表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンゴク  作者: 和尚
第2章 初めてのシノギ
21/54

第19話 迷宮都市リングウッド



ここは、『迷宮都市・リングウッド』。

俺たちの目的地である『ダンジョン』を中心に作られた都市である。


アリシアを買うための金を稼ぐ手段、あるいはその種銭稼ぎを『ダンジョン』に見出そうとひとまず決めた俺たちは、ソラヴィアに申し入れて休暇(という名の特別任務)をもらい、こうしてダンジョンのある町まで来た、というわけだ。


身の回りで揃えられる限りの、戦闘およびサバイバルに使えそうな装備をそろえて。


『リングウッド』は何と言うか……第一印象、いかにも『異世界』って感じの町だ。


縁日みたいな感じの露店がいくつも並んでいて、そこで、色んなものが売られている。

食料、雑貨、武器、防具、薬品……あとは、ちょっと見ただけじゃよくわからないものも。


もちろん、しっかりした建物の店舗を構えている店も多くある。食堂とか、大きめの規模の商店……その他色々だ。並べてたらキリがないな。


『ディアンド』よりも活気にあふれている感じがする。一応、大きめだと思うあの町が『田舎の域を出ない』と言われる理由がわかる気がするな。


まあ、この『リングウッド』はこの国でもかなり発展している方の都市らしいけど、それを差し引いても大した盛況っぷりだ……ちょっと購買意欲とか出てきそうだな。


そんなことを考えつつ、俺たちは町の中を歩いていく。


「さて……まず、どこ行くんだっけか?」


「『探索者協会』です。そこで、色々と情報を集めましょう」


『探索者協会』というのは、ダンジョンへ赴く探索者達を支援するための支援組織であり、同時に、探索者達が互いに支え合い、助け合うための互助組織だ。

異世界ラノベで言う、冒険者ギルドみたいな感じだと思えばいい、と思う。


もっとも、小説でよくあるように、いくつもの国にまたがって国際的な組織だったり、国家の干渉すらはねのける絶対中立な独立機関だったりするわけではない。


あくまで、この『リングウッド』の町がダンジョンを有することから、必要に応じて立ち上げられた機関だ。ダンジョン探索に当たって必要なことを、互いに助け合って成り立たせるための互助組織というか……労働組合とかに近い位置づけである。


とはいえ、仮にも町の中心機関だ。張りぼての組織というわけではもちろんない。

きちんと、ダンジョンを探索する者達をサポートするにたる力と機能を持っている。


例えばそこには、先人たちがその命をかけてダンジョンに潜り、持ち帰った幾多の情報が保存され、管理されている。地図や、出てくる魔物の情報、罠の情報……エトセトラ。


ダンジョンから持ち帰ったアイテムを換金することもできる。

別に他の、普通の素材取扱店(というのがある、らしい)とかでもできるのだが、探索者協会はそういうの専門の鑑定士とか識者を多く有している。なので、対応が迅速だそうだ。


ギルドっぽく、『依頼クエスト』も張り出されている。とはいえ、ダンジョン関係限定なので、せいぜい『○○○の素材を納品して欲しい』だとか程度で、幅は広くはないみたいだが。


さらに、探索者たちにとっては出会いの場でもあり、そこでチームを組んで探索に乗り出す、なんてことも多い。そのための酒場なんかも、中に設置されてるそうだし。


……他はともかく、俺たちはこの『出会い』の役割には用はないな。

この3人で挑むつもりだし……それ以外に誰かを加える気はないから。


「ま、そりゃそうっすね。下手に他人を加えるくらいなら、俺ら3人の方が、連携とかもやりなれてますし」


「役割のバランスもいいもんな、チームとして。まあ、そうなるように鍛えたんだが」


「それに私とカロンは、色々と人に言えない部分もありますからね」


近距離戦はカロンが、中距離戦は俺が、遠距離戦はデモルがそれぞれ得意だし……その得意分野以外も、各自、不足ない程度にはこなせる。


さらに、こういうのには欠かせない回復役も、俺がいる。補助系の魔法なんかも、各自使える。カロンは『霊獣』としての感覚の鋭さがあるし、デモルはその豊富な知識と頭の回転、そして『悪魔』の技能で色々と立ち回れる。


