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ラブレターを代筆したら、俺に返事が届いた。

作者: くるみや
掲載日:2026/08/30

 俺は有馬雄也(ありまゆうや)。十六歳。普通の高校一年生だ。


 勉強も運動も顔も、何をとっても平均。突出して出来ることも苦手なことも無い。


 そんな平凡な俺だが、俺の周りには平凡じゃない奴がいる。


「ウェーイ!おはようゆうや!」


 朝から元気なコイツは朝霧太陽(あさぎりたいよう)。世界一の陽キャと言っても過言ではないくらい明るくてコミュ力のある奴だ。


 俺と太陽は親友である。きっかけは簡単。入学初日に太陽が後ろの席の俺に話しかけてきたからだ。


「あさぎり」と「ありま」だからな。


 太陽の明るさに気圧されながらも話していくと、共通の趣味である音楽の話になり意気投合した。


 お互い帰宅部であったこともあり、二人で何度か遊ぶうちに親友となった。


「おはようさん。朝だってのに元気だな」

「朝から姫を拝めればみんな元気になるって」


 太陽は小声でそう言う。


「姫」と呼んだのは俺の隣の席に座っている姫川(ひめかわ)星奈(せな)


 学校一の美少女であり、その美貌と苗字から、男女問わず「姫」と呼ばれている。


 そんな姫川さんと、席替えで偶然隣の席になった。


 太陽はとても羨ましがっていた。


 なぜなら、太陽は姫川さんのことが好きだからである。


 姫川さんに熱を上げる男子生徒は多い。太陽もそのうちの一人だ。


「姫川さんもおはよう!」

「おはようございます。朝霧君」

「今日はいい天気だね!」

「そうですね。心地の良い天気です。」

「うん!」


 俺の席へ来ると、毎回姫川さんへ話しかけている。


 だが、会話はあまり上手く続いてはいない。


 誰にでも明るくて気さくに話す太陽だが、こと恋愛になると奥手になってしまう。


 いや、普通に話しかけてるじゃんと思うだろうが、普段の太陽はこんなものではない。


 天気の話で終わりなんてことは、俺が太陽と会話した記憶の中に一度たりとも無い。俺や他の人と話しているところを見ても、マシンガントークを繰り広げている。


 しかし姫川さんと話す時だけは、語彙力が低下しているかのように全く会話が弾んでいない。まあ実際低下してるかもな。


 彼の恋路はどうなることやら。俺は陰ながら応援しているぞ。


 ***


「なあ雄也よ。今日の放課後の委員会の後、ちょっと時間くれないか」


 太陽から唐突にそう言われる。


 太陽のいう委員会とは、彼が所属している図書委員会のことである。


 放課後の一時間ほど、図書室の掃除や整理整頓、司書さんの手伝いなどの仕事をする。


「分かった。図書室で本でも読みながら待ってるわ」

「ありがとう親友よ」


 ちょうど読みたかった本もあるし、一時間くらい待ってやろう。


 ***


 放課後、俺と太陽は一緒に図書室へと向かう。


「失礼しまーす」

「失礼します」

「どうぞー」

「今日もよろしく。姫川さん」

「よろしく。委員の仕事頑張りましょうね」

「もちろん!」


 太陽がなぜ図書委員会に入っているのか。答えは単純明快。姫川さんも図書委員会だからだ。


 姫川さんと二人きり(?)で話せたり仕事をしたり出来る特別なチャンスである図書委員会。


 太陽にとって姫川さんと仲良くなる絶好の場であるが、その距離は依然として縮まらない。


「じゃあ後でな、雄也」

「はーい」


 彼らの様子がしっかり見える席に座り、チラチラ観察しながら待つとしよう。


 ***


「それじゃあお疲れ様。また明日」

「おつかれさま!またあしたー!」

「ここは図書室だから、声のボリュームはもう少し落としてね」

「あっ、すみません」


 姫川さんと一緒に過ごせてつい舞い上がってしまったようだ。


「待たせたな」

「お前と姫川さんの様子を見てたらすぐだったよ」

「なっ、あんまり見てんなよ」

「はいはい」


 太陽は姫川さんへ別れを告げてすぐに俺の元へやってきた。


「それで?用件は一体何だね」

「…姫川さんに告白しようと思うんだ」

「ほう」


 驚くことではない。いつかそうすると思っていたからな。


「ラブレターを送ろうと思うんだ」

「ほう?」

「俺ってさ…姫川さんの前だと緊張しちゃって上手く話せないじゃん?だから、ラブレターに色々書いて伝えればいいんじゃなかなって」

「まあ太陽がやる気なら俺が止める理由は無いさ」

「そこでなんだが。雄也、お前の力を貸してほしい」

「なんだね」

「これを見てくれ」


 太陽は何枚か紙を渡してくる。


「これは…」

「ああ、ラブレターだ」

「そうだな。ラブレターだ」

「内容を一緒に考えてくれ!」


 ありえないような頼み事かもしれないが、内容を読めば頼らざるを得ないと分かった。


「良いけどよ…なんだこの壊滅的な文章は!」


 一部を抜粋しよう。


『私はあなたのフィアンセになりたいです』

『あなたを見ていると滝のように好きな気持ちがあふれて止まりません』

『俺が彦星で君は織姫。今はそんな距離感かもしれないけれど、一年に一度なんて言わず毎日同じ時間を過ごしたいんだ』


 どうしてこうも変なワードチョイスというか言い回しを選んでくるのだろうか。


「考えれば考えるほど、何を書いたら良いか分かんなくなっちまうんだよなあ」

