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パブにて

中はタバコの匂いに塗れていた。

それでも二人は中へと入る。

ドアが開き、誰が入ってきたのかと誰もが振り向いた。

だが、非白人とわかるや、すぐに興味は薄れ、あるいはなぜここに来たのかを知りたくて、聞き耳を立てている。

先ほどまでの騒がしい空間が、少しは落ち着いたようだ。

その中を大河内は歩いていく。

バーカウンターの空きスペースに収まると、すぐに注文を伝える。

「エールのハーフパイントが2つ、銘柄は任せる、一番うまいのを頼む。あとはフィッシュ&チップス」

これで足りるのか知らんが。と大河内がいいつつ、側近が財布を取り出して、15シリングを机に置く。

「すぐに」

バーマンが返事をすると、室温ほどに温まったコップに、これまた室温程度のぬるさのエールを注いだ。

この金を見て、何人かは目を丸くしていた。

また、カウンターへと置かれるお金を目当てにして、2、3人が近寄ってくるが、金はすぐにバーマンが回収していく。

「釣りはチップだ。まあ、足りなかったら言ってくれ。何しろ初めてでな」

大河内が言うと、その言葉に反応したある男が近寄ってきた。

「旦那ぁ、大英帝国へ来るのは初めてでぇ?」

こえをかけられても返事をしない。

ここに来る前に、日本で簡単なレクチャーを受けていた。

平たく言えば、用もないのに近寄って来る連中は、役立たずだということだ。

しばらくエールを飲んでいると、そんな男もいなくなる。

どうやらパブから外へと出たようだ。

「そうだ、一つ聞いてもいいか」

「なんでしょうか」

バーマンは、コップを洗いながら、大河内の話を聞いた。

「この辺りに会社を作ろうと思っているんだが、なにかいい物件はないか。日本で爵位を持っている人が来るから、できれば年季が入った建物がいい」

「そうですねぇ……」

「なら、いいところがありますよ」

声をかけたのは、今度はカウンターの端で、クリスプスを一つ一つ手づかみで食べている男性が声をかけた。

「アマーダンという街があります。ここシティからずっと北なのですが。そにいるグッディ子爵の当主が投資に失敗して、とうとうマナーハウスも売ることになったそうですよ」

「……貴方は」

側近が盾になるようにして、その男と大河内の間に立つ。

「申し遅れました。私は事務弁護士をしています、ジェームズ・スチュワートです。アマーダン子爵とは、以前から付き合いがございました。以後、お見知り置きを」

彼は、こののちに手野財閥の欧州関連の法律顧問となるが、これはずっとずっと後の話。


大河内は、彼に頼んで、まずは購入希望者が出ていないことを確認してもらうこととした。そのための料金はあらかじめ決めたものの、報酬として支払うこととして、つまりは後払いということで決まった。

「では、お先に失礼します。宿はどちらに」

「ケッセルB &Bに」

「ああ、あそこですか。いい宿ですよ。では、3日程度でわかると思いますので」

そういうとジェームズは、バーマンに預けていたカバンを持ち、すぐに行ってしまった。

「あの人、最近仕事がないっていってたんで、嬉しいんだと思いますよ。スコットランドの法律組合所属なのに、シティに出て来ざるを得ないくらいには食い扶持に困ってたみたいで」

「そうだったのか」

そう言っている傍では、フィッシュ&チップスは食べ終わり、エールも飲みきっていた。

「よし、ではこれでおいとますることとしよう。うまかったよ」

油で生臭い何かを揚げたその代物は、美味しいとは思えなかったが、それでもそう言っておいた。

「ありがとうございます」

パブを出る二人。

3歩歩くと、また汗ばんで来る。

「まずは宿に戻るか」

「そうですね。その土地がどこかを調べなければなりませんから」

側近共々、日本語で話しつつ、歩いて戻った。

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