豹変
皆さん、どうも魔王です。
えぇっと、何と言いましょうか……。
よく分からない状況になってます。
「アニキ! これも美味いッスよ! 食ってみて下さい」
そう言ってにこやかに料理を小皿に取り分けて、俺に渡す勇者君。
さっき俺にフルボッコにされて泣いていたのになぁ。
「? どうしたんすか、さっきから何も話さないッスけど……」
勇者君が不思議そうに首を傾げている。
えっと、状況を分かりやすく説明すると、今俺たちは三人で白龍亭のテーブルに着いている。
丸テーブルを囲んで、俺から向かって右側にイケメン君、左側に勇者君だ。
テーブルの上には、所狭しと料理が置いてある。
「あぁ、御代の方は気にしないでいいですよ。僕の勘違いで巻き込んでしまったので御馳走します」
イケメン君がそう言ってくる、俺が値段の事で悩んでるとでも思ったのだろう。
そう、あの騒動は勘違いで起きたのだ。
事の発端は勇者君と髭の男の喧嘩、あれは実は髭の男に問題があった。
髭の男が白龍亭のウェイトレスをナンパし始めたらしい。
最初は談笑しウェイトレスさんも笑いながら相手をしていたが、次第にボディタッチ、下ネタトークなどをし始めたそうだ。
男が酒を飲んでいた事もあって、どんどんエスカレートしていった。
店長さんも困ってしまって、周りを見渡すが皆一様に顔を背ける。
男はここら辺ではちょっと名の知れた冒険者だったので、下手に首を突っ込んで巻き込まれたくはないようだった。
結果、男がウェイトレスさんに手を上げようとした時。
一番奥に座り、背を向けて食事をしていた青年が立ち上がって言った。
「まったく、折角のメシが不味くなる……」
「何か言ったか?ガキが!」
男は青年見てそう呟いた。
男の発言にカチンときた青年は振り返り。
「あぁん? てめぇぶっ殺すぞコラッ!」
声を低くして叫んだ。
「何だお前は! 邪魔すんじゃねぇよ!!」
青年の喧嘩腰の言葉に男も振り向いた。
その時にイケメン君が乱入、現在に至るということだ。
その事は俺が勇者君をフルボッコにした後、ウェイトレスさんが教えてくれたのだ。
流石に彼女も喧嘩の中に入って説明はできなかったようだ。
勇者君に土下座をさせて尋問しようとした時に、恐る恐る俺に話しかけてきたのだ。
その話を聞いた俺たちは、勇者君に謝罪をして和解した。
しかし、勇者君は鋭い目つきで俺を睨んでくる。
和解はしたが納得はしていないのだろう。
やはりボコボコにされた挙句、土下座までさせられたから怨みは強いのだろう……。
すると勇者君は意を決したように口を開いた。
「アンタの強さに惚れた! あの素早い身のこなし、片手で俺を振り回す怪力。きっと名のある冒険者なんだろ? 俺は勇者として魔王を倒さなきゃならねぇ。その俺がただの冒険者に負けていたら魔王なんて倒せねぇ。頼む! 俺を鍛えて強くしてくれねぇか!?」
は? いや、えぇ!?
いきなり何言ってんのこの子! やだ、怖い!!
俺が君を鍛える?
魔王が勇者を鍛える?
「頼む!」
そう言って頭を下げた。
「いやいや無理で……」
……いや、待てよ別に俺が標的って訳じゃない。正体がばれなければいい。
現魔王のグリムが倒されれば勇者君の役目は終了。
鍛える必要が無くなっておさらば。
その後もじじいに封印が解かれた事を黙っておいてもらって、旅を続ければ俺は自由。
そもそも俺は勇者を見たら、魔王城に戻ってグリムを殺すつもりだったけど、それだと二代目魔王が復活した事がばれて、勇者君の標的が俺に向かうんじゃないか?
それならリスクはあるが、勇者君と一緒に行動をして、グリムに俺の正体がばれる前に倒す。
魔王を勇者が倒す。何ら不思議な事は無い自然の流れだ。
それにただ、単純に面白そうだ!
そう思って俺は勇者君に一言。
「君を鍛えるというのは別として、一緒に旅をする位なら……」
そう言うと勇者君はバッと顔を上げて
「ホントか!?」
と、顔を綻ばせた。
その純粋な笑顔を見た時俺は、あぁ言動はともかくやはり勇者なんだなぁと昔をふと思い返していた。
すると、勇者君はプルプルと身体を震わせたかと思うと
「あ、アニキぃ~~~!」
俺の懐に全力で飛び込んできた!
「なっ! お、俺にそんな趣味はねぇ!」
咄嗟に掴むと後ろに倒れる反動を利用し、勇者君の腹を蹴って後ろに投げっぱなした。
その後一連の流れを見ていたイケメン君が、苦笑しながら落ち着いて話をしたいと言ったので、まだ俺は食事もしてなかったし三人はテーブルに着いたのだった。