第三話
五月
いずみが女になって一ヶ月以上が過ぎた。
よく晴れて暑くなってきたそんな一日。
ある店の軒先で翔は水撒きをしていた。
出産まではしたものの結局一人で子供は育てられず、そのまま実家の商売を手伝いながら子育てすることになる。
店先の水撒きも彼の仕事の一つだった。
「わっ」
甲高い悲鳴。道を行く人に水をかけてしまった。
「あ。どうもすみま……いずみ?」
そこにいたのは思いつめた表情のいずみだった。
「や、やぁ」
翔が戸惑うのも無理はない。
ブラウスと膝までのフレアスカート。
無駄毛のまるでない、つるつるした細い脚を晒したその姿は女にしか見えなかった。
「まぁあがってくれ」
来訪者を招き入れる翔。
「おじゃましまーす」
久しぶりの親友の部屋に軽く緊張する。
何しろ今は女なのだ。あまりにも「あの頃」と違い過ぎていた。
「そういえば赤ちゃんは?」
身を裂く痛みに耐えてこの世に送り出した存在。
それが見当たらない。
「ああ。お袋が見てくれている。ちょうど寝付いたしな」
「ふーん」
いずみは辺りを見回した。
かつては何度も上がった翔の部屋。
だが体が激変してからは初めて。
女になったからか、全てのサイズが大きく感じた。
(でも、なんだか違う……男の部屋とは思えない)
そう。男くささがない。
人目を避けるためか遮光カーテンだが色は白。
ところどころに可愛らしいぬいぐるみが飾られて、またピンク色の品物も多々あった。
一番違和感を感じるのが『鏡台』。並べられた口紅や乳液などが女の持ち物と感じさせる。
「ああ。それか」
視線に気がついた翔が、苦笑しながら言う。
「体が女になったせいか感覚まで変わってきてな。化粧品なんかは今は無用のものだが、ぬいぐるみとかはなんだか無性に欲しくなってさ。子供のためにもなるし。母親になろうとしていたからかな。可愛らしいものがどうにもこうにも」
言い訳じみた説明をする。。
「今でもなんだか始末できないんだ。女だった時代を否定するみたいでな」
紛れもなく女として過ごした時代。もう一つの自分の姿。それを否定できないのも理解は出来る。
大体忘れることなど出来やしない。お腹を痛めて生んだ赤ん坊の泣き声がいやでも思い出させる。
「あたしも……そうなっちゃうのかな」
「あたし?」
ふと漏らしたいずみのつぶやき。気になったのは自己代名詞のほう。
はっとなるいずみ。いつのまにか女言葉に抵抗がなくなってきている。
「いや。これは。温子の奴に強制されて。癖になっちゃったんだよ」
しどろもどろの言い訳をする。そんないずみをじっと見据える翔。
「わかるよ。オレもそうだったしな。体の変化に伴って、内側から心も変わってくる」
黙りこくるいずみ。
「だからお前が何をしに来たのかオレにはわかる」
いずみは赤くなった。本当の女でもとても口に出せないこのセリフを見抜かれている…
……ダイテ、クダサイ……
静まる部屋。ぼそりと翔がつぶやく。
「悪い。いずみ。オレにはそれは無理だ」
「どうして!? そりゃそうか。男だってわかってるもんな」
「ああ」
短いが十分な返答。
二人は高校時代の親友。男同士で馬鹿をやってきた仲。
それが、魔力のせいで女になったからといえど「男と女」の関係になれというほうが無理だ。
「そこを何とか頼む。お前もわかるだろう。元に戻るには出産しないといけないんだ。けど、行きずりの男と体を重ねるなんて無理だ。せめて……せめて親友のお前になら」
悲痛な、叫びにも似た要請。しかしそれにも翔はゆっくりと首を横に振る。
「それもわかるさ。オレが『子宝の湯』に落ちて、元に戻るには出産するしかないとなったとき、最初に考えたのがお前だし」
「それなら!」
「でも、だめなんだ」
「どうして。こんなに頼んでるのにだめなのか?」
「論より証拠だな」
翔は着ていたシャツを脱ぎ始めた。ドキッとなるいずみ。
