4話
空川特務少尉
25歳の名古屋出身。扶桑整備分隊長兼水偵操縦士。以前は空技廠にいた。
14で海軍幼年学校に入隊。水上機の整備士だったが、操縦も独学で勉強している努力人。
※航空母艦先生モチーフの整備士です。
1941年12月5日18:00
連合艦隊旗艦高雄艦橋
「……………いよいよか」
連合艦隊司令長官の南雲忠一中将がそう呟くとニヤりと笑みを浮かべた。艦長の山宮健吉大佐が「司令、これより本艦から新型偵察機を出します」と言うと南雲は「あぁ、空川特務少尉の秘策とやらを見せてもらおうではないか」と続く。
後部甲板・航空機作業エリア
「空川少尉。どうかご無事で」と整備士の木部二等軍曹がそう言うと「おうよ!心配するな」と彼の上官である高雄の航空整備長で、かつ瑞雲の操縦席から空川航特務少尉が答えた。
すると飛行隊長で飛行科と飛行整備科をまとめるドンである三田兼吉大尉が乗る新型複座水上偵察機が射出機から射出され、すぐにこちらに戻って来ると続いて空川の瑞雲が射出台から滑る様に射出機にセットされ、射出する方角へ向く。そして数秒後、空川は愛機が射出されるとすぐに操縦桿をゆっくりと上向けにして機体を少しずついや緩やかに上昇させていく。
数秒後、那智や阿武隈などの搭載する零式水偵と利根搭載の瑞雲ならびに高雄の紫雲及び瑞雲が合流し、一子乱れぬ編隊を形成し、前方哨戒担当の電探を搭載した2式大艇並びに1式陸攻の誘導の元、ソ連艦隊の方角を艦隊へ随時報告していた。
重巡モトロフ艦橋
(嫌な予感がするな……………もしや八洲軍は我々を罠に嵌めるつもりで、我々はその罠に見事に嵌まったウサギなのか?)
そう長身で太めの初老男、太平洋艦隊司令のジョン・セルゲイ少将がそう自問自答をすると突如、政治士官が「同志司令、八洲艦隊は既に新たな運動を開始しております。その運動を乱す為にも早く攻撃を!」と言って来たのでセルゲイは「その通りだが、本艦にガングード、それに本艦の同型艦の火力や射程はあちらの主力である高雄型巡洋艦に比べ圧倒的に勝る。撃つなら今しかないでしょう」と言うと政治士官が「その通りだ!巡洋艦など恐れることない」と続くので渋々セルゲイは砲撃命令を下した。
上空、空川機
「少尉!連中が発砲してきました!」と観測手の俺、野崎清吉三等軍曹が空川少尉に報告すると少尉は「高雄に打電しろ!」と命じ、すぐに急上昇して胴体下に搭載された13試信号弾を投下する。
しばらくすると信号弾は水中で炸裂し、赤い水柱を上げる。
それは"即時発砲ノ要ヲ認ム"を意味するモノで、高雄座乗の南雲中将の指示が入ると砲撃をすぐさま始める。
そしてソ連艦隊が気が付かない内に南西から佐渡島艦隊所属の軽巡那珂を中心とした第4水雷戦隊が接近しており、雷撃するチャンスを伺っていた。
那珂艦橋
「いよいよだな諸君」
そう五藤存知少将が呟くと那珂艦長の神重徳大佐らが頷く。
那珂は川内型を改良型して新造時から後に就役した水無瀬型(水無瀬、長瀬)と同じく14cm連装砲3基に加え当時試験中の12.7cm連装高角砲に3連装魚雷発射管を搭載しており、高い砲雷戦性能を誇っていた。
そして今も利根型の砲戦特化型である四万十型軽巡の就役や同型艦が防空改修や雷撃改修がなされているので存在は陰り気味だが、主砲6門、副砲2門に魚雷管片舷8門と言う充分な砲雷戦能力を有している。
「「砲撃開始!」」
栗田と神が同時にそう叫ぶと那珂に装備された3基の14cm連装砲と1基の12.7㎝高角砲が一斉に火を噴き始める。
続いて那珂の指揮下の如月、疾風と他の睦月型駆逐艦3隻と駆逐艦の指揮艦である特型の深雪が一斉に砲撃を開始する。
とは言えソ連艦隊はすぐに第4水雷戦隊に気付き、何隻かの艦を4水戦へと向かわせ、砲撃を開始する。だがその何隻かに米国から売却された旧式でも強力なオマハ級が含まれていた。
すぐにこれに気が付いた五藤は水雷戦に移る様に命じるが、オマハ級は既に砲撃を開始していた。
とは言えソ連兵に比べて我が方の練度は極めて高く、オマハ級を追い詰めるが、その隙に米国製輸送艦から発進した魚雷艇が那珂らに襲い掛かる。
那珂艦橋
「目標変更、あの魚雷艇だ!」
神はそう言うと那珂の主砲は魚雷艇に志向し、上空の那珂搭載の95式水偵もすぐに低空に舞い降りて魚雷艇に襲い掛かる。
そして魚雷艇に機銃掃射を浴びせるも更に別の方角から違う魚雷艇が現れ、水偵を翻弄する。
そして水偵の機銃弾が尽きたのと同時に残った数隻の魚雷艇は一斉に魚雷を放つ。
それに対して五藤は神に回避と攻撃継続を命じるも撃破される直前にある魚雷艇が放った魚雷は那珂の船体中央部の機関部に直撃し、船体を真っ二つに引き裂いたのである。
更にそれらの犠牲もあってソ連艦隊のオマハ級と魚雷艇と駆逐艦は自らが全滅する被害と引き換えに那珂、深雪、疾風、如月に更に別の睦月型1隻を撃沈する戦果を上げたのである。
だが、主力艦隊同士の戦闘は日本側優勢で始まろうとしていた。