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十一話

 暫くの静寂の後、秋葉は真剣な表情を浮かべると、

「全部話すから、最後に私に付いてきて」

 と言って、歩き出した。

 そのどこか鬼気迫る表情に、真斗は口を挟むことなくただ、付いて行く事しか出来なかった。

 そして秋葉に連れられて真斗達が着いた先は、

「……小学校――?」

 真斗が幼少期を過ごした、小学校だった。

 外観は、多少の古臭さが目立つものの、ほぼ、以前と変わっておらず、昔の様相そのままだった。

 校門は、休日と言うこともあり柵がかかっていたが、秋葉は、スカートを翻し、それを勢いよく飛び越えた。

 フワリと浮かぶ少女に見とれること数秒。振り返った秋葉が真斗を促す。

「真斗君も早くこっち来て」

「不法侵入だぜ?」

「でも、ドキドキするでしょ?」

 真斗は肩を竦め、苦笑いして返し、

「違いない」

 柵を飛び越えた。

 無事に着地した真斗を確認した秋葉は「こっち」と言って歩き始めた。

 正面玄関を目指すのかと思いきや中ほどで進路変更、駐車場を抜けてグラウンドを目指した。

(グラウンド……?)

 何故、グラウンドなのだろうか? いやそもそも小学校に来た理由とは何だろうか。

 真斗にとっては、この小学校は大切な思い出の詰まった場所に違いないが、その中に秋葉はいただろうか? しかし、その事を思い出そうとすると靄が掛かった様に真っ白な光景が広がり、映像が映される事は無い。

 グラウンドに足を踏み入れた二人。

 靴底に感じる赤茶色の独特な粘土質の感触のグラウンドに、懐かしさを感じる真斗。

 周りを見回せば、中央にはサッカーゴール。その右端には、走り幅跳びの砂場と踏切。

 当時は、大きく感じた築山。

 みんなで取りあった遊具の数々。

 そのどれもが変わらず、以前のままそこにあった。

 その場に立ち尽くし、懐かしさに浸る真斗に微笑みを向ける秋葉。

 秋葉も、真斗と同じ気持ちを持ってこの場にいた。

 秋葉は先行して真斗の前を行く。

 真斗はそれを駆け足で追い付き、隣に並ぶ。

「座ろ?」

 秋葉はブランコを指さし言う。

 ブランコは、当時のようにペンキが剥げておらず、水色の真新しいペンキで上塗りされていた。鎖も錆びのようなものは見受けられず、新しいものに交換されているようだった。

 秋葉は先に座る。ただ座るだけなのにどこか気品のようなものを真斗は感じた。

 真斗も隣に座る。不安定な座席に、この感覚を味わったのは何年振りだろうと思いを巡らす。

 校舎側にあるブランコからは、築山の緑が見える。

 昔はあそこで草を結び合わせて秘密基地を作ったっけ、と幼少時代の思い出を蘇らせる。

 ふと、隣の秋葉を見る。少し気温が下がってきたせいもあってか頬は赤く紅潮していた。

「――!」

 秋葉と目が合った。

 突然の事で、真斗は気まずさを覚え、視線を逸らそうとするが、秋葉の眼差しにそれは敵わなかった。

「真斗君――」

 秋葉が、口を開いた。

「今日はありがとう。すっごく楽しかったよ」

 秋葉は頬の紅潮を強めて、満面の笑みで言った。

 真斗も、反射的に笑って返す。こちらも満面の笑みで。

「ああ、俺もだよ。凄く楽しかった。ありがとう秋葉」

 ふふっと笑って、

「でもね――」

 秋葉は、一転して声のトーンを落とし、

「もう私たちがこうしてデートしたりすることはないと思う」

 言った。それは、拒絶の言葉。どこまでも冷たく、突き放そうと真斗に放つ。

 真斗はその言葉に声を荒げることはない。何故なら、秋葉がそういうことを言うには必ず理由があり、それを聞くまでは自分は何も言うまいと判断したからだ。

 秋葉はそれを真斗の表情から読み取り、言葉を続ける。

「今から話すことは、私が真斗君に隠してきた事全部。きっとそれを聞き終えたら真斗君は絶対に私を許せなくなるだろうから、あらかじめ言っておくね、もう会わないって。だから、最後にこんな楽しいことが出来て、幸せだった」