「どうした? そのつもりだったんだろ。お前も服を脱げよ」
「あ…ウン」
いきなりの展開に戸惑いながらも、スカートのホックを外すいずみだった。
三十分が経って…二人とも一糸纏わぬ姿。
いずみはまだまだ発達が甘いが、だいぶ女らしい体形になってきていた。
醸し出す匂いも甘い。
普通ならそんな女が裸でいたら理性は保てない。しかし……
「なんでぇ?」
翔はまったく反応しなかった。
「だから無理なんだよ。考えてもみてくれ。オレは二年も女で過ごしたんだぜ。もう女の匂いも声も姿も飽きたよ。お前がいくら可愛く迫っても、オレにしてみりゃ『女同士』なんだ。だからどんな女にも興奮しないんだ」
いずみは脱力した。顔から火が出る思いで頼みに来たのに……
「ゆるしてくれ。オレもお前を助けてやりたいけど、肝心のことが出来ないんだ」
悲しそうに翔は言う。
男として『終わった』ことか。それともやはりいずみの力になってあげられないことがか。
うつむいたままのいずみの裸の肩に、着てきたブラウスをかける翔。
「恋を……探してくれ。お前を本当に女として愛してくれる男を」
いずみは無言でたちあがると、のろのろと下着を付け直した。
全ての服をつけると一礼して出て行った。
見据える翔の瞳は沈痛だった。
それから暫くして、いずみの二度目の生理が終わった
子種をえられなかったことにより『子宝の湯』の魔力は、いずみをさらに魅力的に変化させる。
きめ細かい肌はいっそう白く輝き、髪はもう背中まで届いた。
長いまつげの目。瞳は潤み、唇は艶やかに。
胸は巨大とは言わないまでも、成人女性のプロポーションに。
まさに安産体形のヒップと、胸と腰との間で余計に細くくびれて見えるウェスト。
身長も縮み160センチを切った。
もはや男と『間違える』ものはいない。
洗い場の整理も女湯ではまったく問題なく通れるが、男湯だと客が隠れたり、反対にセクハラまがいのことをしてくる始末。
また、働いている手前『身だしなみ』として化粧の必要性に迫られる。
はじめは手際が悪かったが、毎朝慌しくやって行くうちに効率よくメイクできるようになった。
初期こそ加減を間違えてバランスの悪いメイクだったが、続けているうちに達者になっていった。
仕草も変化した。
いくら小柄だったとは言えど男の体ゆえに筋肉はあった。
それがほとんど脂肪になり非力になってしまった。
力に頼るようなところはなくなり、細かい仕草も増えた。
脚捌きは完全に別物。
股間のものがなくなってスカートになったのだ。変化しないほうがおかしい。
脚が短くなったのもあるが、ズボンのように大きなストライドで歩けない。
細かく歩くことになる。これはスカートがまとわりつくのも大きいが。
そして何より客商売。
客相手に女として接しているうちに、すっかり女としての生活が身についてしまった。
七月。
久しぶりの休日。
いずみはネグリジェ姿で目覚めるとそのまま洗面台へと。
歯磨きと洗顔だが男時代のような水でざっと洗うような簡単なものではなく、きちんと洗顔料まで使うようになっていた。
(これも女の本能的な部分なのかしら?)
女を演じていたはずが、三ヶ月も経つとすっかり内面まで影響され、思考でさえ女言葉になっていた。
いずみの場合は客商売で女らしく振舞わなくてはいけないのも『祟っていた』
「あ。お姉ちゃん。おはよう」
寝ぼけ眼の温子がパジャマ姿でやってきた。
「おはよう」
にっこりと微笑む。これは魔力のせいなのか、肉体の変化が収まると精神面が大きく変化してきた。
性格の好みは千差万別だが、よき母親としての優しい部分が。
安定したのもあるだろう。男の荒っぽい部分は消えうせ、すっかりおっとりとした上品な女性になっていた。
「お姉ちゃん。女っぽくなったね」
「そう?」
女から見てもそうなんだろうか?
元に戻っても男としてやっていけるのだろうか?
