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テンゴク  作者: 和尚
第1章 事務所から始まる異世界生活
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第9話 はじめてのカチコミ



「……ソラヴィア、ちょっと確認したいんだけども」


「? 何だ?」


「俺さ、あんたから『お前に会いたがってる他の幹部に挨拶しに会いに行く』って聞かされて連れ出された気がすんだけど。ほら、多分、こないだ言ってた『レイザー』って人?」


「ああ、実際にそう言って連れ出したからな。それがどうかしたか?」


「だよな。でもさ……じゃあ何で今、俺たち……




……カチコミに参加してドンパチやってんだよ!?」




言いながら俺は、小さい体を生かして、襲い掛かってくるごつい男の剣をかわし、すれ違いざまに拳を振るう。横合いから鋭角に、小回りを利かせて、フック気味に叩き込むように。


ガツッ、と硬質な、しかし鈍い音を響かせて、その拳は襲って来た男のあごに吸い込まれ……その直後に、男はその場に崩れ落ちて意識を失った。


大した威力ではなかったはずだ。

ただ、当たった場所が致命的だった。その結果が、こうまであっさりの気絶、だ。


顎は、人体における急所といっていい箇所の1つだ。ここに拳が入ると……まあ、入り方にもよるが、脳が揺らされて一発で脳震盪が起こり、即、気絶につながる。


それを利用すれば、子供の俺でも比較的簡単かつ確実に……ってそうじゃなくて!


あーもー、だから何でお偉いさんにご挨拶に行く予定が、カチコミに参加してるんだって話!


こないだ聞いた、えーと、幹部の人? その人に、有望な新入り(嬉しい)の俺を紹介するってんで連れ出されたはずなんだけど……来てみたらコレだ。何一つ事前情報との合致がない。


「いいのかよ、挨拶の方は!? アポイントとったっつってたのに、行かなくて! 失礼だろ!?」


「心配ない、その会う予定の奴もここにいるから」


「何で!?」


「いや、本当はもっと別な場所で、食事でもしながら会う予定だったんだがな? 急に予定カチコミが入って、けどまたアポ取り直して予定調整するのも面倒だし、だったらカチコミの現場をそのまま待ち合わせ場所にすればいいじゃないか、って話になって」


「どんな思考をたどって結論出してんだよ!? カチコミ現場ってそんな流行のテーマパークみたいな感じの場所じゃないだろ絶対! 斬新にもほどg――鬱陶しいなおい!!」


会話してる間も容赦なく襲い掛かってくるを、また1人、同じようにして……今度は斜め下からの飛び蹴りで沈める。


直後、もう1人別なのが襲って来たが……体を低くかがめて回避すると、足払いですっ転ばせる。で、後頭部から地面に落下……する瞬間に、踏みつけの要領で顔面に一撃入れる。

その威力がプラスされた勢いで、後頭部を地面に強打。こちらも一発で失神……いや、下手したら死んだかもしれん。……気にしてもしかたないけど。敵だし。


つか、戦いながら普通に話してる俺らも俺らか……。


と、遠巻きな位置から弓矢でこっちを狙ってる連中を見つけた。

この距離はさすがに……魔法の出番だな。


最も使い慣れた『氷のアイスニードル』を飛ばして仕留めておく。ちょっと遅くなって、1本矢が放たれたのがこっちに飛んできたので、こっちにも1本ぶつけて撃ち落とす。


「キリねーな……どんだけいんだよ?」


「敵方の本部で、これから集会するって集まってたらしいからな、このくらいはいるだろ」


「……だから……そんなとこ待ち合わせ場所にすんなし……」


言いながら、その『本部』らしい建物をもう一回よく見る。


割と小奇麗な感じの、金持ちの邸宅に見える。庭も大きめ、塀もある。貴族の……本邸は難しいかもだが、別荘とかならギリギリ恥ずかしくないラインだと言ってもいいレベル。


一瞬、相当金回りのいい組織なのか、あるいはバックにパトロンがいるのかと思ったが……よく見ると、邸宅自体の高級感の割に、手入れが全くされてないのがすぐ分かった。

庭の雑草は伸び放題、窓ガラスもくすんできてる、玄関に続く石畳も泥だらけ。


「……不法占拠か、あるいは住人殺して乗っ取ったか……」


「前者だ。新築だってのにもったいねー真似しやがるよな」


突然、後ろからそんな声が聞こえた。え。何だ!?


