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私はレティア。
前世ではOLをしていて、転生した今世では王女様の家庭教師をしています。
前世の私は普通の学校を出て、普通の就職活動をして、普通に就職しました。
これと言った能力は無く、かと言って悪い所もない。
背は高かったですけどそれ以外は平均的で、見た目も普通。親友には「貴方ほど平凡が似合う人は居ない」とまで言われる始末。
とにかく平凡で一般的でした。今思えば絶滅危惧種のようなものですね。普通の人間なんてそうそういませんから。
オシャレや恋に憧れる時もありましたが、すぐに努力が辛くなりいつも通りに戻ってしまう簡単に言えば地味な女でした。
とは言え恋が嫌いなわけではなくどちらかと言えば好きだった私は、現実で相手を見つけることなんて出来るわけもなく、小説やゲームに恋を求めました。
そんな中私が大好きな恋愛小説が乙女ゲームになり発売されると知った私は有給を取って朝から店に並びました。
季節は冬、珍しく連日雪が降り積もりニュースでも事故が多発していると報道されていました。
ゲームを買った帰り、交差点の道赤信号で止まっていると急に目眩がしてきました。
最近貧血ぎみだったのでまたかと思っていましたが、目眩は治るどころか酷くなるばかり。
そしていつもと何が違うと感じ始めた頃には体が傾き倒れそうになりました。
それと時を同じくして前からけたたましいブレーキ音と共に、トラックが突っ込んで来ました。
元々雪国出身だった私は雪にはある程度慣れていました。しかしこの辺りの地域は雪があまり降らない所だったので、冬タイヤを履いている車はほとんどいません。
そして恐らくこのトラックもそうだったのでしょう。普通であれば考えられませんが。
当然目眩がして倒れそうな私が避けれるわけもなく、トラックと衝突しました。
そして運悪くトラックに轢かれた私ですが、なんの奇跡か異世界の貴族に生まれ変わりました。貴族と言っても端っこのヴェルンティース子爵家の長女です。
早い段階で異世界であると気づいた私ですが、とあることに気づきました。この世界は私が大好きだった小説の世界とほぼ同じだと。
つまり私は"乙女ゲームの世界"に転生したのです。
時代は違うようですがそれでも産まれたのがゲーム開始より二十八年ほど前なだけです。
ただ問題なのが私が転生したのが"恋愛小説の世界"ではなく"乙女ゲームの世界"だという事です。
どうして乙女ゲームの世界なのかと言うと、事前に出ていたゲームの情報の中には新たに追加される攻略対象の名前が公開されていました。
そしてこの世界には恋愛小説では出てこない乙女ゲームの攻略対象の家があったのです。
とは言え私はゲームや小説とはまったく関係ない立場です。
ヴェルンティース子爵家は恋愛小説でも乙女ゲームでも出てこなかったですし、レティアというキャラは出てきませんでしたし。
この世界の結婚適齢期を過ぎても独身のまま。資産も大してなく見合いの話も舞い込まないようなモテない女、という前世と何ら変わりない今ですが。前世とは違うことがあります。それは家庭教師になれたことです。
学園を卒業後四年間は公爵家で家庭教師をしていました。
そして公爵家での家庭教師が終わり、次の家庭教師先で私は運命の出会いをしました、相手はこの国の王女様。ただ問題があります。
私が教えるティア王女はゲームの中でヒロインの邪魔をしてくる悪役令嬢なんです。王女様が悪役令嬢ってどうしてと思ったので強烈に記憶に残っています。
そもそも小説は純愛を書いたもので、悪役令嬢なんて出てこなかったものですから。色々と公式の情報は調べていました。
そして王女様はゲームが始まりヒロインが登場してしまうと不運な未来が待っている…………はずです。
なにぶんゲームをやる前に死んでしまったのでエンディングが分からないのですが、PVを思い出す限りは不運な未来が待っています。死ぬことはないと思いますが、それすらもわかりません。
そして私の未来も不運な結果になる可能性があります。家庭教師ですから、私が王女様を歪めてしまったとなる可能性もありますから。なので家庭教師を断ることはできました。
ですが、私は姫さまを幸せにすると家庭教師をすると、とある方に誓ったのです。
ゲームのシナリオなんて知りません。悪役令嬢が居なくたってヒロインなら大丈夫でしょう。
なので姫さまとついでに私の未来を良いものにする為に、やれることはなんでもやる所存です。