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「じゃあ今日は疲れてるだろうし解散!明日から特訓ね」
「わかりました」
「ではまた明日」
千歳は疲れたように帰路へ向かっていった。
「明日から本番ね。というか私たちも練習しないと成績残せないし」
「あ、免除されてるわ」
「「え?」」
「1年みっちり教えていいことになってるの。大会で出る必要もない」
「う・・・嘘?」
「ほんとよ、上代先生に確認したわ」
「ま、私は練習しなくても早いから問題ないしサクッと優勝しちゃうからね」
「魚はいいでしょうけど・・・」
「魚言うなし!」
「それって変じゃない?」
「私も聞いてて変だとは思ったけど上代先生の許可が出たし、頑張って教えなさいって言われたわ」
「ん~やっぱ生徒思いなんじゃない?泳げない子が泳げるようになった!って良いことだし」
「そんな単純なのかなぁ?」
「明日一応ネットとかで調べて泳ぎの基礎とか資料持ってくるわ」
「そうね、最初はそういうのから始めましょう」
「えー私に任せて貰えば大丈夫だよ」
「それもあるけどいろんな方面から考えましょう」
次の日
「おはよーケイちゃん!アコちゃん!」
「おはようございます」
「おはようー」
「ケイちゃん寝むそうだね?」
「ええ、昨日泳ぎの基礎とか泳げない人の為の資料を探したんだけど結構見つからなくてね」
「ネットで調べても?」
「ええ、出ることは出るけど力を抜くだとか息をきちんと吐くとかでしたから」
「えーもうちょっと詳しくでないの~ネットしっかりしろ!」
「ま、大衆向けですから・・・」
「プールだぁ!」
「いや知ってるわよ」
「じゃあ今日もよろしくね千歳君」
「は、はい!」
「今日からあなたを泳げるようにする特訓を始めるわけだけど・・・」
「はい」
「何かこれをしたいって希望ある?こういう風な練習がしたいとか?」
「え・・・いや特に思いつかないんですが・・・」
「なら!まずは水になれることから始めましょう」
「わかりました」
「これ3人でいっぺんに教える必要ある?」
「昨日のこともあるしまずは何があってもいいように3人いましょう」
「そ、そっか・・・昨日・・・///」
「まずプールに入りましょうか」
「はい」
「えっと・・・」
「はい?」
「なんでそんな離れて入るの?」
「何かあったら困るのでー」
「いや、離れてた方が何かあったら困るんだけど・・・」
「すっごい反対側に行ったな」
「ちとせん面白いなー」
「なにそのあだ名?」
「かわいいしょ?」
「遠いと教えられないわ・・・とりあえず向こうにいきましょ」
「泳いだいったほうが早いよ」
「確かに対角線だしね」
「そうね」
3人が一斉にこちらに向かってくる
波が立つ。
危険だがここはプールサイド。
俺は全力で腕に力を込めて岸にあがる。
ふぅ・・・安全だ。
「あれ上がったの?」
「はい」
「じゃあまずはプールに入ってプールサイドに捕まって足をバシャバシャさせるやつをやってみましょう」
「あーよくテレビで見るやつだ!」
「確かによく見るわね」
「わかりました、やってみます」
「ではやってみます!」
「「「なんで!?」」」
「なんで対角線まで離れたわけ!?」
「いえ、何かあると・・・」
「だから何が!?」
「ま、まあいいわ。じゃあちょっとやってみましょう」
「はい!」
俺はプールサイドに手をかける。
ひじは90度曲げ体をプールサイドギリギリに近づける。
顔はプールサイドに顎を乗せる。
あとは足をバタバタさせるだけだ。
バタバタさせると少しだけ水面が揺れる。
俺が揺らしてるせいだろう。
「えっと・・・テレビでみたのとだいぶ違うね」
「そ、そうね。もうちょっとバシャバシャーってなってやりすぎだよーってなると思ってた」
「足が水中でふよふようごめいてるのしかわからないわね」
「千歳君、腕よ、腕を伸ばさないと」
「う、腕を伸ばす!?」
「そうよ。じゃないと体勢が悪いのよ」
「すいません、まだ握力に自信がなくて自分の体重を支えきれないかも・・・」
「握力?体重?」
「わかるヨシ?」
「えっと・・・泳ぎ天才の私もちょっと物理は・・・」
「だ、大丈夫よ。水の中は体重がほとんど感じないから握力は足りてるはずよ」
「そ、そうですかね?」
「そうそう!水の中だと体は軽いよ!」
「そうね、水の中なんだし重いってことはないわね」
「でも普段の自分の体の上に水が乗ってるわけなんで総重量はあがってますよね?」
「えっと・・・総重量?アコちゃん数学得意?」
「いや、得意ではないけど数学は関係ないでしょ?」
「浮力があるから総重量は千歳君にかかってる体重は下がっているわよ?」
「おおーケイちゃんさすが!頭いい!」
「浮力は物質が水より軽い場合には影響が大きいですけど重い場合は結局かかる比重は一緒ですよね?むしろ水を吸った分重くなるはずです」
「アコちゃーん・・・」
「勉強はあたしも苦手なんだから頼らないでよ・・・」
「それでも水より比重がない人は軽くなって負担が減るはずよ」
「人は水より比重がありますよ?」
「「え??」」
「人が水に浮くなんて迷信信じてるのは小学生までですよ?」
「「「いやいやいや」」」
「千歳君、人は水に浮くのよ?」
「またまた白川先輩もそういう子供騙しの冗談を言うんですからー」
「あれ?えっと・・どういうことアコちゃん?」
「待って私もわけがわからなく・・・」
「だって人が水に浮くなら溺れて死ぬ人なんているはずないじゃないですか」
「「「・・・・・・」」」
「たしかに!」
「おい!魚!」
「魚じゃないよ!人間だよ!」
「たしかに!じゃないでしょおバカなのあんた!」
「溺れてる人はパニックとかになって沈んじゃったり波があって沈んだりしてね?」
「比重が軽いのに沈むんですか?浮くはずなのに?」
「そ、それに海流や川の流れもあるから引きずり込まれたりするわけでそれで溺れるのよ?」
「その程度で沈むならその比重差はあってないようなものでは?」
「・・・アコさんタッチで」
「ここで!?」
「もうちょっと調べてから出直してくるわ・・・」
「と、とにかくやってみましょう。身をもって体感しましょう」
「わ、わかりました」
「では・・・」
「いきます」
「だからなんでそんなに離れるの!?」
「何か・・・」
「無いよ何も!」
バシャバシャバシャ!
「お、でもいけたか!」
「やればできるじゃーん!」
「よかった・・・そうこれが浮力が働いてる感じですよ」
「あ、戻ってきた」
「どうだった?これがね」
「はぁはぁはぁ・・・」
「大丈夫?」
「ちょっと今日は頑張りすぎました・・・」
「10秒ちょっとしかまだやってないよ!?」
「全力を出し切りました・・・」
「体力が無さすぎる!?」
「きょ、う・・・はもう・・帰ります。ご、しどう・・ありがと・・・ございます」
フラフラと千歳は更衣室に入って行った。
「えっと・・・アコちゃん?」
「補修かなぁ・・・」
「嘘!?」
「これ本当にまずいかも?」