 真斗は何も言わない。ただ清聴している。その方が秋葉にとっても喋りやすいだろうと思ったからだ。

 秋葉は、ブランコから立ち上がり、一拍置いて心に整理をつける。

 そして、再度決める。話す覚悟を。

 秋葉は、真剣な面持ちで話し始めた。

「まず、これは薄々気付いている事だと思うけど、真斗君は以前裏生徒会に参加していたの。そして私と、中村君も」

 これは秋葉が白石との対戦の時に言ったことだ。既に明かされた情報を再確認している段階では別に驚くようなことはない。

 秋葉はそんな真斗を見て、畳み掛けるように言う。

「私たちは、裏生徒会をクリア寸前のところまで勝ちあがった。……人の大切なモノを奪いながらね……。でも、私達は負けたわ」

 秋葉は辛そうに眼を伏せる。

 しかし、なんとかそれに耐える様に、言葉を続ける。

「裏生徒会は、選挙戦を終えると本戦――つまり他校との対校戦になるの。そこで勝ち残った学校が最終的に勝者となり、『どんなモノでも手に入れる権利を有する』。

 本線のルールは試合ごとに変わる。その時の対戦は、バトルロワイヤル形式で行われたの。最後に勝ち残った学校が勝利するというルールでね。そして……私達は負けたわ。

 それは私のミスによって起こったの。一瞬、私が気を抜いた時に……ね。真斗君はその時に私を庇おうとして、でも間に合わなくて……。

 中村君はどうなったのか分からないけど、彼もあの時のことはあまり語ろうとしないからきっと負けたんだと思う。

 そして、敗者に等しく訪れるペナルティは私達も受けた。いえ、私達じゃないね、だって真斗君は私の分のペナルティも受けたのだから」

「それってどういうことだ?」

 真斗も流石にこれは黙っているわけにはいかなかった。

 しかし、余計なことは言えない。自分は何も知らないのだから。

 秋葉は答える。

「真斗君自身が受けたペナルティは、たぶん裏生徒会についての記憶。真斗君はこのゲームの事をすごく気に入っていたからね。大切なモノの一つになっていても可笑しくないかもしれない。そして……私自身のペナルティは、真斗君が私の事を忘れてしまうこと」

 真斗は絶句した。

(そんな……、俺は秋葉のことを知ったのは高校が初めての筈じゃなかったのか?)

 しかし、真斗が秋葉のことを思い出そうとすると靄が掛かって見えなくなる。この現象がもし、裏生徒会がもたらしたのだとしたら? 

 真斗は自分が考えている事が物凄く恐ろしいことの様に思えた。

 確かに、思い返してみれば、秋葉についての記憶と言えばごく最近のことを除けば、二年の頭にすれ違ったことぐらいしか記憶にない。

 これは絶対にあり得ないことなのだ。秋葉ほどの美少女なら、高校入学した当初から話題にならない筈が無いのだから。

 だが、秋葉の言うペナルティの持つ恐ろしさや、苦しさや悲しみは真斗が想像するよりも遥かに大きかった。

「私にとって大切なモノはいっぱいあるよ。お父さんやお母さん、それに友達のみんな……。でもそれよりももっと大切なのは真斗君なの。裏生徒会は、私に大きな穴を開けてしまったんだ。真斗君っていう穴を、ね」

 秋葉は一拍置いて、辛そうに眼を伏せる。しかし、数秒深呼吸しやがて決意を固め、伏せていた眼を開け言った。

「真斗君は忘れてしまったけれど、私達、本当は恋人同士だったんだよ?」

「え……!?」

 悲しそうな、今にも泣き出しそうな表情で言う秋葉。

 真斗も、そんな秋葉が発した言葉の意味を全力で理解しようとした。

(秋葉と俺が恋人同士――!? でも、それが本当なのだとしたら、俺はそんな秋葉のことをずっと忘れていたっていうのか? だとしたら秋葉の抱える苦しみは……)

