第18話 作戦会議
「そういうわけだ……悪い2人とも、勝手に決めちまって。もちろん、嫌なら……」
「嫌なんてことないっすよ……つか、水臭いこと言いっこなしっすよ、兄貴!」
「ええ。僕もカロンも、貴方の役に立つのが迷惑なわけがないでしょう?」
拠点に戻り、今日あったことを……かつての知り合いというか雇い主を見つけて、それが奴隷になっていて、買い戻すことにしたということを伝えた。
そのために、1500万ロールという、桁の違う資金が必要になるということも。
そういうわけで、只今作戦会議中だ。
この方針で2人とも納得してくれたとはいえ、まずその手段から考えなきゃいけないからな。
言うまでもないことだが、今までみたいに普通に雑用や先輩方の手伝いなんかしてたところで、2ヶ月で1500万なんて大金がたまるわけもない。
今まで稼いで溜めて来た貯金全部あてても、10分の1にすら届かないだろう。
となれば、何か一発でドカンと稼げる方法を見つける必要があるわけだが……
(そんなもん、その辺に転がってるわけねーよな……普通に考えて)
金を稼ぐのがそんなに簡単なわけがない。ゲームやアニメじゃないんだから、少しの金でもそれに見合った労力をつぎ込むか、ないしはリスクを背負わなきゃいけない。
それを無視して楽に稼げる方法なんてない。あってもろくな方法じゃない。
そんなことができるんなら誰だってそうする。俺だってそうする。
……まあ、違法行為上等で金稼いでる俺ら『ヤクザ』が言うことかって言われるとちょっとアレなわけだが……それは置いておこう。幹部クラスならともかく、ヤクザだろうが何だろうが、簡単に用意できるような額じゃないのは確かなんだから。1500万ってのは。
この世界における通貨単位『ロール』。
レートで大体、1ロール=1円くらいだと思う。
日本とは物価がやや違うので、もうちょっと複雑というか、そこまで正確ではないかもだが。
しかしそう考えると……1500万円か。
サラリーマンの平均年収の2~3年分。言うまでもなく大金である。繰り返すが……たった2ヶ月じゃ、まともな手段じゃ無理だろうな。
「……普通に考えて無理っすよね。でも、それでも俺らに……兄貴に対して、姐さんがこれを条件として提示したってことは……」
「できる、と……少なくとも、不可能ではない、と思われているのでしょう」
「……でっかく期待してもらえたもんだ」
それ自体は嬉しい。今までの努力を評価してもらえているようで。
……けど、実際問題何をしたらこんだけの金額を稼げるのやら……?
普通に考えれば不可能、ってことは、十中八九『普通じゃない』手段が必要になる。
幸いと言っていいのか、今まで色々な『稼業』を手伝う中で、そういうのに触れてくることは……すなわち、裏稼業のノウハウを学ぶ機会は多かった。それ相応に経験値は持っている。
だが、収益の大きい稼業ってのは、それだけ必要になる『種銭』……要は、準備ないし仕込み等のために必要になる金も大きな額になる。
稼業によっては、様々な人脈やら設備も必要になるだろう。そんなもん用意できない。
それに、上役達や先輩方と稼業が被るようなことは……そういう人たちの邪魔になるようなことは、この業界じゃあ絶対にアウト。ご法度だ。
この時点で、やれることなんてかなり狭まってくるよな……。
(ましてや時間もない。2ヶ月っていう期間は、金額を考えるとあまりにも短い……設備ないし準備にすら時間をかけられないって、どんだけ厳しい条件だよ……)
この条件でできそうな稼業を考えてみると……ヤバいのしか残らない気が……。
そういうのって、大概上手くいかなかったり、ちょっとしたことで足元救われて失敗したり、大変なことになるケースが多いから、気が進まないんだが……そうも言ってられない、か。
3人で一通り知恵をだしてみたものの、出てきたアイデアと言えば……やはり、ヤバいか、不確かか、あるいはその両方、って感じのものばかりだ。
今のところ、
1.能力を生かした商売
2.賞金稼ぎ
3.ダンジョン
4.タタキ
見事に物騒というか、偏りのあるものがそろった……。
あと、他は似たり寄ったり……だな。
……今の俺たちでも、設備とか関係なくできて、ある程度大きなリターンが期待できるものなんてのはこの程度のもんだ。
『能力を生かした商売』ってのは、早い話が、俺の治癒魔法や、デモルの『呪い』なんかを使って金を稼ぐってことだ。
治癒魔法の使い手はそこそこ貴重だし、デモルの『呪い』は汎用性がかなり高い。かなり金になると思う。
が……それでも、目標額に届くとは思えないし、それ以前に、やってる最中に横やりが入る可能性が高い。言ってみればコレ、闇医者、闇職人みたいなもんだから……おなじ闇稼業や、正規の職人の組合なんかに目を付けられると厄介だ。
細々と、小遣い稼ぎ程度に小規模にやるなら問題ないかもだが、それでも噂が広がる可能性はあるし……第一、それじゃあ目標額に届くとは思えない。これは却下かな。
2つ目。異世界系ラノベにおける『楽してドカンと稼ぐ』方法の定番。
盗賊とか、賞金のかかった犯罪者を狩って、その賞金をゲットするもの。
が……危険は大きい。戦闘が前提だし。
まあ、俺たちもそこそこ強くなった自信はあるものの、世の中上には上がいるもんだ。そういうのに当たる可能性もなくはないし、仮に狩れるような連中ばかり追いかけていられても、それを繰り返せば名が知れてきて、危険視されるようになるかもしれない。
ヤクザがそんなもん怖がってどうする、と思うかもしれないが……最終的にはそうなるのも仕方ない、くらいには俺らも思っているものの、できれば危険は減らしたいし。
それに、こういう職業こそ、商売敵とかとかち合うのが怖いものでもあるし。
それに……そんなに頻繁に、盗賊だの賞金首だのに出くわすわけもない。
その手の本職は、きっちり腰を据えて、何日、何週間とかけて情報収集とかを行い、事前リサーチで十分に手がかりがそろってから動く、という話も聞いた。
漫画やラノベみたいに、そのへんを高額賞金首が歩いているわけがないんだし、そらそうだ。
3つ目……前の2つと比べて、幾分まともではあるかもしれない。
ちょっと調べてみたところ、こないだ聞いた『ダンジョン』とやら……利用するのに何か特別な資格が必要であるとか、そういうのは無いようだ。それこそ、老若男女貧富貴賤の区別なく。
ただ、これも魔物が出てくる以上、危険ではあるし……偏見かもしれないけど、こういうのって他の人間を警戒しなきゃいけない場所でもあるんじゃないか?
