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エピローグ

 薄暗い部屋に、仄かな明かり。

 そこは、学校内に建造された生徒達も教師も知らない、選ばれた人間のみが知ることを許された場所。

 そこに、その選ばれた人間はいた。

 そいつは、室内に6つを上下二段に配置されたモニタを覗き込んでいた。

 モニタは、学校内の映像をリアルタイムで映している。

 もちろん、対戦の様子も。

 学校内の各所に設置された、ソーシャルカメラによってそれらは撮影されている。

 しかし、そいつが見ているのは過去の映像。

右上のモニタに映し出されるのは、先週の対戦の映像。

 漆黒の鎌を操る少女と、バットを操る少年が映し出され戦っている様子。

 この試合は、“噂”を流す為に仕組んだものだった。

 バットの男の方はなかなかの有名人であり、そのおかげで、噂の信憑度を高めるのに一役買ってくれた。

 しかし、この試合の際、少女の方に気付かれたかもしれなかったが、大した被害もなかったので良かった。

 隣のモニタには、少女が監禁された際の映像。

 この学校の元生徒会長が確実な勝利の為に人質を取った時のものだ。

 生徒会長の男が、『奴』に対し、因縁があったのは知っていたがまさかここまでするとは思っていなかった。生徒会長は、ルールの穴をついた戦術に気付いた迄は良かった(というか、意図的にルールを簡易なものにした)のだが、流石に、やり過ぎた。

 ルールの範疇から超えた非人道的な行い。それは監督者たる自分の目から見て不適切だった。故に自ら少女を助けた。一種のペナルティの様なものだ。

 結果的に、奴は負けてしまったが、『奴』をこのゲームに参加させる一つの要因にまでなってくれたのは大きな成果だった。感謝をしてもいいぐらいに。

 まあ、生徒会長をこのゲームに招き入れたのは自分なのだが、とそいつは苦笑交じりに頬を歪ませる。

 いや、生徒会長だけではない。参加者のほとんどがそいつの手により裏生徒会へと参加させられている。それは、直接ではなく、ごく間接的に、あくまで自己責任と言う体を装って。

 無論、『PA』の中に裏生徒会のファイルが入っているのもそいつが行っていることだ。

 どんな手を使っても、目的の為に手段は選ばない。それがそいつのやり方だった。

 そして、左上の映像。これが、最も重要な映像だった。

 映しだされるのは、ゴーレムを使役する生徒会長の男と、それに向かっていく「ヤツ」の映像だ。

 『奴』の戦いは圧倒的と言っても良い内容だった。

 序盤こそ、このゲームに対し慣れていなかったようだが、即座にこのゲームを理解すると、一瞬のうちにして勝ってしまった。

 あの堂々とした立ち居振る舞い、まさにあの頃と変わり無き様だった。

 そいつは意地の悪い笑みを浮かばせる。自分の手にした成果に満足するように。

 この映像を見る為に、全て仕組んだのだ。

 噂を流し、『奴』にこのゲームの存在を知らせ、このゲームのデータを『奴』の『PA』へと自身の持つアクセス権限を使って送り込む。『奴』は当然このゲームに参加するだろう。何も知らずに。

 全て、全て計画通り。しかし、それは今のところの話だが。

 これは、始まりに過ぎない。壮大なプランの為の。

 去年は後一歩のところで失敗した。だが、次は成功させる。

 今度こそ、今度こそ。

 そいつは――中村宏平は意地悪く笑い、呟いた。

「さあ、次のゲームへ行こうか須藤?」



 月が綺麗な夜だった。

 月の光が、窓から校舎の方へと差し込み、さながらスポットライトのように照らしていた。

 その月光のスポットライトは何も映さない。

 月光が照らす校舎にはもう誰もいない。


      ●


 それは突然の事だった。

「ハイッ、真斗君。あ~ん」

「あ、あ~ん」

 二人は今、文芸部の部室で昼食に興じていた。

 秋葉が購買に向かおうとしていた真斗に弁当箱を突きつけ、教室のみんな(特に男ども)に殺意の眼差しを向けられたのはつい先刻。

 中には「やっとヨリ戻ったのか~」と胸を撫で下ろす女生徒が見受けられた事から、二人が付き合っていたという事実は公然のモノとしてあったらしい。

 そんな眼差しに耐えかね、真斗は逃げるようにしてここ、文芸部部室へと足を運んだのである。

 実を言えば、それは朝から既に似たような光景が展開されていた。

 家を出ようとした時既に、秋葉が家の前に居たり、学校へ向かう道中腕を絡ませスキンシップを図って来たり(当然これも視線が集中していた)と、かなり精神的に真斗は参っていた。

 だがこれは、今まで我慢してきた反動と言えば仕方ないのかもしれない。

 苦しい思いをしてきた一年。それに耐え、一人で戦い続けて来た秋葉を誰が責める事が出来るだろうか。

 だから、暫くの間は秋葉の好きにさせてもいいだろうと真斗は思った。これも惚れてしまった者の弱みという奴かもしれないな、と心中で苦笑を溢す。

 だが、

(命が、持てばいいなぁ……)

 と、人生がいつ終わるかもしれないという恐怖に打ち勝つ必要が出てきていたが。

 ともかく。今は秋葉が箸で摘まみあげた美味しそうなハンバーグを片付ける事が最優先だ。

 真斗は大きな口を開けて、そのハンバーグにかぶり付いた。

 その美味しいハンバーグに思わず口が綻び、それを見て秋葉も微笑んだ。

 二人の時間。それはゆっくりと流れていく。

 二度と失ってはいけない時間がそこにはある。

『裏生徒会』というゲームに引き裂かれた二人の時間は、再び『裏生徒会』によって結びつく。

 だけど、これ以上自分達の様な悲しい思いをする人を増やす訳にはいかない。

 だから戦い続ける。傍らの守りたい人と共に。

 その為にも、この大切な時間を精一杯楽しむのだ。

「……秋葉」

「なぁに?」

 幸せそうな笑みを浮かべる彼女と、

「……なんでもない」

「ふふっ。変な真斗君」

 二人で。


 この日、一人しかいなかった文芸部に部員が増えた。

 それは、笑顔の素敵な一人の少女だった。


 これで終了です。ありがとうございました。 

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