いざダンディーへ
列車は珍しくエディンバラへ、1時間遅れ程度で着いた。
「今日はほとんど定刻でしたね」
ジェームズがにこやかに大河内へと話す。
「いつもはこれ以上に遅れるのですか」
「ええ、3時間遅れまでは定刻ですよ。それ以上遅れることもザラにあります」
列車の時刻表は、あってないようなもの。
そういう認識のようだ。
「それも変えていかないといけませんね」
大河内が側近にメモを取らせていた。
日本に帰った時、何をするべきかをまとめているようだ。
エディンバラで乗り換えしてそのままダンディーへと向かう。
こちらは、おおよそ4時間の列車の旅だ。
時間が短いせいか、食堂車は連結されていない。
車内販売もないようだ。
「今は、だいたい夜の9時なので、予定通りダンディーで宿を取りましょう。私が使っていた事務所の共同運営者が、まだいるはずなので。彼のところに泊まれるように手配はしています」
「向こうに着くのは深夜1時といったところか」
さらに遅れることも考えると、あまり寝る時間はないかもしれない。
そのため、夜食を買い、列車の中で食べつつ眠ることとした。
駅には小さな売店があり、そこではパサパサのサンドウィッチや、何かよく分からない揚げドーナツのような何かがあった。
少なくとも、食べられなくはない品物ではある。
「サンドウィッチを3つ。ハムとソーセージで。それと水を3本」
ここでも水は瓶できた。
栓抜き代わりに折りたたみナイフをジェームズから借りることとし、それとサンドウィッチは編みかごに入ってやってきた。
それもかなり適当な扱いを受けている。
「具がはみ出ているな」
「何もかかっていないようです。それに、ハムは塩味がきつそうな……」
列車に向かいつつ、カゴの中を覗き込んでいた二人は、ジェームズに先導されるままに、列車へと乗り込んだ。
列車はコンパートメントに区切られていない。
二等車で、2人掛けのソファが廊下を挟んで左右に並んでいる。
二等車は完全自由席らしく、数人のみが乗り込んでいる列車の一つの席に大河内らは座った。
列車の端と端にいるような状況で、向こうの組みはゆっくりと眠っているようだ。
騒がないようにしつつ、荷物を空いている席に置いて、発車を待つ。
発車はホームにいる人が、手に持っているベルで知らせる。
ガランガランと派手な音がなると、列車が動き出した。
それからしばらくして、大河内らは弁当を開ける。
「うーむ、味はなんとも言えんな」
「バーではおいしいとおっしゃっていましたよね」
「あれはまだ食えましたから。でも、これはどうだろう……」
少なくとも、飲み込めない味ではない。
食べれなくはないが、積極的に食べようとは思わないだろう。
「塩味がきつすぎる。それにハムなのか、それとも靴底か。悩むなこれは」
本当のところを言えば、出来合いのものはそこまで期待はしていなかった。
エディンバラへ来る最中の列車の食堂車でしっかりと食べていたものの、それを感謝したくなるような味だ。
「水が救いですね」
従者も、大河内と同じ考えのようだ。
「だな」
そう言って二人仲良く水を飲み干した。