たった一度の悪ふざけ ~結婚式で神父にキスするドッキリをしたら、婚約者も登録者も全て失いました~
陽菜視点の短編小説です。
私の名前は陽菜。
私は今、祭壇の上に立っている。
白いウェディングドレスは胸元にレースが散り、スカートはふんわりと広がって床を流れている。メイクも髪も、今日だけは本当にプロに任せた。
自撮りとは違う、本物の美しさが鏡には映っていた。
隣には私がこれから神の前で愛を誓う蓮が立っていた。
「いよいよだな、陽菜」
黒いタキシードを着こなした蓮は、緊張した面持ちではあるけれど、私を和ませようとやわらかく微笑んでいた。
付き合って三年、チャンネル登録者五十万人を一緒に育てた私のパートナー。
顔立ちもよくて優しくて、ちょっと天然なところもあるけれど……私は心から蓮が好きだ。
蓮からのプロポーズ動画を配信してから数ヶ月……私達はついに結婚する。
「うん、しっかりやろうね?」
私達は希望を胸に式場へ足を踏み入れた。
すでに私達の両親も友人達も、私達の入場に拍手で迎えてくれた。
そして祭壇の脇では、三脚に固定されたカメラが赤いランプを灯している。
私達が育ててきた〈ひなれんチャンネル〉の結婚式ライブ配信。
私と蓮を応援してくれた五万人のファンも私達を見守ってくれている。
さっき見たコメント欄には「おめでとう」「ずっと応援してたよ」「泣いてる」の文字が雪崩のように流れていた。
みんな、私達の結婚を祝福してくれているんだ。
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神父が静かに語りかける。
「竹野蓮さん、あなたは山口陽菜さんを妻として迎え、愛し、慈しみ、いかなるときも共に歩むことを誓いますか?」
「はっはい? 誓います」
蓮の声は少し震えていた、緊張してるのかな?
動画の前ではもっと堂々としてたのに、なんか新鮮で可愛い。
「山口陽菜さん、あなたは竹野蓮さんを夫として迎え、愛し、慈しみ、いかなるときも共に歩むことを誓いますか?」
「はい……誓います」
自分でも驚くほど、すんなりと言葉が出た。
もう気持ちが固まっているからかな?
神父が微笑んで、一歩引く。
「では、誓いのキスを」
「はは、はい!」
蓮はまだ緊張してるみたい。
プルプルと震えている。
気持ちはわかるけど、誓いのキスなんだからいつもみたいに堂々してほしいなぁ。
仕方ない……ここは、蓮の奥さんである私の出番ね?
ここで私はひそかに温めていた、とっておきのサプライズをする決意を固めた。
結婚式をもっと盛り上げたい。ライブ配信のコメント欄を祝福コメントで埋め尽くしたい。
そしてもちろん、アーカイブ動画として後世に語り継がれるエポックメイキングな一本を作り上げたい。
そんな思いから、私は1人でちょっとしたドッキリを計画していたんだ。
「……」
「……」
蓮の唇に触れる直前、私はすっと横にいた神父の頬に唇を当てた。
チュッ。
「えっ?」
「は?」
コンマ数秒の沈黙。
蓮も神父さんもみんなも驚いているみたいね?
「てってれー! ドッキリ成功!!」
私は両手を広げ、会場に向かって満面の笑みを向けた。
”やってやった!”
そんな達成感が全身を満たしていた。これはバズる、絶対にバズる。
コメント欄が爆発するはずだ。
そして、爆笑の渦が巻き起こり、蓮の緊張もほぐせる!
そう確信していた。
『……』
しかし会場内はまるで葬式のようにシンと静まり返っていた。
ただただ、重く冷たい沈黙だけが場を支配していた。
「……」
神父は面食らった顔をして、一歩後ずさっている。
前列に座る私の両親は、母が口元を手で覆い、父は石のように固まっていた。
招待した友人達も、互いに気まずそうな視線を交わして、誰も口を開かなかった。
「なっなに? みんなどうしたの?」
何が起きたのかわからなかった。
もしかしてドッキリ滑った?
