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テンゴク  作者: 和尚
第2章 初めてのシノギ
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第16話 再会



「お前今日暇だろ? ちょっと買い物に行くから付き合え」


今朝、朝飯を食べ終わったところで、いきなりソラヴィアに捕まってそう言われた。


確かに、今日は1日俺は暇である。昨日はあの夜勤(って言っていいのやら)も含めて結構1日ばっちり働いたので、非番だった。

なので本当は、これからデモルとカロンと一緒に町を回ってみる予定だった。シノギのネタ探しとかも兼ねてではあるが、たまにはゆっくり羽を伸ばそうかと。


とはいえ、ソラヴィアからの誘いとあれば断るわけにもいかず。

しかも何だか、有無を言わせぬ感じというか……直接的にそう言ってたわけじゃないにせよ、断っちゃいけない感じの雰囲気だったし。


そもそも、ソラヴィアがプライベートで俺たちを連れ回すことっていうのは、ほとんどない。

拠点では、差し入れ持ってきてくれたり、修行を見てもらったり色々あるが、休日はほぼ確実に俺たちとは一緒にはいない。今まで同様、自分の好きなように時間を使っている。


たまーに気まぐれで、話し相手が欲しかったり、臨時収入が入ったりとかで、飯に連れてってくれることとかはあるが、基本的にソラヴィアっていつも単独行動なんだよな。


そんなソラヴィアが、『買い物に付き合え』なんて理由で、しかも繰り返しになるが有無を言わせぬ感じで俺を連れ出す……はて、こんなこと今まであったかね?


ともあれ、断る気にはならないので、カロンとデモルには『また今度な』って言って出て来たわけなんだが……さて、どこに連れていかれるのやら。


今んとこ、普通に街中を歩いているだけだ。


背の高いソラヴィアと、背が伸びてきたとはいえまだまだちびで子供の俺。

傍目からはどう見えてるのやら……親子か、姉弟か……はたまた、いいとこのお嬢様と小間使いの子供か…………最後のはねーか。どっちも普通の服装だし。


「どうだ、最近の調子は?」


考え事をしていると、ふいにソラヴィアから話しかけて来た。


「調子……っていうと?」


「最近、色々調べたりしてるみたいじゃないか。この間私が話したこと、探ってるんだろ?」


「ああ……うん、まーな。今一つしっくりこないんだけどな」


別に、派手に一発とか、奇抜なものを狙ってみてるわけでもないが、かといってありきたりで無難な商売じゃあたかが知れてるし……ぶっちゃけ、足踏み状態だ。

そこまで急いでるわけでもないし、急いでもいいことがないのはわかってるから、慎重に、今までの経験の中から探ってみてる最中、ってところか。


「それでいいさ。いきなり何か変わったことをやろうとしても、そんなに上手くいくもんじゃないからな……足元はきっちり固めておくのが一番いい。お前達は下手な古株より色々経験してるからな、材料は十分そろってるはずだ……気長に探してみろ」


「え、そうなの? いや、まだ俺ら入って2~3年だし、あらゆる意味でぺーぺーだぞ?」


「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ? まあ、お前の場合本気でそう思ってるんだろうが……確かに、経験した年数ならお前らの上はいくらでもいるだろうが、質の問題だ。普通じゃ経験できないような仕事を色々やってるだろ、ってことさ。まだ幼い見た目、種族のしての特性、そして戦闘能力……色々あるだろ? お前らが周りと一線を画してるものは。それらは間違いなく武器になる」


「ふーん……まあ、頑張ってみるけど」


「まあ、気長に頑張ってみろ……っと、ついたな」


と、そんなことを話していると……ふと、ソラヴィアの足が止まる。


で、そのまま横を見ると……え、目的地、ここ?


「え……っと……マジで?」


「マジだ。安心しろ、お前を売り飛ばすわけじゃないから」


「……冗談になってねえって……」


そんな軽口を叩きながら、俺とソラヴィアは、その店へ……立派な店構えの『奴隷商』へと入っていった。


☆☆☆


イメージとは違う、小奇麗で清潔な内装。

後ろめたい商売っぽさを微塵も感じさせない、きちんと教育の行き届いた店員。


俺がいたところとはかなり違う、2つか3つランクが上って感じの奴隷商だな……勝手なイメージだが、すんごい美女とか、レアな亜人とか、高級な奴隷を取り扱ってるんだろうか?


ちょっとそういうの見てみたい気がしなくもないが、それ以上に気になってることがある。


(何だってソラヴィアはこんな店に……しかも、俺を連れて?)


ちょっと考えてみても、ソラヴィアがこういう店に用事がある理由が思いつかない。

基本的に単独行動で、舎弟である俺たちすらあんまり連れ歩かないソラヴィアだ……従者として奴隷を買う、ってのは考えづらい。というか、ありえん。


まあ、何かの仕事で必要なのかもしれないが……だったら何で俺を一緒に連れてきた?