一般にダンジョンで必要とされる、仲間を集めて補う技能は、一通りそろっているのだ。


そして、もともとが3人でチームである俺たちなら、探索者が複数人、あるいは複数チームで組むと必ず起こる、報酬の分配という問題もない。稼ぐ目的が3人とも共通だからな。


男3人。若干むさくるしく見えるかもしれないが……いや、3人が3人とも女顔だから、そうでもないか?……まあ、これが最善のチーム構成だろう。うん、これで行く。


「それと、探索者協会には、探索者として『登録』する制度があるようですが……」


「? 登録、って……何かいいことでもあるんすか?」


「探索者協会の系列、ないし加盟店などで、様々なサービスを受けられるようです。安くものを買えたり、商品などの予約に優先権が発生したりするようですね。ただ、登録していないからといって、何か致命的に不利な部分があるわけでもないようですし、地図や物資などについては、登録者よりは割高とはいえ、誰でも普通に購入可能のようですので」


「ほー……で、登録するデメリットとかはあんのか?」


「長期間、ある程度の探索による成果を出さなかったり、『依頼』を一定の回数連続して失敗したりすると、除名処分になるようです。その後、再登録は可能ですが……場合によっては、一定期間はそれが不可能になるようで。また、探索の成果は逐一報告する義務が生まれます。また……滅多にないようですが、ダンジョンから魔物があふれ出す『スタンピード』という事態が発生した際、町に居る場合は強制的に招集され……」


「よしわかった、登録はしない方向で行こう」


「おや、よろしいので?」


と、デモルが聞き返してくるが……形だけだろう。こいつの中でも、結論は出ているはずだ。


俺たちは別に、『探索者』で食っていこうとしてるわけじゃない。

というか、なろうとも別に思ってない。ただ単に、ダンジョンで金を稼ごうとしているだけだ。


ぶっちゃけ……ダンジョンに潜るのは、今回限りになる可能性すらある。あくまで今回、必要な金を稼ぐためにこうしてここに来たわけだから。継続的に使う意味での『シノギ』のする予定は、今のところ、ない。


それこそ、ここで継続的に十分な金を稼げるとかなら別だが、前評判その他を聞く限り、まずないだろうし。


もしかしたら今後、暇つぶしとかでここにまた来るかもしれないが、いずれにせよ、別にここを拠点にするつもりもない。ここでしか使えない特権をもらっても……短期間だけのメリットじゃ、デメリットに勝るとは言えないだろう。


系列店で割安でものが買える部分は魅力的だが、それがなくても、要するに適正価格で買うことになるだけのことだ。それだけなら、別に問題でも何でもない。


「まあ……迷宮内の出来事を報告しなきゃいけないとか、面倒っすからね」


「報告したくない出来事がおこらないとも限らないしな」


具体的には言わんけど……まあ、こんな商売してると、その辺はよくあるんだ。


別に後ろ暗いことをしようとしてるわけじゃないが……強いて言えば、俺たちの目的が、金を稼ぐことだっていうあたりだ。


ダンジョンの中で手に入る、色々なアイテムや財宝。

それらをそのまま財源とする――または、有用そうなものは自分たちで使う――つもりである俺たちは、そこに他者の意思を入れたくない。


一応、ダンジョンから持ち帰ったものは、持ち帰った本人あるいはチームが使うなり、売るなり、自由にしていいことになっている。が、何事にも例外と言うものはあり……協会側から、あるいはもっと単純に……権力者からの介入で、『適正な価格』で引き取られることもある。


余りに危険な品だったり……あるいは、公共の利益のために、公的機関、あるいは貴族などが保有している方がいい、と思われるような場合だ……そういう『建前』を、含む。


そういうのは、極論、別に探索者に登録してなくても来る時は来るだろうが……報告義務も何もなければ、一応その危険性は減る。やばいものを持ってても、バレなきゃいいのだ、要は。