いや……そんなもんじゃない気がする。
「……ふざけるなっ!」
混乱する私に蓮が怒鳴り声を浴びせてくる。
その声は低く、しかし会場全体に届く声で、そう言った。
「れっ蓮?」
振り返ると、そこには青筋を浮かべ、歪みきった表情で私を睨む蓮がいた。
怒りというより、深く傷ついた人間の顔だった。
「え、何、怒ってるの? ドッキリだよ、ドッキリ。結婚式を盛り上げようと思って……」
「はぁ!? 盛り上げる?」
「だって、頬へのキスってヨーロッパとかじゃ挨拶みたいなものじゃない! そんな大げさに——」
「ここは日本だ! そもそも誓いのキスでこんな悪ふざけをする人間なんてお前だけだ!」
「そっそんなキレなくたって……」
「結婚式で……よりにもよって誓いのキスのタイミングで……その上、俺達のために来てくれた神父さんを、こんなくだらないドッキリのネタにしやがって!」
「……でも」
「お前は今、俺達の結婚式を汚したんだぞ!? わかってるのか!」
「汚したなんて大げさな……たかが頬へのキスくらいで……」
「ここにいるみんなの目を見ても、そんなこと言えるのかよ!」
蓮にそう言われ、私はふと会場にいるみんなに視線を向けた。
両親も友人達も……まるで汚いものでも見ているかのような目で私を見ていた。
「なっなによ、みんなまで……。
こんなちょっとしたドッキリで……」
「陽菜……お前は今、一番大切な瞬間をネタにした。俺の気持ちも、神父さんへの礼儀も、ここに来てくれたみんなや、見てくれてるファン達の気持ちを裏切ったんだ!」
「そっそんなつもりは……」
私はただ、ドッキリで結婚式を盛り上げようとしただけ!
本当にただそれだけなんだ!
「悪意がない方がよっぽどタチが悪いよ」
蓮はタキシードの胸元を拳で押さえ、怒りを静めるかのように一度深呼吸をした。
「こんな非常識な女とは、結婚できない。チャンネルも、続けられない」
「え……蓮?」
「結婚式はなかったことにする。もちろん、ひなれんチャンネルも解散だ」
彼はそれだけ言って、私に背を向けた。
私は慌てて、彼の腕を掴んだ。
「まっ待ってよ、蓮! もしかして、神父さんと浮気してるとか思ってるの?
違うから、本当にドッキリなの!」
それは本当だった。
私と神父さんの間には何もない。
ただ、そばにいたからキスしただけ……それだけなの!
「お前……本当に何もわかってないんだな。
こんな女と今までずっと一緒にいて、結婚までしようと思っていた自分が情けないよ」
蓮は私の腕を振り払うと、悲しそうな顔で式場から出ていった。
そして、誰1人として蓮を止めてくれる人はいなかった。
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それからの展開はひどいものだった。
あのあと、お互いの両親を交えて蓮から改めて結婚の白紙とキャンセル料もろもろの請求を言い渡された。
「うちのバカ娘が……本当に申し訳ない!」
私の両親は蓮に頭を下げてばかりで、私の言い分を聞こうともしない。
結局、私と蓮の結婚はなし。
蓮に請求されたお金は私の貯金と足りない分は親が補う形で支払った。
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「俺達2人を応援してくださったファンの皆様……このような形で皆様の気持ちを裏切ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今日を持って、ひなれんチャンネルを解散いたします」
結婚が白紙になってからすぐにライブ配信を行い、蓮はひなれんチャンネルの解散を発表した。
「蓮、お願いだからやめてよ! 私達が頑張って育ててきたチャンネルなんだよ?
