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白雪姫と7人の王子様+αⅡ  作者: 夜月猫人
~物語を始める前に~
2/57

前作のあらすじ(第一部ネタバレ)



 アースガルダ大陸の小国エルドラド王国の第一王妃エクレーネは、変わった鏡を持っていた。


 それは、相対的価値しか計れぬ人間に、絶対的価値を示すという――真実を映す魔法の鏡だ。


 美しい王妃エクレーネは、その鏡に棲む精霊に、毎夜価値を問うていた。



「世界で最も美しい女性は誰?」


 だが鏡の精霊ヴァリウスは、ある日彼女の望まぬ答を口にした。


「それは、今宵15歳のお誕生日を迎えられた白雪姫――エルドラド王国ただ一人の姫君、フィオナ様です」



 その言葉によって、白雪姫――フィオナの人生は、大きく狂わされることになる。


 城の塔に閉じ込められ、漫然と日々を過ごしていたフィオナは、15歳の誕生日の夜、継母に白雪姫を殺すよう命じられた従者ロバートの助けで、迷いの森――イアルンヴィズの森へと逃げ込んだ。


 極限の疲労の中で見た霧に舞う影に誘われ、辿り着いた先には、不思議な一軒家があった。



 そこには、7人の個性的な青年たちが、ケンカしつつも仲良く暮らしていた。


 なんと彼らは皆、とある国の王子様だという。


 家事を分担する条件で、森の家に住まわせてもらうことになった白雪姫。


 そうして、7人の王子と1人の王女の、奇妙な共同生活が始まった。



 年長の兄弟王子ウィルとヴァンは、対照的な性格だった。フィオナは、厳しく居丈高な弟ヴァンに、なかなか慣れることが出来なかったが、穏やかで優しい兄ウィルのフォローで、少しずつだが、ヴァンのことを理解していく。


 双子の王子は、無口で無表情な兄ジークと、常におどけた表情を作り、煙に巻くような言動を弄す弟ユーリ、どちらも何を考えているか分からないという意味では、よく似ていた。


 料理上手で気遣い屋のカミュ、明るく暢気者なラウ、同い年で、口は悪いが根は純真なリッド。



 彼らと森の家で過ごすようになって4日目、フィオナはウィルの提案で、ジークと2人近郊の町オルフェンへ買い出しに行くことになった。


 初めて見る市井にはしゃぐフィオナに、ジークは淡々と、だが意外に温かく付き添ってくれた。


 だが、彼が目を離した隙に、フィオナは町役人に目を付けられ、追いかけられる羽目になる。


 何とか役人を巻いて逃げた先で、暴漢に絡まれたところを、ジークに助けられ事なきを得るフィオナ。


 後から聞いた話では、役人がフィオナを追いかけた理由が、アルファザード王国の第一王子が「世界で一番美しい女性」を妻に迎えるため探しているからだという。



 そんな事件もありながら、穏やかな日々を過ごしていた彼らのもとに、不穏な影が忍び寄る。


 フィオナが森の家に来て9日目、森の家の窓硝子を割った弓矢は、フィオナを庇ったユーリの右腕をかすめ、ウィルの顔のすぐ横の壁に突き刺さった。


 一体誰を狙ったのか、正体不明の襲撃を受け、動揺が走る森の家に、その夜、再び投げ込まれた一本の矢には、『白雪姫を返せ』という殴り書きの手紙がくくりつけられていた。


 もはや隠し通せるものではなく、フィオナが己の素性を話すと、同居人達は『仲間』であるフィオナを守ることを約束してくれる。



 その夜、眠れないフィオナに、部屋の前で見張りをつとめていたカミュが、ドア越しに話し相手になってくれた。


 彼ら――カミュとラウは、このアースガルダ大陸の出身ではなく、もっと南の異大陸から、はるばる海を渡ってやって来たのだという。


 彼らの国は隣同士で、2人は幼馴染みの親友だった。だがある日、友好国だったこの2国間で戦争が勃発し、彼らの人生は大きく変わってしまった。2人は戦火を逃れて国を離れ、異大陸に亡命する道を選んだ。