と、いうわけで……俺らには、登録するうまみがさほどない。なので、しない。

互助の精神は結構だし、ヤクザにもそれに通じる理念がなくもない。けど、しない。


「じゃあ……その『探索者協会』とやらには、情報収集のためだけに行く、って感じっすか?」


「そうなるわな。地図と、魔物の情報。あ、あと罠もだな。それくらいか?」


「一応、ダンジョン内の治安等や、注意事項等についても聞いておきましょう。あとは……どの程度まで防衛行為が容認されるか、あたりですね」


「ああー……そのへんは気になるな」


こないだも思ったけど、ダンジョンの中って、要は、外から見えない空間だもんな。


勝手なイメージだが、冒険者……じゃなくて探索者って、荒っぽい連中多そうな感じだし……見てないからってよからぬことを企む連中がいないとも限らん。


「えっと……つまり?」


「喧嘩売られた場合にどこまでやっていいか、ってことだ」


「殺られる前に殺る、じゃだめなんすかね?」


「時と場合によるだろ。まあ、それがある意味、一番ありがたいんだが……あ、カロン。いざって時は証拠隠滅頼むな?」


「了解っす」


正当防衛くらいは許してほしいもんだ。できれば過剰防衛も。

将来の禍根を絶つ、って重要だと思う。


別に、こっちから積極的にそういうことをやるつもりはないよ?

ただ……こっちの都合を考えず、こっちに損害を与えようとしてくるバカ共に、わざわざ配慮したくないってだけで。手っ取り早く処分しても、罪にならないでほしいなー、と。


ま、そのへんは気を付けてやっていくとして……とりあえず、探索者協会とやらに行こう。



☆☆☆



「ようこそ、リングウッド探索者協会へ。ご用件は?」


木造の、割と大きな建物……『探索者協会』に到着した俺たちは、中に入り、窓口で応対してもらった受付のお姉さんからの第一声がこんな感じでした。


「情報の閲覧……購入? えっと、どういう扱いになるのかわからないんですが、ダンジョンに入るつもりなので、その下準備に情報が欲しいんです。あと、地図とか買いたいです」


「情報、ですか。それでしたら、適宜代金をいただいて、こちらから提供させていただく形になります。お客様、失礼ですが……本協会に登録は?」


「してないですね。一応、しないで活動する予定です」


と、断っておく。


それでも一応どうですか的に、受付のお姉さんからは勧誘を受けた。協会に登録することでこんないいことがありますよ、って感じで。重ねて断ったけど。


そうすると、少し残念そうにしつつも、それ以上誘ってくることはなかった。

意見が変わらなそうだと悟ったか、あるいは、珍しいことじゃないのか。


気を取り直して、どういった情報が欲しいのかを告げる。途中、デモルから追加というか、補足が入ったので、それも取り入れつつ、一通り伝え終える。


「……はい、かしこまりました。では、用意させますのでしばらくお待ちください」


そういって、番号札っぽいのを渡された。


「あ、あと地図とかも欲しいんですけど」


「そちらは売店で購入できますので、お手数ですがお足をお運び願います……よろしければ、情報の方もあちらで受け取りと清算ができるようにいたしますが?」


手ですっと指さされた方向に、なるほど、売店が見える。


駅のホームとかにある、あの小さくて狭い感じの店じゃなく……コンビニのレジくらいの大きさ、ないしゆとりはありそうな感じだ。ディスプレイ?に商品がいくつも並んでいて、色々な種類のものを売っているのがわかる。雑貨から、食糧品、書籍っぽいものまで……様々。


「んじゃ、それでお願いします」


「かしこまりました。おかけになってお待ちください」


その数分後、俺らは売店で必要なものを受け取った。


情報は……以外と文明的というか、扱いやすい感じにまとまっていた。

ルーズリーフ、って言ってわかるだろうか? あらかじめ穴の開いた、バインダーに閉じれば本のページになる紙。統一された企画のそれに、1つ1つの情報がまとめられていて、別売りのバインダー(みたいなやつ)を買うと、それにとじることで、情報の冊子になるわけだ。


バインダーは、ただ単に紐で縛るだけの奴だったけど、十分使いやすい。ページをめくる時、紙を破らないように注意が必要だけども。


情報の取捨選択をして、必要なものだけ買う、ってことがよくあったためだろうか。こういう技術というか、様式が開発されたのは。


必要なものはそろったので、いざダンジョンに……入るには、今日はもう昼過ぎ、夕方に近い時間だからちと遅いだろう。ゆっくり休んで、明日から行くことにした。


一晩だけの安宿をとり、3人相部屋でいつもどおりにぐっすり眠って……その日は終わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