ダンジョンって、地下とか遺跡の中だろ? 基本的に閉じた空間なわけで……よからぬことを考える輩がいてもおかしくないというか。
それに、この選択肢って一番ギャンブル性高いよな……腕に覚えのある者なら、多少は稼げはするんだろうが……上手いこと金になる財宝とかを見つけないと、上の方の額は稼げない。
傍目から見てまともには見えるものの、確実性のなさはちょっと……。
で、最後の1つは……知ってるかね? 『タタキ』って。
業界用語で『強盗』ないし『窃盗』である。
……堅気の人にやるんならそりゃどう考えてもアウトだが、いわゆる『義賊』みたいな感じで、表に出せないような黒い金を狙ってやる……というのを考えて選択肢に挙げたものだ。
上手くやれれば、『賞金稼ぎ』と同時進行、なんてのもできるかもしれない。
悪人本人は役人に引き渡して金に換え、その収益はこっちで懐に入れる、みたいな。
その代り、そういうヤバい連中から奪おうってんだから、賞金稼ぎ同様に危険も当然大きい。
それに、そいつらが大金を隠してる場所ないしアジトを、大金が隠されているタイミングを見計らって襲撃するなんて――しかも、その警備が当然厳重になされているであろう所を――難易度高いどころじゃないよな……。
繰り返すが、俺たちは自分達をそこまでザコだとは思っていないとはいえ、危険は少ない方がいい。そうじてそういう連中は、腕の立つ奴が多い、あるいはそういうのを雇っているもんだ。
……さて、この4つの中で、一番よさそうなのは……?
「……『3』かね。やっぱ」
「まあ、無難でしょうね……下準備もなく、すぐに着手できますし」
プランを立てたり、必要な物資をそろえたり、色々と下調べをして情報を集めたり……そういった、やる前にある程度着手しなければならない点において、自分達の身支度さえきちんとすればそれでOKになる『3』は、他よりも素早く取り掛かれる。
やり方さえ間違えなければ、リスクその他も最小限に収まるし……これが妥当だろう。
俺達には、それ以外の選択肢に迅速に取り掛かれるような、満足な知識や設備、人脈はない。それをどうにかしようと奔走しているうちに、タイムオーバーになってしまうだろう。
だとすれば、すぐに取り掛かれてリスクも少ない、ダンジョンに向かうのが手っ取り早い。
ここは『実力さえあればある程度稼げる』と言われている場所だ。
最悪、実入りはそれほどなくても、ある程度の額は稼げるだろう。それを種銭にして、もっと稼げる仕事に着手する、なんていう選択肢も取れるはずだ。
それに今回、コレに取り組むにあたり……今までの忠勤に報いる的な形で、ソラヴィアから長期休暇の取得を許可されている。ソラヴィアの指示、っていう名目で。
早い話が、これからの2か月間を、アリシアを買うための『稼業』ないしその準備に全て当てて問題ない、というお墨付きだ。
ひょっとしたら、実力試験的な意味合いも強いのかもな。
「まとめるぞ。方針としては『ダンジョン』で金を稼ぐ。そこでそのまま1500万稼げればそれでよし。無理そうなら、ダンジョンは種銭稼ぎってことで切り替えて、次の稼業に着手。その稼業を何にするかは、ダンジョンで稼ぎながら同時進行で考え、準備も進める。目安として、半月くらいまでに方針も含めて決定する、と。うっし、じゃあよろしくな、2人とも!」
「「了解!」」
こうして、俺たち『チームアイビス(仮)』は、初めて自分たち独自の『シノギ』の開拓に……それも、導入編にしてはちょっとばかりスケールの大きなそれに挑戦することになったのだった。




