十一話
翌朝。やはり五年前のまま。
如翔は枕元に置いてある目覚ましに手を伸ばす。目覚めを促すベルは、寝起きには何よりも五月蝿く聞こえるものだ。しかし、如翔の手が目覚ましの音を止めることはなかった。
「おはよう」
「?」
俯せの体勢だった如翔は仰向けになった。
目覚ましを片手にニコニコと微笑む幼馴染みの顔が目に入る。如翔は跳び跳ねるように起き上がった。
「な、何で?」
「いやあ~。なんだか早く起きちゃってさあ。折角だし、如を起こそうと思ったんだよ」
「そうだったのか……ありがとうな、楓。一気に目が覚めた」
「礼には及ばんさ。さあさあ、顔を洗っておいでよ。スッキリするからねえ」
「ああ」
如翔を洗面所へと促した楓。
如翔が部屋の扉を閉めたのを確認した楓は、如翔が寝ていたベッドに飛び込んだ。
「~~~! これが如の匂い~」
※ ※ ※
「ふわああ」
「だらしなく欠伸なんかしてるんじゃないの。楓ちゃんが起こしに来てくれたのよ。もっと喜びなさいな」
「何で?」
「幼馴染みの女の子が、わざわざ起こしに来るだなんてイベント、他の男子が聞いたら羨ましがるわよ?」
「幼馴染みなんだし、不思議なことじゃないんじゃないか?」
「やれやれ。幸せ者だね、アンタ。母さんは誇らしいよ」
「朝からお世辞がご上手になもんで。井戸端会議の賜物ですか」
「如翔。楓ちゃん、大事にしなさいよ?」
「いきなり何だよ!?」
「どんなに仲が良くたって、いつかは疎遠になるものよ?」
「そうか? 母さんも父さんも、楓の両親とは長い付き合いだろう?」
「学生時代からの付き合いだもの。頻繁に会ってたし、お互いに子供が生まれたのもあるし。でもね、母さん達は特殊よ? アンタが生まれなかったら、楓ちゃんの為に田舎に引っ越そうとしたらしいしね」
「そうだったのか」
「後悔だけはしないでよ。分かった?」
「してたまるかってんだ。大丈夫だ」
母親との会話を終え、如翔は自分の部屋へと戻っていった。
※ ※ ※
ガチャッと扉を開ける。自室へと戻ってきた筈だと確認する如翔。しかし、中に入るのに躊躇してしまう。目を疑う。
如翔のベッドに横になり、如翔の枕に顔を埋める楓。如翔が戻ってきたことに気付いていない。
「か、楓?」
「……」
「か・え・で!」
「へっ!? ……えええ!!」
ようやく気付いた楓は、少し汗ばんでいた。如翔の顔を見るや高揚し、握っていた枕を如翔に投げつけた。
自分の枕を投げつけられた如翔は、訳が分からないまま立ち尽くすしかなかった。




