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テンゴク  作者: 和尚
第2章 初めてのシノギ
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第20話 初・ダンジョン



明けて翌日。


朝食も食べ、身支度も済ませ……まあ、というか荷物的に必要なものはあらかじめそろえてからこの町に来たので、ホントに朝の身支度だけ済ませただけで準備完了だったんだが、俺たちは今、迷宮都市の中心部にある『ダンジョン』……その入り口をくぐったところだ。


「話に聞いてた通りの場所だな……なんつーか、感想にしづらいが」


「荘厳と言えば荘厳……地味と言えば地味、といったところですね。まあ、誰が作ったのかもわからない遺跡に、気の利いた装飾を求めても、というところですが」


肩をすくめてそう言うデモルの今の装飾は、さすがに普段の服装ではない。


今は、普通の旅人や探索者にありがちな、動きやすい旅装に丈夫なブーツ、そしてバックパック、と言った感じでかためている。

俺やカロンも同じ感じだ。この迷宮都市ではどこにでもいる……バザーやら協会やらで、どこを見てもほぼ視界に1人くらいはいるであろう、没個性的な服装。


まあ、目立たないのが目的だし、荒事がしばらく続く環境下に身を置くことを考えれば、ふさわしいと言っていい服装なので、何も文句とかはない。

着心地が違うのは気にならなくもないが、すぐ慣れるだろう。


そして装備だが、こればっかりは生死に直結する大事な要素。

目立ちすぎたくはないが、粗悪品で妥協するのもためらわれるので……そこそこの品質のものを用意した。


俺は、腰に差す片手剣。

デモルは、小さくて取り回しがきくショートボウ。

カロンは、補強用の鉄板のついたガントレットとブーツ。


どれも、過剰な装飾も何もなく、地味で目立たない店売りの品……に見えるが、実際は違う。


『ヘルアンドヘブン』の同僚に頼んで作ってもらった、見た目よりもだいぶ性能がいい品物である。そんなでもない外見は、そう見えるように偽装してもらったが……仮に買うとなれば、見た目の倍じゃ効かない値段が付くだろう。


そんな感じで装備を整え、俺たちは縦横にかなり広い迷宮の中を進んでいく。

浅い階層は地図が細部まで充実しているので、素直に買ったコレを有効活用するつもりだ。


まだ浅いここらでは、普通に他の探索者なんかも見かける。

彼らは一様に、こっちを見て……同業者を品定めする視線を送ってくる。それ以上の、何か突っかかってくるようなことは、今のところ起こっていないが。


まあ、昨日とあわせて、テンプレ的な展開がないことに拍子抜けはしたものの、面倒がないのは大歓迎だ。できればこのまま最後まで行ってもらいたいもんだが。


「しかし、居ないっすね、魔物」


「このへんのはほとんど狩りつくされてるんだろ。この人数だ、どこに魔物が湧いて出ても、誰かの目にはつく。浅い階層だからさして強くもないだろうし、狩られて終わりだ」


「すると、我々はもっと奥の方に行った方がいい、ということですか」


「多分な。できれば魔物の強さをちょっとずつ把握しながら行きたいところではあったが……まあ大丈夫だろ、俺たちなら。……ここにいる連中で対処できるレベルだからな」


最後の部分だけは、ぼそっと小声で言う。


ぶっちゃけ、俺たちから見て……周りにいる連中は、悪いがザコにしか見えないレベルだ。装備の質も悪ければ、動き方も、周囲の気配の探り方も……何もかも拙い。ソラヴィアに鍛え上げられた俺たちから見れば、あの程度は、10歳になる前にできていた。


そういう連中で相手になる魔物なら、俺たちなら問題なく対処できるだろう。

事前に買った魔物関連の情報を見ても、その辺は予想できる。


もっとも、これで『何だ楽勝じゃん』とか油断したり、調子に乗るつもりはないが。

この3年ちょっとで、色々荒事とかも経験してきたとはいえ……俺らの世界はまだ狭い。今まで戦ってきた敵が弱かった、十分戦えたからと言って、よそでそうだとは限らないんだから。