 次々に押し寄せてくる想像の波が真斗を押し潰そうとしてくる。

 しかし、これで納得が言ったのは確かだった。

 秋葉が、真斗と話している時に浮かべていた表情。それは、自分の事を忘れてしまった恋人にその事を言い出せない辛さの表れだったのだ。

(俺は、秋葉を傷付け続けていたのか……)

 呆然とする真斗に、秋葉は言葉を放つ。

「真斗君は悪くないんだよ? 全部私がいけないんだから。私のミスで真斗君はそれを庇って、なのに、私の分のペナルティまで……。

 でも私は、諦めなかった。真斗君が私のことを忘れてしまったのなら、裏生徒会でもう一度取り戻せばいいって。会いたい気持ちを必死に抑えて、裏生徒会選挙が始まるこの時期をずっと待った。真斗君の記憶を取り戻して前みたいに戻ろうって。

 私、本当は汚いんだよ? 自分の事しか考えてない。だから、真斗君に会っていい資格なんかないの。

 でもね、身体が言うことを聞かないんだ。我慢すればするほど、会いたい、話したいって真斗君を求めている。この前、部室の扉の前に立った時、この扉の向こうに真斗君がいるって思った瞬間、すぐに扉を開けちゃってた。

 笑っちゃうよね。私の決意はそんなものだったのかって。

 そして、もう一度真斗君とこうして笑って話せるようになって、デートまで出来たんだもの。もう十分すぎるくらいだよ。

 恋人同士でもないのにこんなことして、真斗君は、私の事好きだった気持ちも消えちゃったんだから。あるのは私の自己満足だけなのにね。

 だからこのままじゃいけないの。言いわなくちゃいけない。ごめんねって。もう私のことは忘れてって」

 真斗は俯き黙っている。

「だから、私は次の対戦で負けるつもりだよ。それで何かを失ったとしても、たぶん真斗君には影響が無い筈だから。それが私の覚悟。責任の取り方だよ」

 秋葉の眼に迷いは無い。覚悟を決め、前に進もうとする眼。

 その眼で、真斗を見る。

 真斗は拳を強く握り、口を横一文字に固く引き結んでいる。

(怒ってるのも無理ないよね……)

 でも、それでいいのだと秋葉は思う。自分のことを嫌いになって離れてくれればそれでいい。もう、こんな幸せを味わう事が出来たのだから。これ以上のことを望んではいけないのだ。

「だから、真斗君、私――」

「秋葉」

 真斗は、秋葉の言葉を遮った。真斗の声には怒気が籠もっているようにも聞こえる。

 しかし、真斗が発した言葉は思いもよらないことだった。

「俺は、今怒ってる」

「……うん」

「――でもそれは、俺自身に、だ」

「え……!?」

 秋葉は俯いていた顔を上げ、真斗を見た。

 真斗は立ち上がり、

「なんで、気付いてやれなかったんだって。こんなにも秋葉が悩んでいるのに、苦しんでいるのに」

 息を吸い直して秋葉の眼を見つめる。ただ真っ直ぐに。

 秋葉は黙っている。何を言われようと揺るがないと決めていた筈の覚悟は、その眼に綻びを見せ始める。

「秋葉、お前はもうそのことで悩まなくていいんだよ。俺は秋葉の事は――秋葉と過ごしてきた年月の大半は全然覚えていないけれど――でもきっと、俺達はずっと一緒だったんだろうなって分かるんだ」

「え……!?」

「白石との対戦の時にさ、覚えてたんだよ。頭の中では全く分からないのに体が覚えてた。秋葉と一緒に駆け抜けた時間、交わした視線を。だから、即興のアイコンタクトでお互いの考えてる事が分かったんじゃないかな」

 確かにそうだったと秋葉は思い出す。視線を交わしただけでお互いの思いが通じた。それは以前と変わりなく、あまりに自然の出来事で秋葉は失念していたのだ。

「今までの秋葉のことは覚えていなくても、この一週間、秋葉と過ごして、俺は秋葉がどういう女の子なのか少しは分かったと思うよ。色々な、初めての体験を秋葉からもらったよ。それは、昔の俺がすでに体験してることかもしれない。

