前らはぐっすり寝ててもらう、ってのは?」




その数時間後。


持ち込んだテントを組み立てて、その中で俺たち3人、川の字で横になって寝ていた。

寝袋は使わず、毛布だけ掛けて。


事前の申し出に甘える形で、魔物の警戒なんかの寝ずの番は、バングス達に任せている。

なので俺たちはゆっくりと、疲れを取るために朝までぐっすり眠る…………



…………わけがない。



現在俺たちは、探索時そのままの完全装備のまま、テントの中で寝ているふりをしている。


じきに来るであろう、『その時』を待って。


じっと狸寝入りを続けていると……小一時間ばかり経ったところで、外から声が聞こえて来た。


こちらに聞こえないよう、起こさないよう、声を小さく抑えているようではあるが……俺たち3人の感覚を、特にカロンの聴力を欺くには、あまりにも不足。無駄な努力だった。


「寝たか?」


「ああ、寝息も聞こえるぜ。ぐっすり寝てやがる……」


「薬はよく効いているらしいな。なら、少し騒いだり、縛ったくらいじゃ起きないだろうさ」


……これだよ。


あー……ちょっとだけ、探索者同士の協力? 共闘? 的なの、楽しんでたりもしたんだけどなー……こういうオチですか。


もともと、妙にしつこい同行の勧誘とか、感謝してる割には態度がで横柄だったり、こっちを見下してるような感じがして、気にはなってたんだ。いまいち、感謝してる相手への態度かコレ……って感じの思いが抜けなかったから。


まあ、それだけならただ、先輩風吹かせてるだけってのも考えられたけど……こういう稼業についてると、何度か目にする機会がある視線を、彼らから感じた。


人間とか、普通に対話する相手ではなく……奴隷なり、カモなり、食い物にする相手、あるいは同じ人間、対等の相手とも見ないような視線を。


極め付けは……夕食の時に、よかったらどうぞ、って持って来られたあのスープ。

遅効性の睡眠薬が入っていたあれが決定的だったな。


俺たちは、ソラヴィアからの訓練の一環で……毒物に対する耐性をつけるため、ちょっとずつ量を増やしながら、色々な毒物を摂取してきている。

種類も様々。普通の致死系の毒に、麻痺毒、下剤、自白剤系……もちろん睡眠系も。


なので、この程度俺たちには効かないんだが……念のため、手持ちの材料で解毒剤兼気付け薬を作って、3人で飲んでおいた。勉強しておいてよかった、薬学。


で、何が目的かまではわからないので、とりあえず泳がせておいて……今に至る。


「ダークエルフだけでも相当な額になるぜ? それに……残りの2人も人間じゃねーんだっけ?」


「ああ、そう言ってたな。詳しいことは聞けなかったが……まあ、仮にアレが嘘でも、人間でもあのくらいに顔の整った奴は高く売れるぜ?」


「あの戦闘能力も売り込みの材料にかければ、もっと高くなるわよ。そうしたら、折角だし、武器とか新調しましょうよ。私、前々から欲しいのがあったのよね」


「ははっ、いいなそれ。俺も、もうちょっといい装備揃えたいと思ってたんだよ」


「そうすりゃ、もっと下の階層まで潜れるようになるかもしれねえな」


「ああ、そうだな。本当なら、あいつらを利用して、下まで探索した後で、捕まえて売り飛ばしたかったんだが……まあ、仕方ねえさ」


…………なるほどね。そういう目的でござんしたか。


「出会って共闘した探索者チーム一発目がこんなんとか、テンション下がるわー……」


「まあ、現実ってこんなもんっすよね。人のいい顔して近づいて寝首かくのは基本っすよ」


何の基本だ。何の。


つか、人のこと売り飛ばして、その金の使い道まで考えてやがる上に……ここより下の階層に行けるって話、嘘かよ。呼吸するようにあんな……いやまあ、予想はしてたけども。


「まあ、あんな調子じゃ、いくら強くったって、他の連中に食い物にされるのがオチだ。だったらここで俺たちが有効活用して、世の厳しさって奴を教えてやるのがいいだろう。あいつらを売る金は、その授業料ってことでよ」


勝手なことを……人攫いってのはどいつもこいつも……


かつて、俺とモニカを誘拐した連中のことが脳裏に浮かぶ。あの時とは状況も何もかも違うけど……人を金に換えられるものとしか見てない連中に抱く不快感は、似通ったものがある。


まあ、こっちは同時に……ばれていることに気づかない道化でもあるわけだが。


さて、とりあえず、向こうさんが動き出すようなので……2人共?