気配感じなかった。足音も聞こえなかった。

驚いて振り返ると……そこにいたのは……何というか、独特な恰好をした、1人の男。


頭の後ろでまとめた、長めの銀髪。色白の肌に、ライトブルーの瞳。背は高めで……典型的?な白人系の容姿をしている。年齢は……20代後半から30くらいか。


なのに、着ているのは……浴衣?に、法被? いや、半纏か?

そして、腰に……西洋風の剣を指している。


なんちゅうバラバラな……着てる服と中身、それに持ってるものが見事に一致してない。

ただ、こないだソラヴィアが言ってた、ある人に特徴が一致するんだけど、もしかして……


「おぅ、やってんなソラヴィア!」


「何だお前、今来たのかレイザー。もう粗方終わるところだぞ」


と、銀髪の兄ちゃんにソラヴィアが返していた。やっぱりか、この人がレイザーか。


「悪りィ悪りィ。いや、来る途中に鉄砲玉に襲われたもんでな、埋めてきたとこなんだわ……しかし、途中から見てたけどすげーな。そいつか? こないだ言ってたガキとやらは」


物騒なことを言いながら、俺に目を向けてくるレイザー。

反射的に俺は、姿勢を正して腰を90度に折り、仕事モードで挨拶した。


「初めまして! ソラヴィア様のところでお世話になっております、アイビスと申します。お会いできて光栄です、レイザー様のことは、ソラヴィア様よr……」


「あーあー、いいってそういう堅苦しいのは。レイザーだ、一応『ヘルアンドヘブン』の幹部なんぞやってる。よろしくな小僧」


いいということなので、お辞儀をやめて頭を上げると、わしゃわしゃと頭をなでられた。髪がぐちゃぐちゃになるが……まあ、気にはならない。


「しっかし……本格的に出遅れちまったか? もう終わりそうじゃねーかよ」


「一概にそうとも言えんがな。軽く突いてはみたんだが、手ごたえがなさすぎる。はっきり言って、もともと我々が出張るような案件ではなかったぞ?」


「マジかよ。稼いでるみたいだったから軍事力もあるかと思ってたが、期待外れな……けど、折角こうして足伸ばして来たんだし、暴れねーでこのまま帰るってのも何だかなー……」


「仕方なかろう。元々来る予定のなかったカチコミなんだから……というか、お前はここに来る途中にひと暴れしてきたんじゃないのか?」


「あの鉄砲玉のこと言ってんのか? あんなもん前座にもならねーよ。ほら、よく言うだろ? 腹が減ってる時に中途半端に食うと余計に腹減るって」


軽い感じに会話していると、そのあまりに目立つ容姿を考えればまあ、当然ではあるものの……レイザーに気づいた、敵対組織(壊滅秒読み)の連中が、


「……っ! おい、あいつ、幹部の……」


「ああ、レイザーって野郎だ! バカが、のこのこ出てきやがったのか!」


「あいつを殺れば俺たちの勝ちだ! 囲め囲め!」


そんなことを言って、武器を手にこっちへ集まってくる。大物首を前にして、乾坤一擲一発逆転の手を打ち込む気でいるのかもしれない。


そのターゲットが、なんか……獰猛そうな笑みを浮かべて、すんげー嬉しそうにしていることに、果たして彼らは気づいているのやら。

良かったっすね、獲物が自分から向かってきてくれて。


☆☆☆


それから数分後。

俺は、ソラヴィアの指示で……『地下室』のがさ入れを命じられ、1人でそれに当たっていた。


地上部分は、せっかくレイザーに敵が集中して来てくれるんだから楽だし、任せることに。

扱いが完全に、誘蛾灯か黒光りホイホイである。適切だと言わざるを得ないが。


その間に、ソラヴィアが連れてきてた手下の1人が、屋敷の地下に通じる隠し通路を発見したのだ。頑丈な作りの扉で閉ざされており、いかにも『中に何かあります』って感じに怪しいのを。


カギを壊して侵入経路を確保したはいいものの、まだまだ地上の方も騒がしいので、人員はちょっと回せない。しかし、明らかにこの地下には何かある。正確には、何か『は』ある。