それをあんなドッキリ仕掛けたくらいで……」
もちろん解散する気も蓮と別れる気もない私は断固として反対した。
だけど蓮は、必死に制止を呼び掛ける私に冷たい目を向け……。
「だったらコメント見てみろよ」
蓮に促されるまま……私は自分のスマホでこの動画を見ているファン達のコメントに目を通した。
『これは引く……蓮君が可哀想』
『陽菜ちゃんマジで言ってる?』
『狂ってる……』
『蓮君や神父さん達に謝れ!!』
そこには私を非難するコメントで埋め尽くされていた。
ちょっと前まで”陽菜ちゃん可愛い”とか、”蓮君とお幸せに”って私を応援してくれていたみんなが……。
「これでわかっただろう? お前がやったのはドッキリなんかじゃない……ただの裏切り行為だ」
「わっ私はただ……」
「この期に及んでまだ言い訳か? つくづく救えないな」
蓮は可哀想な人を見るような目で私を一瞥し、以降は私が何を言っても無視してライブ配信を続けた。
こうして長い時をかけて育ててきたひなれんチャンネルは幕を閉じ、蓮は私の元から去っていった。
『人の気持ちを裏切ってまでしなくちゃいけないものなのか? ドッキリって……』
去り際に残した蓮の言葉が何度も頭の中でリピートされる。
裏切ったって何?
私……蓮やみんなを裏切ったの?
ただ純粋に蓮達を笑わせたかっただけなのに?
「なんで……こうなっちゃうの?」
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「もう娘とは思えない」
蓮が去ってからまもなく、両親からラインが届いた。
短くまとめられたメッセージには、”絶縁”の2文字が記されていた。
話し合おうとしても、ラインや電話をブロックされ……実家にも入れてくれない。
しかも仲が良かった友人たちも……
『非常識だよ、陽菜』
『蓮くんの気持ち考えてあげなさいよ』
『今後私達に関わらないでちょうだい』
1人、また1人と私から離れていき、気が付いたら誰もいなくなっていた。
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さらに私の不幸は続く……。
あの結婚式でのドッキリがSNS上で広がり……炎上したんだ。
アーカイブ動画は削除したが、切り抜かれた映像が次々とネットの海へと拡散されていった。
”ドッキリ失敗”
”非常識花嫁”
私を指すタグがトレンド入りし、私のアカウントには毎日何百件もの批判コメントが届いた。
私は怖くなってSNSアカウントを削除し、身を隠すことにした。
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半年後……。
『どうも! れんれんチャンネルです!』
蓮は新しいユーチューブチャンネルを立ち上げて、活動を始めていた。
ひなれんチャンネル時代のファン達がついてきているらしく、さらには結婚式で非常識な花嫁に裏切られた可哀想な被害者として世間から見られていたことで、ひなれんチャンネル時代よりも少しファンが増えていた。
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それに引き換え私は……都内の安アパートに引っ越して細々と暮らしていた。
六畳一間、築三十年、防音ゼロ。
ユーチューバーとして生きていた頃には想像もしなかった暮らし……コンビニのバイトと週末の倉庫作業で家賃を払う過酷な毎日に追い詰められていた。
「はぁ……はぁ……」
地獄に身を置く中で、私はずっと想い続けていた。
たしかにあのドッキリは考えてみればちょっと非常識だったかもしれない……。
だけど頬へのキスくらいでなぜあそこまで非難されないといけないの?
どうして”何をバカなことやってんの?”って笑ってくれなかったの?
その考えが根底から砕かれたのは、雨上がりの夜だった。
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バイトからの帰り道、コンビニの袋を下げて路地を歩いていると……。
チュッ!