俺が絡む仕事なんだろうか……だめだ、全然心当たりない。


少なくとも現時点では何も聞いてないしな……と考えていた時、ノックの音が響いた。


少し遅れて入ってきたのは……1人の老人だった。


いや、壮年の男性、くらいに言っておいた方がいいか? 結構若々しく見えなくもないし、体格もそれなりにがっしりしたものであるように見える。


上質そうな服に身を包み、優しそうな顔に微笑を浮かべてこっちを見ている。落ち着いた態度もあいまって、いかにも偉い身分の人、って感じだが……成金のような卑らしさは感じない。


店員らしき若いのを2人ほど従えて荷物や書類を持たせて入ってきたその人は、ソラヴィアと俺の前に来ると、ぺこりと一礼。


「お待たせいたしました、ソラヴィア様。本日は本商会へご用向きをいただきましてありがとうございます」


一挙手一投足に……なんて言うか、気品とかを感じるような振る舞いで、また耳あたりのいい声でそう言ってくる……推定、この店の偉い人。店長とかかもしれない。

ソラヴィアの素性を知ってか、はたまた単に上客だからか……。


「うむ、世話になるよ、おやっさん。頼んでた奴を見に来たんだけど、今からいいかな?」


「もちろんです。いつでも大丈夫なように、準備させておりますので……今、連れてきますか?」


「頼むよ。ああそれと……紹介が遅れたが、こっちは今、私が面倒見てる若い奴でな。ほら、アイビス」


「あ、はい」


と、背中をポンと叩かれて言われたので、きちんと自己紹介しておく。第三者の目がある場なので、敬語モードで。


しかし、自己紹介……こういうことするってことは、なじみの店なのか? それとも、この店長(仮)さんと個人的に付き合いがあるとか……?


この店、俺の記憶が正しければ、『ヘルアンドヘブン』のフロント企業とかじゃないし……そもそもうちは奴隷業界に枝葉はなかったはずだ。ますます謎が深まる。


少しの間そのまま雑談した後で、ソラヴィアが切り出した。


「じゃあ店長、そろそろ商品を見せてくれ」


「おっと、これは失礼いたしました……おい、ここへ」


そう、店長さん(仮が取れた)が指示を出すと、部下の人が退室して……恐らくは『商品』を取りに行った。


そしてその間に……なぜか小声でソラヴィアが俺に話しかけて来た。


「アイビス」


「はい」


「さっき『気長にやれ』とは言ったがな……ひょっとしたらアレ、撤回するかもしれん」


「はい? ええと……どういう意味です?」


「……今日、お前をここに連れて来た理由が、まさにその『理由』でな。正真正銘の偶然だったんだが……ちょうどいい機会だったし、見逃すのもどうかと思ってな」


「はぁ……」


何か、いまいち歯切れが悪いというか……はっきりしないというか……

ソラヴィアらしくない物言いだな? 重ね重ね珍しい。


「……いまいちちょうどいい言い方が思いつかないな。だがまあ、はっきり言ってしまえば……今から来る『商品』は、幸か不幸か、偶然私の目に留まった。だからお前を連れて来た、ってとこだ。その後どうするかは、ぶっちゃけ考えていない」


「はぁ……」


「さらに言うなら、この後の私の話、ないし行動を受けて、結果お前がどう感じるかもわからん。ひょっとしたら、妙なこと考えた私を悪く思うかもしれないが……まあ、その時はその時だ」


「いや、それはないですって」


散々お世話になってる姉貴分を誰が悪く思うかって……いやまあ、そりゃ何かよっぽどのことがあればわからないけど、少なくとも今、想像はできないな。

仕事で多少役に立ててるとはいえ、色々と恩を受けっぱなしな現状だし。


むしろ、例の『シノギ』の話と関連付けても、どうすれば稼げて、ソラヴィアの役に立てるか、恩を返せるかって一緒に考えてる感じなんだから、今。


……しかし、余計にわからなくなったな……何だ? ソラヴィアが『俺から悪く思われるかもしれない』って思うような話って?


元『奴隷』の俺を奴隷商に連れて来たから、気にするかもしれないと思った? いやいや……確かに若干アレな気分になりかけたとはいえ、今更そんなか細い神経してないし。色々裏稼業やってきて、そういうのに耐性はついてきてるし……それはソラヴィアも分かってるはず。


多分、俺に関係のあることなんだろうが……と、思っていた時だった。


再び聞こえたノックの音。

そして、入ってきた店員さんは、1人の少女……恐らくは『商品』の奴隷を連れていて……


(…………え?)


その、入ってきた少女を見た瞬間……ものの見事に、俺の思考は真っ白になった。


同時に、ソラヴィアが言っていたことも理解できた。

頭が真っ白なのに『理解した』ってのも妙な言い回しだが……実際、何も考える余裕がなかったにも関わらず、すとんと頭の中に落ちてきたように、色々な情報がかみ合ったのだ。


それほど、思考停止までの一瞬で……その奴隷を一目見ただけで、俺が理解したたった1つのことは、大きかった。


目の前に居る奴隷の少女は……俺よりも、いくらか年上、って感じの頃に見える。

背格好から見て……女子高生くらいの年齢、だろうか。


少しやせてはいるが、すらりとしたやせ型の……しかし、出るとこは出て、しまるところはしまった、女性らしい体つき。どちらかというと色白で、奴隷には似つかわしくないくらいきれいな肌をしていて……背中の真ん中あたりまである、明るい茶色の長い髪が特徴的だ。

少し伏し目がちになっているが、大きくてぱっちりした目に、美少女と言っていい整った顔立ちは、奴隷としての価値を俄然押し上げるものだろう。


……それはそれとして、そんなかわいらしい顔に……気のせいじゃなければ、見覚えがある。

いや、気のせいじゃない。この顔を俺が見間違えるわけがない。


3年以上もの年月が経って多少変わっているとはいえ……それでも、だ。


その証拠に……向こうも、何かの拍子に視線を上げてこっちを見て……その瞬間、目をカッと見開いてこっちを――俺の方を見返してきた。


そして、思わずといった感じで……呟いた。

小声ではあったが……はっきりと聞こえた。


「アイ……ビス……?」


(やっぱり……アリシア!?)


そこにいたのは、まぎれもなく……俺が2年と少し前まで仕えていた屋敷で、使用人兼遊び相手としてお世話していた貴族令嬢、アリシア・アルーエット……その、変わり果てた姿だった。





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