11話
1943年9月3日
名古屋、国防省内
電話の音が鳴り響く中、一人の濃緑色の服を着た男が電話を取る。
すると電話の向こうから焦った声が聞こえてきたのである
「…………何だと!?」
濃緑色の服の男は唖然とした表情をしながらそう言うとすぐに電話を置き、会議室から男は国防大臣室にいる川平宗一大将の元へと走る。
30分後、会議室
「今日暁前、千島島を占領したソ連軍カムチャスカ方面師団と思われる部隊は根室へ沿岸部より侵攻を開始。同じく樺太南部に侵攻したソ連軍も稚内へと南下している模様です」
陸軍大臣の西川良一郎がそう言うと海軍大臣の山本五十六が「ふむ、だとするならば海上から迎撃を行う場合、艦砲射撃となるのか…………だが、そうすると市街地への被害が出てしまうからそれは避けるべきだな」と続く。
すると西川は「その点については山本さんの仰る通りですが、幹線道路地帯に対する艦砲射撃ないし空爆を加えれば少しの間は時間が稼げるのではないでしょうか?」と続く。すると山本は「その通りではありますが…………」と続いた。
しばらく会議は続くとようやく川平中将が重い口を開き「釧路、旭川、留萌などの住民を札幌ないし帯広に避難させる事を優先せよ。なお、必要に応じて橋は出来るだけ爆破し、重砲兵部隊を配備せよ」と命じる。
川平の命令を理解した西川と山本はすぐにモールス信号装置でそれらの情報を送信し、各地の部隊はその命令通りに作戦を開始したのである。
苫小牧沖合、戦艦陸奥艦上
「どうやらこのような作戦みたいですね」
艦長の三好大佐がそう言うと司令の西田中将が頷き、陸奥は少しずつ速度を上げていく。陸奥以外にも山城、霧島、大雪に加え重巡鳥海、摩耶、三隈、軽巡阿武隈、川内が多数の駆逐艦を引き連れ出港していく。
無論、空母赤城もその中にいたのは言うまでもない。
9月3日16時頃襟裳岬周辺
赤城の艦上から多数の艦載機が飛び立つと周囲の大型艦や巡洋艦は赤城の周囲に位置し、赤城を守る態勢にはいる。
30分後、赤城のすべての航空機が飛び立つと艦隊は次なる行動に移る。
そう、艦砲射撃及び敵艦隊襲来時への備えである。
とは言え制空権を確実に確保出来るように襟裳岬に特設飛行場を陸海軍が共同で建設しており、えりも特設飛行場から12機の烈風戦闘機と12機流星31型戦闘攻撃機が変わりばんこで飛来し、時折陸軍機も艦隊の護衛についていた。
17時ごろ、根室上空
「ソ連軍戦闘機だな…………ななめ上空に敵編隊がいる。これより我に続け!」
赤城の戦闘機隊長を務める北辺浩次大尉がそう言うと彼の機体は一気に上昇していく。続いて彼の僚機も次々に上昇していく。
やがて空戦に突入すると烈風はソ連が米国から(対独戦向けに)貸与されたF6Fをデッドコピーしたウラル戦闘機(※)に対して優勢な状況を確保する。
ウラル戦闘機もF4Uのコピー機バイカル戦闘機と同じく母体が優秀とは言え、激戦で手慣れの操縦士が揃うウラル以西の操縦士と比べレベルの低いシベリアに配備されている操縦士のレベルからすれば扱いにくい代物であった。
とは言え赤城航空隊の先頭にいた天山攻撃機については特に苦労する事無く撃墜する事が出来た事もあり日本側の戦闘機の搭乗員の内、若手の操縦士がその攻撃機を襲ったバイカル及びウラル戦闘機に襲い掛かる。
が、これこそが罠であった。そう、ソ連軍戦闘機隊はその罠にはまった機を集中的に攻撃し、その烈風を撃墜したのである。
だが日本側も負けていなかった、岩本徹三中尉の操る烈風がある編隊の烈風を追撃しようとしていたバイカル戦闘機を一瞬で撃墜すると続いて彼は別の編隊に所属する天山を狙っていたウラル戦闘機も撃墜し、彼に続くように多くのベテラン操縦士の操る烈風はソ連軍戦闘機を撃墜していく。
17時30分、戦闘エリアを抜けるとソ連軍のいる空域に攻撃隊はたどり着いたのである。
※1 ウラル戦闘機
表向きは対独戦用に購入したF6Fを極秘リバースエンジニアリングした機体。
武装についてはブローニング12.7㎜機銃6門のコピー版ではあるが、やや大きさがかさんでしまった事や、インテグラルタンクも実現出来なかった事から性能もやや低下しているが、翼に燃料の無いという事もあり烈風や紫電改並みに軽快な運動が可能となった。急降下こそ可能であるが防弾版についてはコピーが出来なかった事もあって全廃されており、燃料タンクは防弾性が零戦並と脆い




