十七話
行きつけのスーパーの精肉売場。
ショーケースに列べられた鶏、豚、牛の部位。
「う~ん」
「お、お客様?」
かれこれ十分は悩んでいた。如翔は悩んでいた。とんかつも良いが、チキンもビーフも捨てがたいと。
値段はどれも予算内。尚更、如翔を悩ませることとなっていた。
「あの~、お客様。よろしければ、あちらのパックのほうもご利用ください」
如翔の後ろにはいつの間にか、長い列が出来ていた。店員に促され、パック側を見る。
「う~ん」
如翔が、パック詰めされたお肉を吟味している光景が珍しく映ったのか、家族で買い物来ていた子供が声を掛けてきた。
「お兄ちゃん、お買い物?」
「うん。どうして?」
その子供は女の子だった。如翔は怖がらせないよう、女の子の目線に合わせる為に腰を下ろす。
「すっごく真剣そうだったんだもん。どうしてか気になっちゃったの」
「そうだったのか。どのお肉を買おうかで悩んでたんだ」
「それならね! 牛さんがいいよ! 牛さん、おいしいよ!」
「そんなに美味しいのか?」
「うん! 鶏さんも豚さんもおいしいけど、牛さんが一番!」
熱心に牛肉を勧めてくる女の子を見ていた如翔は、不思議な気分でいた。神様ちゃんと女の子が重なったのだ。思わずクスッとなってしまう。
「牛さん、もしかして嫌い?」
如翔が笑ってしまったことに戸惑う女の子に、如翔は頭を撫でてあげた。立ち上がった如翔の手には、牛肉のパックがあった。
「お陰で助かったよ。ぎゅ……牛さんにした」
「えへへ!」
如翔の言葉に笑顔を見せた女の子は、家族の元に戻っていった。
会計を済ませた時、女の子の両親が頭を下げてきたので、如翔も下げ返した。
※ ※ ※
「祖父さんや。楓の子を、ひ孫を見るまで生きていられるかね?」
「分からないの。明日の命も危うい歳だからの」
「もう! お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、変なこと言わないで! まだまだ元気でいてほしいよ!」
「困ったちゃんだ。こりゃあ、まだ孫離れは出来そうにないな、祖母さん」
「そのようだねえ。こりゃ大変だ」
祖父母が笑っている様子に安心する楓。
ひ孫という言葉に、楓の父親は困惑していた。
※ ※ ※
「あれ?」
「牛肉じゃ不満かよ?」
「そうじゃないよ。アンタが選んだからね。只単に感心してるの。自分の意思を尊重したことにね」
「たまの我が儘だ。大目にみてくれ」
(言えない。十歳は年下であろう女の子に勧められたからだなんて!)
「いいわ。その代わり、ちょっと手伝いなさい。男だって料理の一つや二つ出来なくちゃよ」
「猫の手並みで良ければ」
如翔は牛肉に触る為、冷水で両手を冷やした。