 そうやって共に苦難を乗り越えられる相手がいるということが、ひとりぼっちのフィオナには、とても羨ましかった。それは、ウィルとヴァン、ジークとユーリの兄弟も同様だった。



 だが翌朝、張り詰めた空気の中、ラウの無神経な発言が発端で、2人が衝突し、カミュの方が家を飛び出してしまう。


 そんな中、連日の強襲に遭い、森の家は騒然とした。


 襲撃者は、アルファザード王国第一王子の従者アルヴィスとキアルディだった。精鋭である近衛隊を前に、ジークとユーリが一歩も譲らぬ攻防を見せ、襲撃者を撃退する。



 翌日、森の家に、西の大国アルファザード王国の第一王子レナードが現れた。彼は、真実を映す魔法の鏡を手に入れ、己が望む「世界で一番美しい女」がフィオナであることを突き止めていた。


 レナードは、フィオナが己の婚約者である断言する。


 塔を逃げ出すことになった誕生日の翌日、正式に発表されるはずだった婚約者が彼であったことを知らされたフィオナは、レナード王子の手を取って、アルファザード王国に嫁ぐか否かの選択を迫られる。


 回答を保留したフィオナに、「明日の聖日祭が終わればまた来る」と言い残し、レナードと従者達は去っていった。



 その夜、フィオナの大きな選択の判断材料になればと、ヴァンが明日王都で行われる、聖日祭のパレードを見に行かないかと誘ってくれた。


 思わぬ誘いに二つ返事で答えたフィオナは、ヴァンをライバル視していたレナードが口にしていた、彼ら兄弟の過去について、本人に問うた。



 ヴァンとウィルの人生の波乱は、彼らが生まれた瞬間から始まっていた。第一王妃と第二王妃、二人の妃の男子が、同じ日に、ほぼ同時刻に生まれるという奇跡から、全てが狂い出した。


 2つの派閥が対立し、正統な王位継承者であるウィルの風当たりは、彼が事故で両足の機能を失ってから強くなった。彼らが成人する17歳の年、ついに実力行使に出た何者かによって、城内でウィルの命が狙われ出した。足の不自由な兄が、敵の手にかかるのは時間の問題と考えたヴァンは、ウィルを連れて亡命する道を選んだのだ。


 ヴァンにとっての兄は、絶対的な存在で、越えることの出来ない壁だった。同時に、何に替えても守らなければいけない、唯一の存在だった。



 翌3月21日、聖日祭当日、王都へ訪れたフィオナとヴァンは、華やかな街とパレードを観光した。


 途中ヴァンとはぐれてしまったフィオナは、先日、森に住む不思議な少年ルイロットに紹介された青年ローズレインと再会を果たす。


 路上で絡んできた男たちを、魔法としか思えない力で撃退するローズレインに、フィオナは、彼が本当に魔法使いであることを確信する。


 どうやったらまた会えるかと訊ねたフィオナに、「会いたいと思ったら探してみて」と言葉を残し、去っていくローズレイン。心配して探し回ってくれたらしいヴァンと合流し、森へ戻る道中、ヴァンは、迷うフィオナに、自分の意志で選ぶことを促した。



 その夜、食卓を囲んでフィオナの今後の身の振り方を話し合った時、誰もがレナードの人柄を疑って反対姿勢を見せる中、ひとりウィルだけが、レナードとの結婚をすすめた。


 フィオナを突き放したような物言いに、リッドが激怒して反発し、同調した同居人達とウィルとの間に、ぎくしゃくした空気が流れてしまう。



 だがフィオナは、突き放されることで逆に目が覚めた思いで、翌日、ローズレインに会いに行くことを決心する。


 森の魔法使いローズレインを紹介してくれた少年ルイロットの正体は、森の精霊だった。彼に頼み込み、ローズレインの家に案内してもらったフィオナは、大鏡の中を自由に行き来できる謎の青年――鏡の精霊ヴァリウスに出会う。



