調査報告
調査報告は、ジェームズの宣言通り3日後きっかりに出てきた。
それまでに大河内と側近は図書館などで、どうにかアマーダンの位置を確定していた。
彼らが止まっている部屋は3階にあり、そこにジェームズ本人もやって来た。
「アマーダンは、スコットランドにある自由都市の一つです。代々グッディ子爵が、そのほとんどの土地を保有していました。ですが、1840年から幾たびの投資詐欺や失敗によって、現在ではアマーダンハウスと呼ばれる、当主や家族が住む邸宅のみが残されました。私も、その邸宅に住み込みで働いていたのですが、数年前に暇を出されてしまい、親類を頼ってシティへと出てきたのです」
身の上話があと数分続いたが、その辺りは全て大河内は聞かなかったことにした。
「……ともあれ、伝手を頼って調査しましたところ、アマーダンハウスはここ20年はろくに手入れもなされておらず、あまりにもさみしい状態になっているとのことでした。邸宅としての威厳は、ほとんど無いと思います。雨漏りも激しく、邸宅は、往時の姿を留めているとは言い難いとのことでした。それでも売らなければならないというほどに困窮しており、非常に重い決断であったと思います」
「今の状態はよくわかった。では、一つ質問をしよう」
大河内がジェームズに尋ねる。
「そこは、どれ程の価値がある」
「土地、建物、周辺の諸施設。全て込みで、応相談ではございますが、現地の不動産業者によれば、約2500ポンドにはなるそうです。あとはどれほど風化が進んでいるかによって、価値は変わってくるとのことでした」
「2500ポンドといえば……」
大河内が暗算をする。
「約2万5千円です」
側近が耳打ちした。
ちなみに、当時の2万5千円を今の価値にすると、概算で2億5千万円となる。
貴族の邸宅が3億いかないのは意外と安くも思えるが、大河内は予算と相談しなければならない。
手野財閥は、今や誰もが知るような大財閥となった。
しかし、それでも世界から見るとまだまだ雛鳥である。
知らない人の方が多いのは当たり前であるし、これほどの予算をつぎ込み余裕があるかどうかもわからない。
「分かりました。まずは、上と相談をしたいので、電話をします」
「ええ、どうぞ。1階にあるので、そちらをご利用ください」
席を立つ大河内に対して、側近は部屋へと残ることにした。
ジェームズを見張り、荷物を持っていかれないようにするためである。
1階のフロントに着くと、電話を使いたいことを伝える。
すると、使用時間を測るために時計を渡された。
ちなみに、60秒で1ポンドらしい。
砂時計も60秒時計になっていた。
交換台を通し、さらに無線を飛ばして飛ばして、まずつながるまでに2分はかかる。
手野家当主と砂賀家当主のそれぞれに電話は据え付けられているが、まず連絡を取るべきなのは、本家である砂賀家の方である。
「もしもし、御当主閣下であられますか」
御当主は、藩主から続く砂賀家当主の呼び方の一つだった。
「そうだが、大河内か」
「実は物入りとなりまして」
「いくらだ」
「今のところ、2万5千円ほど。もしかしたら、さらに追加がいるかもしれません」
「予算は」
「2万」
「増やす、4万だ。値切れよ」
「承りました」
それで切る。
砂時計は、4回目途中で落ちるのを止めさせられた。
フロントに言って、さらに続けて電話をしようとする。
しかし、砂時計を全部落としてからだといわれ、しぶしぶその通りにした。
続いての電話は再び2分間ほどつなぐのにかかり、今度は手野家当主へとつながる。
砂賀家の分家の筆頭であり、今の手野財閥の元締めでもある。
爵位を受けており、通称は男爵当主だ。
ちなみに、大河内自身も男爵の爵位を有している。
「男爵当主、大河内です。物入りとなりました」
「いくらですか」
「御当主からは4万の予算を頂戴しました、今の予算は2万、必要なのは2万5千です」
「御当主閣下がいうのであればその通りにしてください」
「承りました」
そして電話を切った。
結局、総学で10ポンドほどかかってしまった。
予算を確保することができたことをジェームズに報告するために、再び大河内は部屋へと戻る。
「ジェームズさん、まずは現地の様子がみたいので、ご案内いただけますか」
「わかりました。場所は分かっておられますか」
「アマーダンの位置は分かりました。ダンディーの横にある港町の一つ、自由都市であり、シティからだと、鉄道でエディンバラへと向かい、そこからダンディー駅へ乗り換え。そこからは馬車でおおよそ6時間から10時間といったところと」
「アマーダンは現在鉄道は建設途中なのですよ。ご不便をおかけしますが、どうか」
「ええ、分かっております。それで、いつ先方へご挨拶すれば」
「連絡を入れましたら、明後日なら構わないとのことでした。明日出発し、ダンディーで一泊したうえで移動しましょう」
ジェームズはそれまでの間に、電車の切符を確保してくれるのだという。
切符代は後で渡すということにして、ジェームズはどこかへと去っていった。