鉄道の旅
電車がやってくる。
まだ未電化の地域を走ることになっているらしく、蒸気機関車が先導していた。
「延々と続く列車の旅へようこそ」
ジェームズが赤帽から荷物を受け取っている大河内に笑いながら言った。
16両編成で、石炭車やら食堂車などが連結されている。
おおよそ12時間ほどお世話になる列車だ。
大河内はその中で3等客室に入ることになっていた。
コンパートメントに区切られていて、中は2人がけの木のように硬い椅子が向かい合うように置かれている。
荷物は真向かいにある荷物室に入れて、鍵をかけて保管することとなっていた。
この鍵は、車掌が持っているマスターキーと、自身が持つ鍵以外に開けることができないということになっていたが、本当のところはわからない。
コンパートメントで、これからの話を詳しく聞きこととなった。
「子爵卿は、今回の商談にほとんど全てをかけています。もしも失敗しましたら、恐らくは建材に至るまで売ることを強いられるでしょう。それほどまでに、財政は逼迫しています」
「それ、私たちに教えてもよろしいのですか」
大河内がジェームズの言葉に思わず聞いてしまった。
「ええ、これについては、卿から承認を受けています。現状をありのままに見せることで、今後の戒めとなりうるということらしいです」
失敗を糧として、今後の成功につなげるつもりらしい。
「現地を見て決めるつもりですが、あなたが信頼できる不動産屋を紹介してください。その人と一緒に見て、査定してもらいます。私たちは木と紙の文明から来たので石造りはさっぱりなのです」
「それはすでに考慮しています。アマーダンで最も、いえスコットランド一信頼できる不動産屋がいますので、アマーダンに到着後に合流する予定です」
「ありがとうございます」
大河内は側近ともどもお辞儀をした。
「いいのですよ、これも仕事です」
ジェームズは、そう言い切った。
かれこれ1時間ほど電車に揺られていると、少しばかり小腹がすいてくる。
その時、通路をカートを押している販売員を見つけた。
「すいません、何があるんですか」
大河内がドアを開けて聞くと、飲み物やお酒、酒のつまみに、ちょっとした小腹塞ぎがあるようだ。
「では、水を3本。それと、小腹塞ぎを3つ」
貨幣を渡して、商品をそれぞれ受け取る。
ナッツ詰め合わせのようだ。
水は瓶に入っていて、王冠がしっかりと栓をしている。
たしかに、小腹程度がふさがるほどの、手のひらに乗るぐらいの量しかない。
ガラスの器に盛られているが、綺麗という感想以外には、少しばかり少ないのではないかということも考える。
「そういえば、食堂車があるんでしたよね」
大河内が思い出して話す。
「ええ、あと1時間ほどで準備が整うので、そうしたら向かいましょう。ただ、もしもお酒をお飲みになられるのでしたら、バーカウンターがあるので、そちらをご案内することもできます」
ただ、それはないだろうとジェームズは思っていた。
先ほど大河内は断ったからだ。
「どうだね」
「いえ、わたくしは結構です」
側近も断り、バーカウンターは結局行くことはなかった。
1時間、片手の手の平に包みこめるぐらいのナッツをついばみながら、大河内らは水を飲んでいた。
すると、カランカランと鐘の音が聞こえる。
ハンドベルの何かを車掌が打ち鳴らしながら、通路を歩いていた。
「お食事の準備が整いました。食堂車をお使いのお客様は、食堂車へとお集まりください」
と言いつつ、ゆっくりと歩いて行った。
「では行きましょうか」
すでに車掌の後ろは人が数人付いている。
乗客を連れていくことが、どうやら役目の一つらしい。
「ああ、車内販売以外は、部屋付にすることができるので、あとで支払いをお願いします」
「分かりました」
側近が持っていこうとしていた財布を懐に入れた。
食堂車は、コース料理があった。
A、B、Cの3つがあり、それぞれ値段がメニューに載っていた。
「1人4ポンドもするのか」
「列車で食べるために、様々な工夫をしておりますので」
肉料理しかなく、ワインは赤ワインが多かった。
食事は朝と昼の兼用のような時間で、いわゆるブランチだった。
それでもしっかり2時間は食べるのにかかった。
コンパートメントに戻ると、水を飲みつつ、アマーダン城の位置を確認していた。
「中心部から馬車で20分くらいで城壁へ着きます。門衛がいるので、取次を頼み、それから中に入ることになります。ただ、最近は人を減らしているらしいので、もしかしたらいないかもしれません。それならそれで、そのまま入ることになります。いつも使っている馬車がいるので、それを使いましょう」
詳しい説明を受けつつ、列車はゆっくりと走っていく。