……今んとこ、そういう連中にはほとんど出会えてはいないが。


とりあえず、視線は気にしないことにして、さっさと奥の方へ行く。


早足になる俺たちを見て、視界の端で、何人かの探索者がひそひそと小声で話しているのが見えた。……カロンに目をやる。


「んー……『馬鹿な奴らだな、素人が調子に乗っていきなり奥の階層なんかに行ったら、まず生きて帰れねえのによ』『まだガキじゃねえか、短い人生だったな』……大体そんな感じっすね」


カロンの鋭敏な聴覚は、そこそこ離れた位置でのひそひそ話も難なくとらえていた。


「客観的に見りゃ妥当な感想だな……まあ、突っかかってこない限りは放置でいいだろ」


「そうですね。先を急ぎましょう」


そんな感じでしばらく歩いていくと、入り口付近には多くいた人もまばらになっていき、見渡す限りでは他の探索者を見つけられない場面も多くなっていった。


そしてそれに合わせて、魔物との遭遇も始まった。


最初に出てきたのは、犬のような魔物だった。

名前は『ワイルドドッグ』。主に草原などに生息し、見た目のとおり肉食。小動物を主に食べるが、群れをつくると自分より大きな相手を襲うこともある。


外の世界でも出てくる魔物なので、俺たちも見たことも、戦ったこともある相手だ。


……まあ、生息地についての説明は気にしても仕方ない。

ダンジョンの中は、基本的に不思議空間だ。魔物が何もないところからポップする……自然に湧き出ることに始まり、放置された魔物の死体が一定時間で消えたり、どう考えても環境的に出てくるはずのない魔物が出てきたり、何でもありだ。


そして、ダンジョン内の魔物は、一部の例外を除いて、相手が何者であれ、逃げない。

同じダンジョンの魔物であれば何もないが、侵入者……探索者には、普通に向かってくる。たとえ、その探索者がどれほど強そうでも。


その『ワイルドドッグ』も、こちらを見つけるや否や、走って飛びかかってきた。


すぐに倒さず、ちょっと様子を見た感じ……地上で戦ったやつよりも、やや強そうだ。

ダンジョンの中の魔物は、程度に差はあるが、普通に遭遇するものより強化されている場合があるらしい。そのせいだろう。


しかし、そこまで露骨に警戒する必要があるものでもなかったので、さくっと仕留める。


跳躍して噛みつこうとしてきたのをかわしながら、片手剣を振り下ろして首を落とす。

当然ながら即死したその犬は、力なくダンジョンの床に転がった。


びゅん、と剣を振って血を払い落し、鞘に納める。


「デモル。この階層の魔物……こういうのが主なんだっけ?」


「ええ……まあ、種類はそこそこいるようですが、代わり映えはしませんね」


ぱらぱらと資料をめくりながら、デモルが肯定。


「んー……魔物も出て来たし、一応様子見ながら慎重に行く予定だったっすけど……なんか、予想以上に退屈そうじゃないっすか?」


「……もう少しハイペースで行ってもいいかもな。とりあえず、罠にだけ注意するか」




それからしばらく進み……階下へ降りる階段を見つけて、地下2階へ、

さらにその繰り返しで、地下3階へ降りた。


そこまでくると、さすがに探索者も見られなくなってきて……魔物との遭遇の方が頻度高くなってきた。この辺りはもう、ちょっとかじった程度の探索者は近寄らないんだろうな。