それが何かはわからないが、入り口がここだけとも限らず、他の出入り口からそれを持ち逃げされてしまっては面白くない。なので、俺に白羽の矢が立ったわけだ。

めぼしいものがあったら、回収して持ってこい、という指令を受けて。


その『めぼしいもの』が、何かの書類か、敵の幹部の身柄か……何なのかはわからんけど。


で、いざ潜ってみると……どうやらこの地下室は、どっちかっていうと『地下牢』って感じのスペースのようだった。


前世でテレビで見た、刑事ドラマの1シーン。留置所とか刑務所を思い出す光景だ。通路の両側が、鉄格子で区切られた牢屋になっていて……それが、結構な数、奥の方まで並んでいる。


ソラヴィアの話だと、貴族の家には割とよくあるそうだ。こういうスペースは。

用途は様々だが……反目した連中を入れておくとか、表に出せない奴隷とかを入れておくとか……まあ、多くの場合、ろくな使い方はされないそうだが。


今回のケースもその例に漏れず、牢屋に閉じ込められていたのは……奴隷と思しき、女性たちだった。それも、体中にアレな暴行の後がうかがえる感じの。


それなりに長い間、そういう扱いを受けて来たのか……部屋の隅でうずくまってすすり泣いている者、目が死んで光のともっていないいる者、ぶつぶつと独り言を延々と呟いている者……様々居る。どの部屋を見ても、ちょっと直視したくない感じの光景がそこにあった。


中には、牢の外を歩く俺を見て、怯えて目を反らしたり、逆に興味深そうに眼で追ってくる者もいる。どの目も……程度の差はあれど、濁ってどろっとしている気がしたが。


気が滅入りそうだな……『部屋住み』になってから色々と経験してきたけど、それらとはまた種類の違う、精神への負担を感じる。


なるほど。ごつい鍵をかけてまで隠しておきたいものとしては納得できるけど……ここが奴隷を入れておく部屋だというなら、俺が回収を命じられるような『何か』は、逆になさそうだ。

見た感じ、金目のものを入れておくような金庫とか戸棚とかもなさそうだし。


人の気配もほとんどない。さすがに、このドンパチの中で盛ってる最中ってことはないようだ。

もう全員外に出て、ここには捕まってる娘たちだけかな……と、思っていたんだけども。


奥の方に、まとまった人数の気配があるのを感じた。

それも、おそらく……女じゃない。明らかに殺気立っている。

着込んだ鎧が立てるような、金属音も聞こえる。


音の聞こえる方に行ってみると……俺が近づいてくるのに気づいたのか、はたまた単に移動しているだけかはわからないが、俺が奥へ進むのに合わせて、気配の主も奥へ奥へと逃げていく。


そのまま早足で追いかけていって、しばらく何もなかったんだけども、ふと気づくと……今までの通路とは、ちょっと変わった感じのスペースに出てきていた。


部屋? あるいは……ただ単に幅が広くなっただけの通路?

どっちにせよ、かなり開けた空間だ。そこまで広くはないが、広間、と言ってもいいかもしれない。……よく地下にこれだけの整った空間を作ったもんだな。


しかし……何か嫌な予感がするな、この……広間(暫定)。


向こうにもう1つの出入り口が見えるんだが……その他にも、両サイドの壁にも1つずつ出入り口らしきものが。しかし……横の2つは、扉じゃなくて鉄格子でふさがれている。

……これって、まるで……と、俺が考えたその時、


――ガシャン!


「――ぉ!?」


重く、大きな音を立てて……俺がたった今通ってきた入り口に、シャッターよろしく鉄格子が降りてきて、そこを塞いでしまった。退路を断たれた形になる。


それと同時に、前の方に見えていた出入り口その2も、鉄格子でふさがれた。これは……


「なるほど……罠にはめられた、ってわけか」


そんな、俺の独り言が聞こえたかどうかはわからないが、向こう側の鉄格子の向こうに、俺がさっき感じ取った気配の主と思しき、数人の男たちが姿を現していた。


その顔には……安堵や悦び、嘲りや愉悦といったものを浮かべている。一部、怒りやいらだちが混じっているものもいるようで……ええと、どういう状況だ?


