一話
気持ちのいい風と朝日。枕元の目覚まし時計が耳に、不規則に揺れるカーテンが目に、朝を知らせてくる。
ベッドに預けていた身体を起こして伸びをする。
鳴り響く目覚まし時計を止め、今日の日付を確認する為、壁に掛かったカレンダーを見る。
「あれ?」
寝惚けているのかと顔を叩く。目を凝らしてカレンダーを見る。しかし、すぐ現実に引き戻される。
目覚まし時計の隣に置いてあるケータイで確認しようとするが、ケータイに伸ばされた手は戸惑った。
「え!?」
堪らず立ち上がってしまう。そこでまた、現実へと引き戻された。
昨日までとは違う目線、身体の感覚。よく見れば、着ている寝間着も違っていた。
「どうなってるんだ?」
戸惑っていると、扉をノックする音がする。返事をすると、エプロンを着けた女性が入ってきた。
「珍しく一人で起きたのね?」
「母さん?」
「そのクエスチョンは何? 母さん、何か変なの?」
「うん。若返ってる。それにカレンダーも。何で替えたんだよ、カレンダー」
「失礼ね。母さんは三十歳よ。まだまだ若いんだけど。カレンダーは替えてないよ」
「三十? 三十五だろう? 五歳もサバ読んでんじゃないよ」
「三十です! この間、三十になりました!」
「わざわざ五年前のカレンダーにすり替えて、部屋の模様も変えて、僕のスマホをガラケーに戻して。そこまでして三十と言い張るか!」
「あんた、大丈夫? 言ってることが支離滅裂よ。カレンダーにしても、部屋の模様もケータイも昨日と同じじゃないの。頭でも打った?」
母親の反応に困惑した少年は、一階にある洗面所へと駆けていく。鏡に映る自分の姿を見た少年は呆然とした。昨日までとは違う姿。完全に目が覚めた瞬間でもあった。
※ ※ ※
「あの時のままだ」
隣の家の玄関前で立ち尽くす。家の表札を見て確信し、呼鈴を鳴らす。ボタンを押した指は震えている。
【はーい?】
「如翔です」
【ちょっとまってねー】
如翔は深呼吸する。頬を叩いてシャンとした。
エプロン姿の女性がやって来る。当たり前のように招き入れられた如翔は、震える足で階段を上がっていく。扉の前で立ち止まる。再び深呼吸をすると、震える拳で扉をノックした。
※ ※ ※
「如。これってどういうことかね?」
「僕だって解らない。朝起きたら、五年前だったなんて信じられない」
「う~ん」
如翔の前で、少女は眉をひそめて考える。
如翔も腕を組んで考える。しかし、さっぱり分からない。
「五年前ねえ。私が引っ越したのも五年前だったねえ」
「何か関係ありそうか?」
「まっさかー」
考えても考えても分からない。時間だけが過ぎていく。二人に心当たりはなかった。
「こういう時はあれだねえ」
「何だ?」
「神頼み。困った時の神頼みだねえ」
「僕、信仰心なんかないよ」
「神社に行くだけだって。さあ、行こう」
「元気だな、楓。こんなときだってのに」
「こんなときだからねえ。少しでもポジティブでいないと、どうにかなっちゃいそうだし。如と会えたのも理由ではあるけどねえ」
「僕と? 引っ越し以来、こうして直接会えたことはなかったけど、そんなに嬉しいのか?」
「嬉しいとは違うかねえ。どちらかといえば、安心したと言うべきかねえ」
「それなら僕もだけど。僕以外にも同じ状況の人間が居たんだから。そういう意味では安心してる」
「よーし。神社にレッツゴー!」
楓がテキパキと身支度を済ます。
如翔は、黙って付いていくことにした。




