6話
18:45
「加古以下4隻が魚雷艇と交戦を始めました!」
通信士がそう言うと南雲は「よし、頼むぞ…………」と続く。
だがソ連は兵が畑でとれると言う国情を利用して弾幕を数で押し通して進撃を続けていた。恐らく政府上層部、いや書記長個人に対する忠誠よりも恐怖があっただろう。
南雲はそう思いつつも電探から目を離さないように命じた。
加古測的所
「右舷高角砲撃ち方始め!」
砲術長の大見件次少佐がそう言うと右舷の張り出しに備わる速射性を高めた2基の単装8cm高角砲が魚雷艇に向け火を噴く。
(ま、まずい…………)
大見がそう内心で思った次の瞬間だった。加古の第1砲塔付近に巨大な水柱が上がり、その衝撃で弾薬に誘爆した第1砲塔からどす黒い煙が出るとすぐに警報音が鳴り響き、それからして船体がかなり前のめりに傾き始めたのである。
高雄艦橋
高雄と那智は先程の戦闘でマラートと重巡カリーニンを撃沈し、重巡洋艦を1隻大破、1隻を中破に追い込み、更に駆逐艦1隻を沈め、2隻を大破させ南雲らのテンションは最高潮に達していたが、ある見張員がふと1時の方角を見るとすぐに「か、加古が炎上しています」と叫び、それを聞いた南雲司令はすぐに「加古の状況は?」と聞き返すと通信員はすぐに加古と無電を繋ぐ。すると加古から『こちら加古。"我、被雷なるも浸水を制し、沈没を防ぐ事に成功なるも航行は困難也"』と報告が入るとすぐに佐渡島に救援を要請したのである。
同じ頃、加古はと言うと…………
艦橋
「左舷後方バラストタンク及び第1、第2砲塔に注水。船体前部区画の完全封鎖と機関部の損傷確認を怠るな!」
曽屋大佐がそう言うと船内の応急員が伝声管を通じて大声で『第1及び第2砲塔の中間区画で大規模な亀裂を確認。艦橋直前区画周辺の水密扉の全面溶接と船首部分切断の許可をお願いします』と言うと曽屋は「仕方あるまい。御国の船だ。それに国民の血税、それに技術者の血と汗や涙の結晶を守れれば船首切断など大きな損失ではない」と続き、更に「了解。これより艦長として船首区画の封鎖を命じる」と続くとすぐにガスマスクを背負った応急員たちを除く全ての乗員が受け持ち区画を離れ、応急員は隔壁を仕切っていた水密扉を完全溶接して浸水の心配が無い区画へ移動する。
その間も魚雷艇は加古を沈めるべく接近を続けるが、子の日や磯波の支援射撃、そして加古自身の第3砲塔に高角砲や25mm機銃群に加えて上空では独断専行した扶桑の空川少尉と利根の瑞雲合わせて6機や空母祥鳳から飛来した零式複戦が絶え間なく魚雷艇に攻撃を浴びせていた。
上空・空川機
「それにしても数が多いな」
空川はそう言いつつも魚雷艇に機首と主翼、それぞれの機銃を使い分けて機銃掃射を浴びせる。
例えば散布界が広範囲に渡る20mm機銃を魚雷艇に浴びせると魚雷艇はそれから逃げるべく進路を変えようとするが、その前に命中精度の高い機首の12.7mm機銃を浴びせ、これを撃沈する。
それを繰り返して空川らが新たな魚雷艇の接近を防ぎ、それでも近付いたら子の日、磯波が12.7cm砲や25㎜機銃でこれを迎え撃つ。
空川や護衛の駆逐艦らの奮戦と時を同じくして加古の船体前部区画では切り離し作業の準備を乗員たちが必死で続け、戦闘が終結してから2時間後には哨戒任務に向かっていた最新鋭の軽巡阿賀野が到着。加古は乗員たちの努力の結果、船体前部の切断を終え、後方から阿賀野に引っ張られ、命辛々佐渡島へ離脱したのである。
そして翌朝、佐渡島に停泊していた工作艦朝日の支援の元、加古は船体前部を完全に切断。更に最低限の修理をしてから新潟へと回航されたのである。
この日、第4水雷戦隊壊滅や巡洋艦1隻大破などの被害をこうむった皇国海軍ではあったが、戦術的には勝利であった。
八ソ艦隊の被害
八洲艦隊
沈没 那珂、如月、深雪、疾風
大破 加古
中破 無し
小破 青葉
ソ連艦隊
沈没
戦艦マラート、駆逐艦2
重巡カリーニン、軽巡3、
魚雷艇多数
大破 重巡ケルチ、駆逐多数
中破 重巡オチャコフ
小破 重巡モトロフ、駆逐2