群れで襲い掛かってくるような魔物も、ぼちぼち現れてきてるし。


「あらよっ、と」


「ギギャアァッ!!」


空から飛びかかって爪で攻撃してきた鳥の魔物を、攻撃をかわしながら翼を切り落として墜落させ、踏みつぶしてとどめをさす。


その後すぐに、また別の一羽を同じように倒し……少し離れたところにいて、警戒して近寄ってこない残りの奴は、投げナイフで撃ち落とした。


その向こうでは、カロンとデモルが、同じように襲って来た魔物を相手に暴れている。


「――シッ!」


さっき襲ってきたのと同じ『ワイルドドッグ』の群れ。しかし……間合いに入るやいなや、目にもとまらぬスピードで一閃するカロンの拳に返り討ちにされている。


噛みつこうと開いた顎を、下からのアッパーカットで強引に閉じさせられ、歯がガチンッ、と硬質な音を立てる。体ごとカチ上げられ、その勢いで首の骨が折れているのがここからでも見えた。明らかに生物としておかしい角度で首が曲がってるので。しかも背中側に。


その横から来た奴の頭にフック、また別の奴に裏拳、そして後ろ回し蹴りで2匹いっぺんに……という具合で、間合いに入ってきた奴を次々に仕留めている。


俺たち3人の前衛役であり……『霊獣』の身体能力と超感覚にものを言わせた、死角皆無の超反応と、超威力の打撃を併せ持つストライカー。それが、カロンの戦い方だ。

ファンタジーの職業とかの区分で例えるなら、修行僧モンク、あたりになるんだろうか?


本気になるともっと戦いの手札は増えるんだが、今はあれで十分すぎる様子。


そしてそれは、デモルの方にも言えるらしい。


「おや……新手ですか」


通路の奥の方から、増援と思しき新たな魔物の群れが姿を現し、こっちにやってくる。

色々と種類が混じっていて、初心者とかなら、その勢いにパニックになりそうな光景だが……次の瞬間、雷をまとった矢がその団体のど真ん中にいたワイルドドッグの眉間を貫いた。


ちらっと見ると、放った直後の姿勢……かと思えば、すでに次の矢をつがえて弓の弦を引き絞っているデモルがそこにいて……しかも今度は3本同時に装填している。

そして、その3本とも……バチバチと火花を散らし、帯電しているのがよく見えた。


無言でそれを射出するデモル。光の軌跡を残しながら飛ぶ矢は、3本それぞれ別々の標的を射抜き、内部から電撃で焼き尽くして絶命させる。


それがあと2回繰り返され……俺たちまであと10メートルほどのところで、魔物の群れは全滅した。雷使いのスナイパーに全滅させられた。


そのタイミングで、ふと気づいたようにデモルが、


「……おや、属性魔法を使っていたのは私だけでしたか……ふむ、もう少し絞って戦えばよかったでしょうか?」


「いや、別にどっちでも大差ないし、いいんじゃないっすか? それにデモルっちは矢の消費を少なくしなきゃっすし、一撃で確実に仕留めた方がいいっしょ」


そう返しつつ、カロンは『ワイルドドッグ』最後の1匹を仕留めたところだった。


「いやーしかし、結構仕留めたっすね。20くらい居そうっす」


「だな。人がそんなにいない分、集中して襲って来た、って感じか」


「でしょうね。まあ……1匹1匹は大したことのない魔物ばかりでしたし、さほど危機感はありませんでしたが……これ以降の階層でも、こういうことが起こりうる、ということですか」


「あー、なら、一応は慎重に行った方がいいんすかね?」


「ある程度は、だな……まあ、全然本気じゃなくても軽く殲滅できたわけだし、そこまで神経質になる必要もないだろ……まだ、な」


使った投げナイフを回収しながら、この先の攻略ペースについて相談し……それも終わると、俺たちは先に進むために歩き出した。


後には、20匹近い魔物たちの死体が残されているわけだが……ダンジョン内で死んだ魔物の死体は、一定時間で消滅するので問題ない。

魔力だか何だかに分解されてダンジョンに吸収・還元されるんだそうだ。


ただ、解体して素材にしてしまい、袋とかに入れて持ち帰れば大丈夫なんだそうだ。……よくわからんが、まあ、そういうことらしい。


もっとも、この階層では、魔物自体からとれる素材で換金できるものはほぼないため、このまま放置していくことに変わりはないんだが。


じゃ、先に進もうか。





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