 だからって、もう一度それを体験しちゃいけないってわけじゃないだろう? 二度目の初めてがあったっていいんだ。 

 だからこれからも知っていきたいんだ、秋葉のこと。俺の知らないこと全部を。俺が忘れてしまった秋葉のことも、これからの秋葉のことも全部。

 だから、俺の側にいてくれよ。ずっと近くで、ずっと一緒にいてくれよ。今までそうだったように」

 真斗は、優しく言葉を放ち続ける。目の前の一人の女の子に届かせるように。

 秋葉は、口元を両手で押さえ、目尻からは涙が――心の奔流が滝のように溢れる。

「……私、真斗君のことが好きだよ」

 秋葉は一歩近づき、ぽつりと呟いた。

「俺も好きだ。部室で話した時、あの瞬間……いや、最初から俺は秋葉の事を好きになっていたんだ」

 真斗も一歩踏み出した。

「一緒に……ずっと一緒に居たいよぉ……!!」

 秋葉は腕を広げ、先ほどよりも大きな声で言った。

「……ああ」

 真斗は抱きしめた。秋葉を抱きしめてあげることの出来なかった分の時間を取り戻すように。

 強く、決して離してしまわぬように。

 二人は視線を交わすこと数秒、お互いの唇を近付け重ね合わせた。互いの熱を感じながら、思考はどこまでも透き通っていった。

 空は夕焼けに染まり、どこまでも広く、どこまでも続いていた。あの日の、二人の少年と少女が時間を忘れて遊んだあの日のように。


      ●


 二人は、ブランコに座り直して、その夕焼けを眺めていた。

 お互いの手を絡ませながら、お互いがそこにいるのだと確かめるように。

 秋葉が口を開く。もう何もない、ただ自然体の秋葉がその透き通った声を響かせる。

「真斗君はよく、私に色々お話を読んでくれたんだ。最初に読んだのは小学校の5年生の時だったかな」

「そっか。俺の部屋のあのノートは全部秋葉の為に書いていた物だったんだな」

 真斗は誰の為に書いていたか分からなかったノートの正体を知って、記憶のピースがカッチリ嵌まったのを感じた。

 あのノートが無ければ自分は白石に勝利する事は出来なかっただろう。

 そして、あのノートは秋葉に書いていた物だったのだ。自分の作品の一番の読者が、好きな人だったことに真斗は嬉しく思った。

「うん。いつも楽しみにしてた。どんなストーリーなのかなって。真斗君、まだ残してたんだね」

「ああ。なんか、捨てるに捨てられなくて残してたんだ」

「良かったら、また読ませてくれないかな?」

 覗き込むように真斗に尋ねる秋葉。

 真斗の答えは当然、

「もちろん良いに決まってるだろ。今度家に来きてくれよ」

 イエスだった。

 秋葉は、フフッと笑って、

「分かった。今度お邪魔させてもらうね。そういえば、真斗君の家に行ったことって、まだ無かったかも」

「本当に? 早速一つ見つかったな。俺たちの初めて」

 秋葉はうん、と頷いた。これから二人は色々な初めての体験を二人で共有しようと決めたのだ。それが早速見つかったことに嬉しく思う。

「じゃあ、私の家にも来てよ。お父さんとお母さんに真斗君を紹介したいから」

 秋葉にとっては何気なく言った一言なのだが、真斗の反応は予想していたのとは違った。

「え……? それってまさか、娘さんを僕に下さいってやつ? いきなりハードル高くないか、それ?」

 真斗は眼を泳がせて焦る。

 思いもよらぬリアクションに同じ様に焦りを見せる秋葉。

「ち、違うよ! もっと軽い、フランクな感じのやつだよ!? ……いつかはそういう風なこともあるかもしれないけど……」

 明らかに動揺し、顔を赤らめる秋葉。そして、チラッと横目で真斗を見た。

 秋葉が最後にぼそっと言った言葉が聞こえていたのかいないのか分からないが、真斗は妙に真剣な表情を作ると、

「そうだよな。でも、第一印象は大切だからな。しっかりしないと……」

 とブツブツ呟いていた。

 そんな真斗に、クスっと笑いが込み上げてきた。

 こんな自然に笑うことが出来るのはいつ以来だろうか。

何も隠すことがない、その必要がない事がこんなにも心を晴れやかにするものだとは秋葉は思いもしなかった。

