1500文字小説―1
俺は、編集長室に呼び出されていた、原因は単純明瞭な理由。
新聞記者が、わざわざ編集長に呼び出されるなんて事そうあるわけじゃない要するに新聞記事が他社の新聞に負けたというそんな理由。
編集長は、新人である俺のことを買って、俺に目玉記事を持ってきてくれた、だがその結果は散々なもので全て他社に持っていかれた。
その結果が現在の説教だ。名誉のために言っておくが編集長は、普段はとても温厚な人だ、気さくで空気が読めてユーモアのある人だ、面白くはないが。
だが怒る時は怒るだが、一度爆発してしまえば尾は引かないそんなさっぱりした性格の人だ。女性でありながら編集長にまで上り詰めて部下にも信頼されているのはその辺りの性格が関係しているのだと思う。
「今日は、もういいわ、今日は暖かくしてゆっくりと休みなさい、それで明日からまたよろしく頼むわよ、ノボルくん」
そうこの人は、新人である俺の名前までしっかりと覚えている、俺は自分で言うのも何だけどそんなに目立つ方ではない、どちらかといえば大人しい方だと思う、そんな俺の顔と名前をしっかりと覚えている、俺だけじゃなく部下の名前を一人も漏らさずにしっかりと記憶している、それも信頼されている一つの近因だと思う。
「はい、すいません、お疲れ様でした」
俺は、荒んだ心のまま新聞社を出社すると、駅に近道をする為に街の真ん中を通る大きな歩道橋を渡る、渡っていると、ふと耳に歌声が聞こえてきた。
足を止めて耳をそばだててみる、その歌声は歩道橋の下から聞こえてきているようだった、気分転換の思い出そちらに足を向けてみる。
階段を探しやや駆け足でそちらに向かうとその歌声の主は、見た目高校生か大学生ぐらいに見えた、季節は十一月寒いだろうにコートも着ないで薄手のジャケット一枚でフォークギター一つで弾き語りをしていた。
弾いている曲は、誰もが知っているこのグループを歌を聴かなければ冬を来た気がしないという歌、解散していたはずだが最近期間限定で復活した二人組グループだ。
素人目に聴いてみてもギターの腕は良く、歌もよく通っていて、そして透き通っていた印象を受けただというのにも彼女の周りは俺以外に立ち止まって聞く人の姿が見えない、立ち止まっても数分も立ち止まらずにすぐさまその場を離れ人波の一部になる。
そういう状況が繰り返されて俺もふと時計に目を落とす。
時計の針は、終電一五分前を指していた、出社した時は時間的にまだまだ余裕があったと思ったのだがどうやらかなり聴き入ってしまっていたようだ。
俺は、おひねりを投げ入れようと小銭入れを取り出してギターケースに目をやるとそのギターケースは、綺麗に手入れがされていて、ホコリ一つ無かった。
俺は、気が変わり、普通の財布から既に絶滅危惧種になりつつある二千円札を抜き取る、そして名刺とサインペンを取り出すと、名刺の裏に弾き語りの感想を一文したためるとギーターケースに入れると風に飛ばされそうになびいたので小銭入れから五百円玉を取り出してそれを重しにして風に飛ばされないことを確認すると軽く手を上げると、その頃には終電十分前になっていたので俺は駆け足でその場を去った。
翌日目を覚ますと、めざましがなる前だというのに携帯が点滅していた、メールを確認をすると一通のメールが届いていた。
「羽鷺豊さん、昨日は寒い中長時間に渡り歌を聴いていただいてありがとうございました。今日もおそらく夜の八時~一時半ぐらいまで昨日の同じ場所で歌っているのでもしよろしければ足を運んでください。
追伸、うさぎさんみたいな可愛い名前ですね
Miyuki.」
俺は、ふと昨日メモ変わりに名刺を入れた事を思い出した。
「名刺のメールアドレスを辿ってきたのか……」
自然と笑みが溢れていた、メールに返信をすると俺は少し早いが仕事場へ向かう。