そんな不安のよぎるいずみ。
「ねぇお姉ちゃん。今日、暇?」
まるでそんな不安を打つ消すかのごとく、唐突に尋ねてくる妹。
「そうねえ。特にないわ」
まるで昔から姉妹であったかのように会話する。
もはや「お姉ちゃん」と呼ばれるのも抵抗がなくなってきていた。
「それじゃあさ。泳ぎに行かない?」
「泳ぐってことは……」
「大丈夫。貸してあげるから。水着」
春まで男だったいずみが、女物の水着を有しているはずもなかった。
山に囲まれた温泉街といえどそれなりに施設はある。市民プールの類も。
兄妹。否。姉妹はそこに来ていた。
まだ夏休みには突入しておらず人もまばらだった。
「なんだか恥ずかしいわ。温子」
胸元を押さえつついずみが言う。
ほほの赤みは頬紅というより赤面か?
「お姉ちゃん……それ嫌味だよ」
魔力のせいで充分に成熟した女体と化したいずみ。抜群のプロポーションであった。
セパレートの水着。これは温子の配慮だった。
ビキニはさすがにまだ無理。ワンピースだとトイレで戸惑うだろうと…
その温子はワンピースの水着。充分に美人だったが今のいずみの前ではややかすむ。
美人姉妹はまばらな中の注目を浴びていた。ますます小さくなるいずみ。
「温子ぉ。そろそろ泳ごうよ」
とにかく水着を人目にさらしておきたくない心理。
「待ってよ。もう来てもいいはずなんだけど」
「誰が? お友達?」
現時点では女同士。女友達を誘っても不思議はなかった。だが違う。
「あっ。来た来た。こっちですよ~」
「えっ?」
その「もう一人」は翔だった。
「じゃ。あたしは泳いできますんで、お二人さん。ごゆっくり~~」
この一言で温子が仕組んだのははっきりとわかった。
気まずいふたり。並んでプールサイドに腰掛ける。
「元気そうね……」
「ああ」
また黙ってしまう二人。ちらりと翔を見るいずみ。
(男の胸ってこんなに平べったかったんだ……なんだか忘れていた……自分が男だったことまで忘れてしまいそう…)
不意に涙が溢れてきた。
「お…おい?」
自分も二年間女で過ごしてきたからある程度は女の心がわかる。その翔でも動揺した突然の涙。
「わたし怖い。このままじゃ本当に女になっちゃう。それじゃ男として過ごした日々はなんだったの?」
「いずみ」
かつて同じ道を歩んだ翔には痛いほど理解できた。
「戻りたい……男に……」
「……」
その涙もわかる。
「翔。どうしてもだめなの?」
哀願するいずみ。
「ああ。だめなんだ。オレは苦痛とともに子供を仕込まれた。どうしてもその記憶がオレを苦しめる。女を抱くとその時の自分がダブって……」
申し訳なさそうな翔。
「そっか……つらかったんだね。そうだよね」
いずみは再び涙した。
「許せ。助けられないのを」
「ううん。違うの。ただ可哀相だと思って……」
無理やりな笑顔でその場を離れた。
残された翔はやるせなさを感じていた。
「どうして?」
プールの出口で温子が問いかける。
「温子。仕組んだでしょう?」
あくまでやんわりと問いただす。
「そんなことはどうでもいいの。どうして一人なのよ。翔さんは?」
「たぶん中ね。久しぶりだから育児を忘れて体を動かしたいのかもね」
「何のんきなことを言ってんのよ。お姉ちゃん。早く子供産まないとずっとそのままだよ」
いずみがきつく問い詰めなかったのはこれを見越していたからだ。
妹が自分を心配してと。
「心配してくれてありがとう。でも無理強いは出来ないわ。逆だったらどうかしら?」
「そ、そりゃ確かにそうだけど」
「わかればいいわ。そう。わかれば」
「でもどうすんの。お姉ちゃん。このままじゃ一生……だからどうせやらないとダメなら早い方がいいわよ」
「だからって誰でもいいわけじゃないはずよ」
迷っていた。男に戻れるのなら相手は選ばなくてもいいかも…と。
(でも見知らぬ男を自分の中に……そんなことはできないな)