「ねえ、真斗君」

 秋葉は、未だにブツブツ言っている真斗を現実に引き戻すべく話題を変える。

「実はね、今日のデートで行った場所って、私達の初デートの場所と一緒なんだよ?」

「本当か!?」

 一瞬にして現実へと戻り、眼を丸くする真斗。

「うん。真斗君、初デートだからって張り切り過ぎて一時間も前に来てたんだよ?」

 そんなに待たなくてもいいのにね、と秋葉は言う。

 真斗は驚いた。

「流石俺だな……初デートの行動が全く一緒だ……」

「でもちゃんとデートプランは考えてきてくれてたんだよね~」

 と、笑顔でぐさりと来ることを言う秋葉。悪気はないのだろうが……

「昔の自分と比較されるのは、元カレと比べられるみたいでなんか嫌だな……」

 と、ひっそり肩を落とす真斗に首を傾げる秋葉は、自分がもたらした結果に気付いていない。

「でもね、それが嬉しかったんだ」

 秋葉は眼を細め、真斗の眼を真っ直ぐに覗く。

 微笑み、言った。

「真斗君は、私との思い出を忘れてしまったけど、真斗君はいつだってこうして、変わらず私を待っててくれるんだ、私と一緒にいてくれるんだ、って。記憶はその人を形成する物だけれど、本質は記憶にでどうこうなるわけじゃない。真斗君はいつだって、私にとってヒーローなんだよ?」

 そう、あの時だって、自分を守ってくれたのだ。

 手を、差し伸べてくれたのだ。

 だから今度こそ、

「私は真斗君を守るよ。もう、一人で戦うことはしない。だから……」

 真斗に掌を差し伸べる。

「ずっと……私の傍にいてください」

 言った。

 それは、少女が、胸に秘めた想いの全てだった。

 少女は、一年前に、自分の過ちによって大切な人を失い、自分はその人の前から姿を消した。

 それから一人戦い続けた。大切な者を取り戻すために。

 それは、自分勝手なものだった。

 他人の想いなど関係なしに、ひどく自分勝手な、そういった想い。

 少女は、少年によって救われ、一人ではなくなった。

 しかし、再び少女は孤独に身を投じた。自らの足で、そこに踏み込んだ。

 だが、それは、今日終わったのだ。

 少年がそうしてくれたように、今度は自らの手を、差し伸べた。

 対する目の前の少年は、頷いた。

「ああ、約束するよ。ずっと、秋葉の傍にいる。もうお前にそんな悲しい顔はさせない」

 そして、覚悟を決めた。

「俺は、裏生徒会を終わらせる。そして、このゲームを企んだ奴をぶん殴る。秋葉が悲しい思いをしたのも、たくさんのその人にとっての大切なモノが失われたのも、あのゲームがあったからだ。俺はそんな戦いを終わらせる。だから――」

 負ければ大切なモノを失う、そんなリスクを伴うゲーム『裏生徒会』。

 人々はそこに希望――どんな願い事でも叶う――を求めて参加する。

 それで発生するリスクは、自己責任に見えるかもしれない。

 でも、そんなことはない。

 このゲームを作り、人を集め、戦わせる。そんなことを企んだ人間が見えない所にいるのだ。遥か高く、手の届かないところで。

 そいつを許すことを真斗には出来ない。

 白石の手紙を読んでその意志は盤石のものとなった。

 しかし、一人ではそれは不可能だ。

 自分一人の――真斗一人の、矮小な力では何も掴めない。

 だが、眼の前の少女は言った。

 自分を守ると。

 だからもう、怖くない。

「一緒に戦おう」

 眼の前の少女を守ろう。

 真斗は差し出された秋葉の手を取った。

「うん」

 秋葉は真斗の問いに頷いた。

 そして、お互いの手は繋がれた。

 それはお互いの心を繋ぐ、絆のようなものだった。

 手は離れても、お互いの心は離れることなく傍らにあり続ける。

 そんな、誓いにも似た握手。

 少女は大切なものを失い、しかしもう一度掴み取った。

 少年は本当のことを知り、そして決意し立ち上がった。

 そんな、寂しがり屋な少女と、お節介焼きな少年の戦いは、今、始まったのだった。

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