「だからってこんな文はないだろ」

「もうこんなのしか思いつかなくて、だから雄也に助けを求めたい」

「しょうがねえな。貸しだからな」

「おうよ!」


 太陽は恋愛の言語化がとても苦手なようで、「どんなところが好きなのか」、「なぜ好きになったのか」などを聞いてもイマイチよく分からなかった。


 考えていくうちに本人もよく分からなくなってしまうようだ。


 それに、内容以外にも問題が発生した。


「いざ書こうとするとよ…緊張して手が震えちまうんだ…雄也よ…」

「まさか、『代わりに書いてくれ』なんて言わないよな?」

「そのまさかだ」

「はぁ…自分の手で書かないと想いは伝わらないぞ」

「いいんだよ。玉砕覚悟の告白だし。俺が言いたいだけなんだ。振られたって構わない」

「そうかよ」


 そんなに強い覚悟で告白する気だったのか。


 だからと言って俺に代筆させるのはどうかと思うが。本人がそれで良いのなら口出しはしないでおこう。


 ***


 基本は、俺が思う姫川さんの良い所、好きになりそうな所を挙げていき、太陽が「それだ!」ってなったものを選んで文章にしていった。


 容姿は勿論、分け隔てなく接しているところ、色々なところへ気を配れるところ、考え事をしている時の仕草、などなど。


 俺達は図書室が閉まる時間ギリギリになんとかラブレターを完成させた。


 書いたのほぼ俺だけどな。太陽の発言はまるで参考にならなかった。


「マジでありがとうな!雄也がいなかったらどんなことになっていたのやら…」

「『キモラブレター男』として学校中に名前を響かせてただろうな」

「考えるだけでゾッとするぜ」


 太陽は、姫川さんの下駄箱にラブレターを入れてお祈りをした。


「どうかよろしくお願いします!」

「付き合えなくてもいいんじゃなかったのかよ」

「最後の悪あがきさ。付き合えるに越したことないだろう?」

「そりゃそうか」


 明日の放課後、体育館裏というベタな場所に来るよう書いた。


 明日が楽しみだ。


 ***


 翌日、俺は普段と変わらず登校してくる。


 俺が席に着いても、太陽は話しかけに来ない。隣の姫川さんにさぞ緊張しているだろうからな。


 ラブレターを受け取ったはずの姫川さんは、特に変わった様子は無い。流石美少女、告白されるのは慣れているのだろうな。


 鬼が出るか蛇が出るか。放課後が楽しみだ。


 ***


「じゃあ隣の席の人に答案渡せー」


 今は現代文の授業中。今日は問題演習の日だ。


 解き終えたら隣の人と答案を交換して相互採点を行うのだ。


 俺は姫川さんと勿論交換する。自分の答えを他人、ましてや学校一番の美少女に見られるとなるとなんだか緊張が走る。


 俺は早々に採点を終え、姫川さんを待っている。姫川さんは満点だったから採点しやすかった。


「やっぱり…間違いないわね…」


 そう姫川さんは呟く。


 そんな訳はないだろう。俺の答案は間違いだらけだ。


 いや、自分の答案の話だろう。


「待たせてごめんなさいね。はいどうぞ」

「全然大丈夫だよ」

「時に有馬君、今日の放課後空いているかしら?」


 んん?放課後は太陽の決死の告白を見守るという予定があるのだが、その告白相手からそんなことを聞かれるなんて。


「ん~行くところがあるからそれが終わった後なら」

「放課後すぐで良いの、私も行くところがあるから。少しでいいの。ダメかな?」

「分かったよ」

「ありがとう。校舎裏で待ってるから」


 こうも美少女にねだられてしまうと断れない。


 一体何が起きるのやら。


 太陽には何も言わないでおこう。面倒なことになりかねないからな。


 ***


「来てくれてありがとう。有馬君」

「ああ。それで俺に一体何の用が?」

「これを見て欲しいの」


 姫川さんは一枚の紙を渡してくる。


 それは俺と太陽で作り上げたラブレターだ。


 しかし、ここでは知らないふりをする。あくまでも太陽から姫川さんへのラブレターだからな。


「これは…ラブレター?」

「そう。朝霧君から私宛へのね」

「これがどうかしたの?」

「…本当に朝霧君が書いたものでしょうか?」


 まさか俺が書いたってバレているのか?はたまた勘か?


「というと?」

「文章がどことなく朝霧君っぽくないんですよ。普段のおちゃらけた雰囲気ではなく、ずいぶん硬く慎重な言葉選びをしているように見えます」

「そうかな?告白ってなったら誰でも硬い文章になると思うけどな」


 物凄い洞察力だ。俺と太陽が二時間近くかけて丁寧に作り上げたんだ。慎重にもなる。


「そして…ここからが本題なのだけれど」

「うん」

「このラブレター、有馬君が書いたものでしょう?」


 何故分かったんだ。ハッタリか?鎌を掛けられているのか?


「どうしてそう思うの?」

「筆跡よ。どこか見覚えのある字だと思ってね。今日の現代文の授業の時じっくり確認したらピンと来たの。ラブレターの字と一緒だってね」


 筆跡でバレたのか…あの時の発言って「ラブレターは有馬雄也が書いたで間違いない」っていう意味か!


「…そうだよ。そのラブレターは俺が書いた」

「じゃあ有馬君は私のことが…」

「それは違う。俺は太陽に頼まれて代わりに書いたんだ」


 姫川さんにすべて話した。


 太陽が姫川さんのことを好きだということ。ラブレターに何を書いたらよいか分からず俺に相談したこと。手が震えてラブレターが書けなかったこと。俺が太陽の代わりに書いたこと。