季節は流れ秋に。
温泉宿はこれから忙しくなる。
いずみもすっり女としての生活に溶け込んでいた。
朝、目覚めてブラジャーを胸に当て、衣服をつける。もちろん女物だ。
朝食の後で化粧をして、髪を整える。それから改めて和服に着替える。
仕事になじんだいずみは、洗い場の整理から宿屋の中を担当するようになっていた。
人目を意識するようになると、ますます女としての体裁を整えにかかる。
このころには魔力との相乗効果で、美人に磨きがかかっていた。
誰もが振り返る美人だった。
翔はまだトラウマから解放されていなかった。
どうしても『行為』をする気になれない。
無理やりな行為がどれだけ女にとって苦痛か。身に染みて理解したのである。
そしてそれだけにいずみのことも気にかけていた。
(オレと同じにやけくそで誰彼かまわずやらなきゃいいんだがな……なんか今日に限ってひどく気になる)
『女の勘』が残っていたのか。いやな胸騒ぎを抑えきれない翔。
「(無駄足でもいい。あいつの顔を見に行こう)。母さん。ちょっとでてくる。舞を頼む」
自分が産んだ娘を母親に任せると、翔は泉の働く宝田旅館へと向かった。
「アンタ。美人だなぁ」
泊り客の部屋の布団を敷いていたとき、その客に言われた。
「あら。ありがとうございます」
愛想笑いをするいずみ。
クールなのは相手が酔っていたからだ。それににやけていた。四十半ばの男。
いずみはかまわず仕事を続ける。
客相手に尻を見せることになるが、作業の関係上やむをえない。
ただし、失礼ではなく劣情を刺激した。
男はむらむらとしてきた。よって制動のかからないのもあり、衝動のままにいずみに後から抱きつく。
「きゃっ」
悲鳴すら女のそれに。
「お、お客さん。困ります」
「そそる体をしているなぁ」
「子宝の湯」の効果。子種をえやすくするため。男にとって魅力のある体になっていった。
「なぁ。いいだろう。金ならあるんだ」
背後から胸を揉みながら、荒い息で言い寄る。
(こんな形でか……いいかもな。男に戻るためだ。苦い薬を飲むようなものだ。いやな思い出であればあるほど、二度と同じ失敗はしないし)
いずみは同意を示すべく首を立てに振った。
「おじさん。こんばんわ」
「おお。翔くん。いらっしゃい」
出迎えたわけではないが最初に顔をあわせたのはいずみの父。幸太郎。
「いずみ、いますか?」
「アイツなら今頃は客室の布団を敷いて回っているはずだが」
それだけ聞くと翔は走っていった。
はだける服。大きく肩を露出して鎖骨を見せている。豊かな胸が作り出す谷間も。
いずみの体につばを飲み込む男。
(これでいい……これでいいのよ。これは戒め。自分への教訓…)
頭では理解してもどうしても嫌悪感がぬぐえない。
(でも……これには『愛』がない。虫が繋がるようなもの。ああ。翔。あなたはこんな苦痛を味わったのね。それをこれからあたしも……)
「さて。じゃ脱いでもらうかな」
いずみは黙って帯を緩める。だが
「いやぁーっ。やっぱりだめぇーっ」
土壇場で怖くなる。『焦らされた』酔客は激怒する。
「ここまで来て何を寝ぼけている。さぁ。早くしろ」
そのときだ。バタン。ドアが乱暴に開いた。
青年が荒い呼吸をしている。
「翔? どうしてここに?」
「なんだお前は? 邪魔するな」
邪魔された酔客は怒鳴り散らす。
「お客さん……困りますね。この旅館ではそういうサービスはないんですよ」
引きつる笑顔で言う翔。
「はっ。表向きはそうだろうが…」
言わせなかった。翔はつかつかと歩み寄ると酔客からいずみを奪い返した。そして「俺の女に手を出すな」と。
「翔……」
同じ抱きしめられるのでも、この酔客に抱かれたときと違い、翔の腕の中にいるときはとても安心して、そしてときめいたいずみだった。
ふたりは部屋をあとにする。
翔が事情を話していずみの部屋へと行く。今日は早引けだ。