「よぉし、上手くいった!」


「ははっ、馬鹿め……もう逃げられない、逃がさないぞ!」


「こんなところまで入ってきやがるとは……慌てさせやがって……!」


「上の方もだいぶ騒がしいみたいだし……くそっ、お前、楽に死ねると思うなよ!」


「ああ……せいぜい楽しませてもらおうじゃないか!」


どうやら、鉄格子1つ挟んで向こう側にいるこいつらは……出入り口全てを閉ざしたここに、俺を閉じ込めたこの状態が……余程安心できるらしい。もうこいつには何もできない、とでも思っているんだろうか。


まあ、普通の人間ならそうかもしれないが。見る限り、結構な太さの鉄格子だ。あれなら普通なら、武器を使っても破れるかどうかだろうし。


しかし、もう1つ気になることが。

こいつらはまさか、このだだっ広い部屋に俺をこのまま閉じ込めておくだけ、ってわけじゃないだろう、多分。さっき……『せいぜい楽しませて』とか何とか言ってたし。


この部屋の、この造形……鉄格子に、複数の入り口。

そして、『楽しむ』という言葉に……今気づいたが、この部屋にこびりついてる、血の匂い。


それらから俺は、ここがどういう部屋なのか、連中が今から何をしようとしてるのかをなんとなく予想できたが……その後すぐに、それの答え合わせの機会が巡ってきた。


両脇にある、鉄格子で閉ざされた入り口。

そこが、左右同時に開いて……それぞれ1人、ないし1匹ずつ、新たに入室してきた。


向かって右側から入ってきたのは……人間の、奴隷……だろうか? 見覚えのある首輪が、その首についている。……数か月前まで、俺の首にもついていた、『奴隷の首輪』だ。

そこから伸びる鎖は、途中で途切れていたが。


よく言えば貫頭衣みたいなデザイン、悪く言えばぼろ布を2枚張り合わせただけ、みたいな感じの服を着ていて……それ以外は何も着ていない


ショートヘアで、髪色は明るい茶色。目は髪よりも濃い茶色。肌は……色白だな。

男……だろうか? なんか、顔立ちは中性的で……男か女か、いまいち判別つきづらいな。

体の線は細く……背丈は俺よりも少し高いか? 目はジト目というか半開きで、こちらを観察するような、じとっとした視線を感じる。


もう一方は、動物……いや、おそらくは魔物だった。


大型犬みたいな見た目で、いかにも肉食の獣、って感じである。馬の鬣みたいなのが頭から背中にかけて生えてる。重厚な首輪から伸びた鎖が、向こうの柵の1本に繋がっていた。


しかし、その四肢は力強く石床を踏みしめてはいるものの……気のせいか、やや肉のつき方が不自然というか……痩せてるように見えた。


ぎらついた凶暴そうな目も、どこか『飢え』ているから、みたいに見えなくもない。

まあ、わざとかもしれないが。


かの有名な『コロッセオ』とかで、奴隷の剣闘士を相手に猛獣を戦わせる時、あらかじめ腹をすかせておいた状態の獣を放したそうだ。その方が、目の前の人間=餌を積極的に攻めるから。


そう考えると、やはりこの通路ないし広間は…もともと『そういう用途』のために作られていた部屋なんだろうな。


奴隷か、あるいは侵入者をここに閉じ込め、左右の牢から、他の奴隷や魔物を放って戦わせ、殺し合わせる。それを、柵の向こうという安全圏から、ここの連中が見物する、と。


……さて、そうなると……まあ、あの柵の向こうの連中は逃がすつもりはないにしても、だ。


まずは、この1人と1匹の相手をしなきゃいけない、ということになるな。

獣の方は今にも襲い掛かってきそうだし……奴隷(多分)の方は……ちょっと感情が読み取れないけど、ちらっと今、柵の向こうの連中を見た。


それにつられてじゃないが、俺もそっちを見ると、待っていたかのように、柵の向こうの1人が、聞いてもいないのに声高らかにしゃべりだした。


「冥途の土産に教えてやるよ、侵入者のガキ! そこにいる獣は、今までに何人もの奴隷や犯罪者を食い殺してきている化け物だ! 違法な闘技場で飼われてたのをこの間買ってな、今日まで丸2日何も食わせてない! お前がさぞかし美味そうに見えてるだろうぜ」