「はい」


「了解っす」


テントの入り口に、1人分の影が近づいてくる。あのシルエットはたしか……片手剣使いの男だな? 名前は……まあいいか。


「おい、誰か手伝えよ。ガキとはいえ3人いるんだからよ」


「バカ、そんぐらい1人でやれや。一番ケガが少ねーんだからよ。運ぶ時は手伝ってやるから」


「ちっ、わかったよ……あー畜生、ついてんだかついてねえんだか」


「ちょっと、乱暴にしないでよ? 傷でもついたら値段が下がって買い叩かれちゃう。売った金で買うものももう決めてるのに、足りなくなったらどうしてくれるの?」


そんな会話をしながら、男がテントの入り口に手をかけ、そこを開いた瞬間、


「やれやれ、さっさと……ん!? な――」


そのまま、カロンが首根っこをつかんでテントの中に引きずり込む。

そして、何か言うなり叫ぶなりする前に、口を塞いで首の骨をゴキッと……静かになった。


外からは、困惑している雰囲気が伝わってくる。

無理もないだろう。外からは、いきなり仲間がテントの中に飛び込んで、そのまま出てこない……ように見えてるだろうから。


「お、おい……?」


おそるおそる、といった感じで入り口に近づいてくる、もう1人の男。バングスじゃない方。


「おい、不用意に近づ――」


慌てて、バングスが注意しようとするも……時すでに遅し。

テントの入り口、そのわずかに開いた隙間から、矢が放たれ……そいつの眉間を貫いた。


「……きっ、きゃああぁぁあああ!?」


「なっ……ペスタ! まさか、あのガキ共起きて……」


「そゆこと。残念だったな」


ゆっくりとテントから出て、俺は残った2人のうちの1人……バングスの前に立つ。


さっきまでの気さくな雰囲気はどこへやら、憤怒を隠そうともせず、顔を醜く歪ませて……しかしその頬を伝う冷汗を隠すこともまたできずにいるバングス。

ちょうど得物の大剣を鞘から抜いて、こっちに向けて構えるところだった。


「てめぇ……起きてやがったのか。よくも俺の仲間を!」


「正当防衛正当防衛。あんた、俺らに何しようとしたか考えろや、そりゃ抵抗するだろ」


「うるせぇ! ガキが……大人をなめるなよ!」


唾をまき散らしながら喚くバングスは、じりじりとこっちに近づきながら言う。……取り乱して怒ってはいるものの、『ベテラン』は一応嘘じゃなかったっぽいな。様にはなってる。


「さっきは疲れてたが、今は腹も膨れてる……体力も戻った! 無駄なケガしたくなけりゃ、抵抗なんてしねえ方が身のためだぞ!」


……どうやら、スケルトンと戦ってた時は、自分は疲れてて、俺らは元気いっぱいだったから、ああまで動きに差が出たのであって、飯も食ってゆっくり休んで、体力が回復した今なら負けない、と思っているらしい。


「……ベテランの割には見る目ねーのな。よく今までやってこれたもんだ」


「このガキ!」


沸点が低いらしいバングスは、今ので怒ったか、突っ込んで切りかかってくる。

……殺す気で来てるように見えるんだが……売るんじゃなかったのかよ。


まあ、どっちでもいいか。どっちも不可能だし。


大上段から振り下ろされる大ぶりの一撃を、俺は斜め前に転がるようによけて……懐に入る。

その勢いで抜刀した俺は、小さくそれを振るい……左足のアキレス腱を切り裂いた。


「ぐああぁぁあぁああっ!?」


腕を振り回して俺を追い払いながら、激しい痛みに絶叫するバングス。

腱を切られた左足は、痛みで地面につくことができないばかりか、膝より下をまともに動かせない。必然的に、残った右足で片足立ちするしかなくなる。


これではもう、攻撃どころか移動すら満足にはできない。それをバングスが理解しているか……はたまた、まだ痛みで頭がいっぱいで、そこまで思い至っていないかはわからないが……


……まあ、どっちでもいい(2回目)。


奇襲とはいえ、魔法すら使わせずこうして全滅してる時点で、実力なんてお察しだ……年季が入っている、って意味でなら、そりゃ確かにベテランだろうが……俺らに対してでかい顔するには、鍛え方が足りなかったな。


「く、来るな! 来るんじゃねえ、このバケモノ!」


「言うに事欠いてバケモノとは何だ、失礼な……」


「ま、待て! お、落ち着け! お、俺をここで殺したら、どうなるかわかってるのか!?」


? どうなる……っていうか、どうにかなるのか?


「お、俺は……『ビーストホール』に所属してるんだぞ! この町でも3指に入る大手のクランだ! お、俺を殺したら、そこを敵に回すことに……」


『クラン』……ああ、探索者が寄り集まってできる、チームの大規模版みたいなやつか。


1つの中小企業みたいになってて、探索者としての働きだけじゃなく、武器や物資の仕入れとか会計とかまで組織だって行うらしい。

きちんと機能すれば、単に同じ数の探索者が組むだけよりも大きな力になるそうだ。


「へー、そりゃちょっと厄介そうだな」


「そ、そうだろ? だから、今なら「でも」」


……ここで生かして返す方が面倒そうだ。


絶対報復とかしてくるだろうし、その……クラン? に報告も自分でするだろう。多分だけど……盛大に真実を捻じ曲げて。俺たちの方から襲って来た、とか。


そっちの方が面倒だ。当初のとおり、証拠を極力残さず始末した方が……絶対いい。


「や、やめろっ! 俺が死んだら、クランの連中が皆、お前達を殺しに……そ、それだけじゃねえ! 他のクランでも、俺がこの町で世話してやった奴ら全員が敵に回る! そうなったら、間違いなくお前ら殺されるぞ! 逃げても追ってくる、探索者として生きていくことなんてできな……」


「その辺は問題ない。……もとからそんなつもり、ねーからな」


と言うわけで……あきらめろ。


上手く立てずにとうとうすっ転び、ぎゃあぎゃあと喚きながら、這うようにして後ずさるバングスに近づき……邪魔だから剣の腹を蹴っ飛ばして武器を手放させて……首を飛ばす。


恐怖の表情を張り付けたまま、転がっていくバングスの首。


「普通に付き合えてりゃ、別にあんたらをどうこうする気はなかったのにな……無難に、礼には礼を、誠意には誠意を……それだけやれてりゃ人付き合いなんて大体上手くいくし、どうにでもなる。なのにどうして、どいつもこいつも欲張って、それがわからないのかね……」


心の中で、前世でもそうだった、と付け足しつつ……俺は剣を鞘に納めた。





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