「バカヤロウ。もっと自分を大切にしろ」
かつてレイプまがいの行為を受け、心に治しきれない傷を負った翔が本気で怒鳴る。
「ごめんなさい。どうかしてた……焦ってたのかも…」
その気持ちは理解できる。だから叱るのはもうやめた。
「自覚を持てよ。お前がどれだけ男にとって魅力のある体か…」
「あっ。お客さん。何を?」
押し倒される翔だった女。
「いいだろう。お前は男に戻りたくて相手を探しているそうじゃないか。とても元・男とは思えない体だ。そそるぜ」
下卑た表情の男が迫る。。
「俺を楽しませろよ。そしたらお前は元に戻れるぜ」
迷った翔だが、女で一生を終える気がなかったので同意した。だが、ひどい屈辱と苦痛。
それが精神的外傷に
「うっ」
それを思い出して胃液が逆流してくる。
「翔?」
慌てていずみは洗面所に案内する。
何とか間に合い部屋を汚さずには済んだ。口をゆすいだ翔が心配そうないずみに言う。
「わかったか……あまり慌ててやると二度と女の抱けない体になる。俺が相手してやれればいいんだが、どうしてもあのときのことを思い出してな」
心底すまなそうに言う翔。決して「元・男」と触れ合いたくないからの口実ではない。
大体関わりたくないならここにはいない。それを理解した。
「翔。とても大きな傷を心に負ってしまったのね」
いずみが泣いた。これもまた誘うための打算ではない。気がつけば泣いていた。
(何だ。とても可愛く見える。どうしてだ。俺は二度と女を抱けない男。なのにこいつと……いや!! だめだ。同じようには出来ない)
『劣情』が彼を支配する。男に戻ってからは初めてだった。
「翔。あたしじゃダメ? あたしじゃいやな記憶をかき消す思い出にならない?」
見上げてくる。媚びてない。
(こいつは・・・自分の体でオレのトラウマを解消したいと思っている。オレの事を案じてくれるのか…)
猛烈にいずみが可愛くて仕方なくなってきた。
「お願い……抱いてください」
「いずみ……お前」
このやり取りで決意が固まった。自分の心と立ち向かう。
翔はいずみの両肩をがっしりとした手で掴む。
「しょ…翔?」
「いずみ。オレはお前を男に戻すために相手になる。代わりにお前がオレの心の傷を癒してくれ」
敢えて打算を打ち出して「愛」を否定する。
それでもいずみはコクリと頷いた。
いずみの部屋。一糸纏わぬ姿になった二人は見詰め合う。
「今だけは……今だけはお前のことを女と思うぞ」
「うん。そうして。あたしも心から女にならないととても男とは出来そうにないし。それから……」
「わかっている。優しくするよ」
大体見当はついていた。
「わかるの?」
「ああ。オレも二年だけだが女だったんだ。わかっているつもりだ」
二人は唇を重ねた。
互いに相手を気持ちよくすることだけに心を砕いた。
だからとても優しい肌と肌の重ねあいになった。
やがてともに上り詰め、ともに果てた。
「痛かったか」
涙を流すいずみに尋ねる翔。ふたりはまだ互いの腕の中。
それとも男としてここまでやってしまった屈辱か。自分も経験があるだけに気遣う翔。
だが涙の理由はどちらでもなかった。
「嬉しいの。これで男に戻れるのもそうだけど、翔が愛情もって接してくれたのがよくわかったから」
「言葉じゃウソはつけてもな、これではつけないしな」
離れようとする翔。それを強い力で引き戻すいずみ。
「いずみ?」
「お願い。もう少しこのままでいて。とても暖かい。離れたら寂しくなりそう」
「わかったよ。好きなだけ抱きしめてやる」
いずみの心の中で変化が起きていた。
翔は苦痛と屈辱でトラウマになったこの行為。それゆえに優しく接した。
だからいずみには甘美ですばらしい時間に思えた。
(これだったなら…こんなに優しいのなら……ずっと女でもいいかもしれない)
翔を高校時代の親友としてではなく、一人の異性として意識し始めた。
心が揺らいでいた。