「なるほど…」

「太陽は冷やかしじゃない。真剣なんだ。真剣に向き合ったからこそ俺に相談してきたし、俺も一緒に真剣に向き合った」

「事情は分かったわ。とりあえず朝霧君のところへ行くからまた後で話しましょう。はい、これ私の連絡先」


 流れるまま姫川さんと連絡先を交換した。


「太陽を…振るのか?」

「お返事は先延ばしにします」

「そうか…」


 姫川さんは校舎裏を後にし、太陽のところへ向かった。


 ***


 太陽から『まだワンチャンあるかも!』とメッセージが届いた。


 姫川さんは本当に返事を先延ばしにしたのだろう。


 ということは、太陽はまだ代筆がバレていないと思っているのだろう。


 なら、不必要にベラベラ話す必要は無い。ややこしいとになりかねないからな。


 今は姫川さんの動向に注目すべきだ。


 そう思った矢先、姫川さんから一件のメッセージが届く。


『あのラブレターの言葉、全部有馬君が選んだの?』

『アイデア出しは全部俺がやった』

『有馬君も少しはああいう風に思っているということね』


 違うとも言えないから困る。


『どうだろうね』


 返信は無かった。


 ***


 翌日から姫川さんの俺への対応が一変した。


 まず、挨拶してくるようになった。


 俺が席に着くと「おはよう有馬君」と声を掛けてくる。


 帰る時は「また明日」と。


 授業中もよく話しかけてくるようになった。


 俺が悩んでいると、横から教えてくれた。


 宿題ちゃんとやった?とか、今日の小テスト難しかったね、とか。雑談をするようになった。


 極め付きはこのメッセージ。


『お昼、一緒に食べない?』


 一体どういうことだよ。何がどうして俺と食べようだなんて思うんだ。


『変な噂立てられたくないからやめとくよ』

『食べてくれるまで毎日聞くからね』

『ええ…』


 そこから毎日誘いの連絡が来る。隣の席から視線も感じる。


 これは俺が折れるまで本当にやるやつだな。


『一回だけだからな』

『ありがと。私が教室出ていくからバレないようについてきて』


 すると姫川さんは立ち上がり、教室を後にした。


 俺も静かに教室を出ていき、姫川さんを追いかけた。


 しばらく追いかけると、姫川さんは人けのない空き教室へ入っていった。


 ドアからちょこんと顔を出し「こっちこっち」と手招きされる。


「よくこんな場所知ってるね」

「まあね」


 普段の教室と机の配置が似ていたので、何となく自分の席と近い席に座る。


 姫川さんは隣に座ると思いきや、俺のひとつ前の席に座った。


「こっちの方が普段と違って新鮮」

「そうだね」


 そもそも、姫川さんと二人きりでお昼ご飯を食べるこの状況が、新鮮どころの騒ぎではないが。


「私ね、有馬君のことを知りたいの」


 いきなり何を言い出すか。


「自慢じゃないけど、よく告白されるの、私。理由を聞いてみるとみんな顔、顔、顔って。みんな私の顔目当て。」


 これは嫌味ではないのだろう。実際顔が良いのだから。


「でも、今回みたいなのは初めて。顔だけじゃなくて私のどこが良いか。私の行動や仕草まで含めて私をちゃんと見てくれている感じが伝わってくる素敵な文章だった」


 そこまで褒められると照れる。


「ラブレターの送り主は朝霧君だけど、書いたのは有馬君でしょう?」

「うん」

「ここまで私のことを見てくれる人であり、素敵な文章を書ける有馬君のことをもっと知りたい」

「そうか…」

「だから、これからも仲良くして欲しいの。ダメ?」

