法廷弁護士
ダンディーに到着したのは、とっぷりと日も更けて、午前1時半ごろだった。
駅は24時間営業のようで、周りの街灯とともに煌々と明かりがついている。
「確かこの辺りに……」
ジェームズが辺りを見回すと、馬丁が数人たむろしているのが見える。
だが、彼らではないようだ。
「ジェームズ、待ちくたびれたぞ」
待っていたその人物をようやく見つけたようだ。
彼は、ジェームズともども弁護士仲間のようで、紳士と一目でわかる格好をしていた。
「紹介しよう。日出づる国である大日本帝国より来られた大河内さんだ」
「大河内家重です。どうぞ、よろしくお願いします」
彼と握手を交わし、それから自己紹介を受けた。
「ジェームズの親友で、同じ大学出身、同じ寮にいたアルバード・ミーティ・ザルツブルクです。どうか、ミーティと」
「ええ、ミーティさん」
挨拶が終わると、早々に歩き始めた。
「すぐそばに家があるので、そこに向かいましょう」
ジェームズとミーティの共同事務所らしく、ジェームズが事務弁護士、ミーティが法廷弁護士らしい。
家というか、むしろ事務所兼自宅のようなところだった。
「こちらをお使いください。風呂とトイレは共同ですので、ドアをノックして中に人がいるかを確認してください」
「それくらいは知ってますよ」
大河内がミーティに答えつつ、荷物をテーブルに置いていく。
「明日は7時ごろに出発する予定にしています。それまでには準備の全てを整えていただけますか」
「わかりました」
とすると、使える時間はせいぜい5時間くらいで、そのあと身支度、朝食、それから荷物をまとめるとなると、相当急ぐ必要があるだろう。
「それでは、ごゆっくりとおくつろぎください」
客室はベッド2つと、クローゼットとサイドテーブルが2つくらい。
それと天井にある照度低めの電灯くらいだ。
タバコや葉巻を吸った人が沢山いたようで、なんとなく臭いが染みついている。
「明日は8時間ほどの馬車の旅になるのだな」
大河内が従者に聞く。
「その通りです。ジェームズ氏が申すには、6から10時間ほどかかるそうです」
「途中休憩入れるとして、なのか」
「恐らくは。それほどかかるのでしたら、休憩を複数買い入れることでしょう」
ただ、考えたらこれを確認していなかった。
明日には聞いておかなければならないことを、大河内は記憶した。
そして翌日。
午前5時に起き、まずトイレに行ってから部屋の中で竹刀に見立てたほうきの柄で素振りをし、それから瞑想。
心を落ち着かせてから朝食へと向かった。
「おはようございます、もう少ししたら起こしに行こうかと思っていましたよ」
昨日は詳しく見えなかったが、事務所は玄関入ってすぐに受付があり、そこから廊下を少し進んだところにあった。
ミーティが2口のコンロと小型のボンベで、器用にワンプレート朝食を作ってるところだった。
「1週間前に連絡してくれたら、近くにあるいい店のを紹介するのですがね。まあしょうがない」
出来上がりましたよ、とミーティが言う頃に、カッターを着たジェームズが、事務所のソファから起き上がる。
「昨日はゆっくりと寝れましたか」
「ええ、おかげさまで」
少し寝にくかったのは、大河内は黙っておくことにした。
「ミーティ、事務所を任せてもいいかな。今日は予約は特にないし、しばらくは裁判もないから」
「分かった。子爵卿は今はお忙しくないだろうから、ゆっくりとするといいよ。事務弁護士がいないと、事務所も開店休業だからな」
ミーティがそういうと、プレートが4つ揃った。
ベーコンをカリカリになるまで焼いたものが2枚、半熟目玉焼き1つ、それに豆の煮たものが大さじで5杯分は盛られている。
「紅茶は」
ジェームズが聞くと、ミーティは密閉式の缶を戸棚から取り出した。
「熱いのがいいだろ」
「冷めているのは紅茶じゃないからな」
どうやら、そういう性格らしい。