 彼が棲む魔法の大鏡は、この世で2つしかない代物なのだという。


 そのうちの1つは、実はフィオナの継母エクレーネが持っていたもので、今はアルファザード王国の王子レナードの手に渡っていた。


 人ではない者の視点から紡がれるローズレインの言葉は、フィオナが押さえ込んでいた本音を導き出した。常に自分を殺し、周囲の望む己であろうとしたフィオナは、初めて、自分が本当は何がしたいかを知る。



 意志を固め、森の家に戻ったフィオナを迎えたのは、「今日、レナード王子が迎えに来る」という、使者からの伝達だった。


 だがやって来たレナードは、フィオナには目もくれず、いきなりヴァンに決闘を申し出た。


 それは、レナードが真実を映す魔法の鏡に聞いた、ある質問の回答が原因だったのだが、フィオナたちは知る由もない。



 強引に白雪姫を賭けて戦うことを挑んだレナードの挑発にヴァンが応え、迷いの森で前代未聞の決闘が始まる。


 結果的にヴァンが敗れ、勝者となったレナードの求婚を、フィオナは、はっきりと自分の口で断った。


 それは、城にいた頃のフィオナにはなかった意思表示だった。



 ところが、レナードの名誉を傷つけられたと憤った従者キアルディが、車椅子のウィルを人質に取り、フィオナを脅しにかけた。


 その行為自体は、彼の主であるレナードの本意ではなかった。ウィルの素性を知らず暴挙に出るキアルディに、レナードはウィルが西の超大国サン=フレイア王国の後継者であることを伝える。



 その事実は、キアルディを凍りつかせるには十分だったが、時既に遅く、彼の行動は、ヴァンの逆鱗に触れるものだった。


 人が変わったようにキアルディを締め上げるヴァンの暴走を止められたのは、やはりウィルだけだった。


 そのことに、フィオナは入り込めない2人の絆を改めて感じ、無自覚な嫉妬と寂寥を覚えていた。



 同時刻、レナードの目を逃れるように場を離れたジークとユーリに、リッドがつきまとっていた。


 フィオナの婚約について、明確な意志表示を見せなかった双子を説得しようとするリッドに、逆に、ユーリがからかい半分に脅をしかける。


 つまり、大陸の覇権を狙う牙狼王が君臨する、東の軍事大国シュヴァルト帝国の皇子であるジークとユーリを、次期教皇たるリッドが、無防備に信用するリスクを、残酷に言い聞かせたのだ。



 リッドは現教皇の隠し子であり、13歳になるまで何も知らされずに、ごく普通の庶民として育てられた。


 アースガルダ大陸の宗教的権威、イザヴェル皇国に残された唯一の正当なる後継者であると知らされたリッドは、その重圧に耐えかね、迷いの森へと逃げ込んだのだ。



 ユーリに傷口を抉られ、森の家に逃げ帰ったリッドが、フィオナを連れ去りに来たレナードに喧嘩を売りそうになるのを、ラウ達が慌ててなだめる。


 一旦退くことを決めたレナード一行を見送ると、それまで姿を消していた双子の王子が帰ってきた。


 リッドとユーリ、ジークが和解し、再び森の家に、以前と同じ平穏な日々が戻る。



 だが、少し変わったこともある。


 例えば、フィオナがこの森の家を成長の場にして、一人で生きていけるようになると決めたこと、フィオナが前ほどお客さん扱いされず、仲間として受け入れられるようになったこと、そして――フィオナとヴァンの距離が、前よりも少し縮まったこと。


 変わったことを自覚し、これからも変わっていくことを受け入れながら、少しでも『今』が長く続けばいい――そんな風に願いながら、穏やかな日々が過ぎていく。




 そして今日も、迷いの森には、1人の王女と7人の王子様が住んでいるのだ。




 ――第二部に続く。






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