「…分かったよ。でも、人前であんまり絡まないでくれよな」

「うん!有馬君は優しいね」

「人並だよ」


 それから、ほとんど毎日姫川さんと一緒にお昼ご飯を食べるようになった。


 ***


 姫川さんは俺を尊重して、学校内ではお昼以外ほとんど絡んでこなくなった。


 代わりにメッセージでのやり取りが増えた。


 家に帰ってから寝るまで。ほとんどずっとやり取りしている。


 基本的に姫川さんが話題を振ってくる。


 趣味のカフェ巡りについて熱弁されたり、俺の趣味について尋ねてきたり、家族や勉強、マイブーム、軽い愚痴など多岐にわたる。


 それまで知らなかったこと姫川さんのことを沢山知った。


 そのうち、俺の方からもっと姫川さんについて知りたくなった。


 家では意外とだらけているとか、何もないところでコケるだとか。姫川さんの人間的な部分を知ることで、それまで遠い存在だった「姫」が、今では「普通の女の子」に見える。


 姫川さんは俺を「ゆうや君」と呼ぶようになった。「星奈」と呼ぶにはまだ気が重かった。


 ***


 太陽と一緒に帰っていたある日。唐突にこんなことを言われた。


「雄也、お前姫川さんのこと好きなのか?」


 以前の俺ならすぐに「違う」と言っていただろう。


 だが、今の俺は言いよどんでいた。


「もし、俺に気を使って本当のことを言わないんだったら、それは要らない配慮だ」


 見透かされている。俺は太陽が姫川さんのことを好きだと知っている。


 親友の好きな人を後から好きになった。太陽はもう告白しているのに今更俺が好きになるなんて、と思っていた。


「…好きだ。姫川さんのことが好きだ」

「そうかあ。姫は可愛いもんなあ」


 可愛いところだけじゃない。姫川星奈という人間を知れば知るほど、俺は好きになっていくんだ。


「遠慮せず告白したら良いさ。俺みたいに玉砕するかもしれないけどな」

「え?まだ保留してるんじゃ」

「昨日、ちゃんと振られた」


 姫川さんはそんなこと話していなかった。俺の知らないところで太陽を振っていた。


「最近姫川さんの話を振ってもどこか上の空って感じだよ、雄也」

「そうだったかもな」


 改めて、俺は姫川さんのことが好きだと理解した。


 そこからの行動は早かった。


 帰ってすぐにラブレターを書いた。


 俺と姫川さんを繋げたラブレター。これで想いを伝えるべきだと直感的に思った。


 翌日、朝早く学校へ行き、姫川さんの下駄箱へラブレターを入れた。


 ラブレターの最後には「今日の放課後、校舎裏で待ってるから」と書き綴った。


 ***


「やっほ、ゆうや君」


 校舎裏で待っているとすぐに姫川さんがやってきた。


「姫川さん」

「はいっ」

「好きです。付き合ってください」


 短く、簡潔にそう伝えた。


 姫川さんは笑顔で答えた。


「もちろん!」

「よかったぁ…」

「えへ。まさかゆうや君の方から告白されるなんて思わなかったよ!」

「やるときはやる男だよ」

「むう。私だってやる女だよ!ほら!」


 そういって一枚の手紙を渡してくる。


「これは…」

「ラブレター!今日の朝下駄箱に入れようと思ったら、ゆうや君もう来てたからびっくりしちゃったの!」

「そうだったんだね」

「張り切りすぎだよー」

「そうかもね」


 ラブレターを送ったら、俺に返事が届いた。

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