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短いです、すみません。
ある程度は残して起こしましょう。お土産として残さなくては怒られます。主にアルビィーネ教授に。
太陽は既に傾き始め、ジェンキンズに着く頃には夕方でしょうか。この道は以前ティア様と来た時に通った道のようです。
青々とした木々や地面に生える草花、時折見える小動物や鳥、その全てに見覚えがあります。
あの時と違うことと言えば、私がクロードと結婚して子供がいるくらいでしょうか。
「あ〜〜」
「どうしましたケェファ」
膝の上に乗せた籠の中から、外に向けて手が伸びています。
伸びる手の先を見れば、そこには木々の間からうさぎが道へと出てきていました。
「兎ですか。森から出てくるとは珍しいですね」
遮蔽物無い道に兎が出てくることなど、そうそう無いのですが。たまたまなのか、何かに追いかけられているのか。
「サクラ見てきてくれますか?」
「にゃー」
馬車の隅で丸くなっていた、サクラにお願いします。精霊なら例え魔獣であっても、自力で倒せてしまいますから。
馬車を降りていく後ろ姿はゆったりとしたもので、あまりやる気を感じられません。精霊は気まぐれな存在なので、やる気を感じないのが普通なのかもしれませんが。猫の姿をしているからか、余計にそう見えてしまいます。
「にゃーにゃ」
首を横に振っているということは、何もなかったのでしょうね。何か他の目的をもって出てきたのでしょうね。
「あ~あっ」
「にゃー」
サクラの揺れる尻尾を捕まえようと、ケェファが一生懸命手を伸ばしますが掴めません。
サクラは器用に尻尾を動かして、ケェファの鼻をくすぐってみたりと遊んでくれるのはいいのですが。
「ほどほどにしてくださいね。依然いじけたときは大変だったのですから」
以前サクラがケェファの面倒を見てくれたことがあったのですが。ケェファと遊ぶというより、ケェファで遊んでいたようで。その日はずっと機嫌が悪かったんですよね。
今回は程よくケェファがいじけない程度に遊んでくれたおかげで、楽に旅をすることができました。
日が傾いて今はジェンキンズに入る列の中です。貴族用の列もありますが、旅なので一般の列に並んでいます。
とくに何事もなく門を通り、向かうはクロードの家です
遅れることは既に手紙を出しているので、大丈夫だとは思うのですが。何らかの形で手紙が届いていないこともありますしね。
「待ってたわ、よく来たわね」
「お久しぶりです、エレーナさん」
「この子がケェファちゃんね。エレーナおばあさんですよ」
「えーな」
名前を喋りましたね、ケェファが。今まで喋ることがなかったのに。そして何より初めて呼ぶ名前がエレーナさんなのは少し釈然としません。
「私の名前呼んだわ。可愛いわね、昔のクロードも可愛かったのよ。こんな感じで名前を呼んだりとか」
「お母さん、その話はやめてください」
「あら、恥ずかしいのかしら」
「恥ずかしいですよ。お父さんは書斎ですか」
「お城よ。朝に呼ばれて帰ってきてないのよね」
「長いですね、何かあったのでしょうか」
「緊急の呼び出しじゃなかったのよ。話し込んでいるのかしら」
「奥様、夕餉の準備が整いました」
「あの人が帰ってきてないけど、食べましょうか。今日中に帰ってくるでしょうから」
だんだん更新できるように頑張ります