その説明はどうやら事実のようで、ぐるるる……と喉を鳴らしてこっちを睨んでくる獣は、ぼたぼたと口から涎を垂らしていた。


動物ないし魔物と意思疎通する魔法なんてものは俺は知らないが、あいつが今考えていることくらいなら、そんなものがなくても九割九分理解というか予測できる。

きっと、首輪と鎖がなかったら、すぐにでも俺に襲い掛かってきていただろう。


「そして、そっちにいるガキはな……人間に見えるだろ? だが違う……そいつは『悪魔』だ!」


(……悪魔!?)


表情にはどうにか出さなかったものの……流石に驚いた。

え、マジで? こいつ……『悪魔』なの?




さて、この『剣と魔法の異世界』であるが……その中においてなお、『悪魔』という存在は、特別というか、特殊と言うか……独特な立ち位置にあると言っていい。


彼らは、エルフやドワーフのような『亜人』とは違う。

というか、厳密に言えば『生物』にカテゴライズされるかも怪しい。


『悪魔』というのは、この世界とは違う『魔界』と呼ばれる場所に生息し、悪魔召喚の儀式によってこの世界に呼び出される。その際、もともと実体を持たない精神の存在である彼らは、召喚者の魔力や、捧げられた生贄その他を媒介にして、この世界で活動するための体と、かりそめの命を作り出し、召喚者と契約してその望みを叶えるために動く。


契約が完了するか、その途中で倒されたりして死ぬ――『かりそめの命』が尽きると、彼らは魔界に帰り、元の精神の存在に戻る。そのため、基本、彼らが本当に死ぬことはない。ただし……強力な悪魔祓い系の攻撃とかを受けたり、例外はあるが。


とまあ、悪魔ってのはそんな感じの存在なわけだが……今目の前にいるこの少年が、その悪魔だというのは……どうにも疑わしいというか、信じがたいというか。


俺も別に、その『悪魔』を見たことあるわけじゃないんだけども……普通に肉の体を持つ、人間あるいは亜人に見えるんだがな……いやまあ、こんな剣と魔法の世界で、人を見た目で判断するのは命取りになるのはわかってるけども。


「おい悪魔! そいつを殺せ、命令だ!」


「こういう時のためにお前を飼ってやってるんだからな! ちゃんと働けよ!」


「………………」


その少年(悪魔?)は、後ろの方でぎゃんぎゃんと吠える連中を横目で一瞥した後……はぁ、と小さくため息をついて、俺に向き直った。


そして、平坦な……感情のこもっていない声で、


「……そういうわけなので、あなたに恨みはありませんが、排除させていただきます」


「へー……マジで悪魔なの、あんた?」


「そうだとも、そうでないとも言えますね」


? どういう意味だろう……と、かんがえる余裕は、どうやらないようだった。


その悪魔(?)の少年は、言い終えるやいなや、その両手の平を上に向け……バチバチッ、と、そこから火花を散らせた。


同時に、膨れ上がる殺気と威圧感。

それが……気だるげな視線に乗って、こっちに向けられる。目力とは裏腹に、刺すように鋭く、鉛のように重いそれは……俺が、このあんまり長くないヤクザ見習いの生活、ないし戦いの記憶の中で、間違いようもなく、一番の緊張感を覚えるものだった。


とっさに俺も、本気モードになる。


無手はやめて、腰にさしていた短剣を抜き、さらにその刃の部分を伸ばす要領で、氷でできた刃を形作り……短剣を長剣に変える。そしてそれを、両手で持って構える。

同時に、ほとばしり始めた俺の魔力の余波で、周囲の気温が急激に下がっていく。


「氷、ですか……」


(電撃、か。で、あっちは……)


それと同時に、向こう側から『かちゃん』と金属質な音がした。

見ると、魔物を固定していた首輪の鎖……それを柵に固定していた金具が外されていて(どうやら柵の向こう側から鍵を外せる仕組みになってたようだ)


解き放たれた赤い魔物が、猛スピードでこっちにかけてきていた。


同時に、少年(悪魔?)の方も、地を蹴って駆け出していた。





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