「なっ何!?」
突然頬に何かが触れた。
湿った気持ち悪い感触……それが唇だと気づくまでに、一秒もかからなかった。
「ドッキリ成功!!」
私の頬にキスをした男はスマートフォンを向けたまま訳の分からないことを言ってそのまま走り去った。
もちろん知らない男だ。
「……」
私はその場に固まった。
コンビニ袋を落としたことにも、しばらく気づかなかった。
心の中は恐怖で一杯だった……悲鳴を上げたいくらいに……。
だけど、あまりのおぞましい体験に……声を出すことすらできなかった。
そして警察に通報することができたのは、キスをされてから10分も経った後だった……。
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「なっなによこれ……」
翌朝、スマホを見ていると昨夜のキス動画がSNSで広まっていた。
”陽菜にドッキリ仕掛けてみた”というタイトルで、その内容は配信者の男が私の頬にキスをして逃げるというあまりにくだらないものだった。
それにも関わらず、再生数は数時間で十万を超えていた。
『ざまぁ!』
『次は何秒キスできるかチャレンジして!』
コメント欄には常軌を逸したコメントが溢れていた。
もちろん私は警察に被害届を出し、配信者の男は逮捕された。
しかしそれからまもなく、キス動画のバズリ具合に承認欲求を刺激された別の男が同じことをした。
その動画もバズり、私はまた警察に被害届を出してその配信者も逮捕された。
1週間で2人もの見知らぬ男にキスをされた……。
私は何度も何度も頬が赤く腫れるほど除菌シートでこすり続けた。
それでもあの気持ち悪い感触は消えない。
そしてSNS上でも……
『頬へのキスなんて挨拶みたいなものなんでしょ?』
『自分がキスするのはよくて、自分がキスされるのは嫌とか子供かよ』
『自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないって親に教わらなかったの?』
私を擁護する人間は、ほとんどいなかった。
むしろ、私がキスされる動画を見て楽しんでいる人が過半数を占めていたくらいだ。
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それから数ヶ月後……キス動画ブームはいつの間にか鎮火していた。
だが、私の心にはトラウマとして今もなお、くすぶり続けている。
そのせいで、まともに外を歩くことすらままならない。
きっとこの傷は……永遠に消えることはないだろう。
「うぅぅ……」
今になってわかった……蓮が私に伝えたかった気持ちが。
私はあの時、神父さんをドッキリの「小道具」にした。
頬へのキスが挨拶かどうか……男か女か……そんなのは問題じゃなかった。
同意のない接触は、誰だって嫌悪感を抱く。
そんな当たり前のことを……私はわかっていなかった。
だから私はあの時ドッキリだと笑っていた……挨拶程度にしか思えなかった。
「なんで……私……」
今も残る見知らぬ男たちに頬を触れられた不快感と恐怖。
後悔という言葉では足りなかった。
むしろ、ここまでされないと自分の非常識さを理解できない自分を心の底から呪った。
「蓮……ごめんなさい。 私が間違っていた」
蓮に謝りたくても、謝る機会すら私には与えられない。
いや……機会はあったのに、気付かず私が全部潰してしまったんだ。
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「……」
ある日……救いを求めた私が足を運んだのは、蓮と結婚式を挙げたあの式場。
私達は結婚して夫婦となり……そして幸せになるはずだった。
それを全部、私がぶち壊してしまったんだ。
「……」
祭壇に上った私は周りを見渡す。
もちろん、周囲には誰もいないし……隣には蓮もいない。
だけど、目を閉じたらあの時の光景が蘇る。
あの幸せに満ちた瞬間を……。
「蓮……」
脳裏に浮かぶ蓮が私に誓いのキスを求めて来る。
私はただの妄想だとわかっていながらも、唇を差し出した。
だけど……蘇るのは神父さんの頬の感触だけ。
蓮とキスなんて何度もしたのに……あの時のドッキリが私と蓮の記憶を全て塗りつぶす。
「うぅぅぅ……」
私は思わず泣き崩れてしまった。
私は過去の幸せに浸ることすらできないの?
じゃあ私は……これから何を思って生きていけば良いの?
「誰か……これもドッキリだって言ってよぉぉぉ……」
どんなに願っても、どんなに後悔しても――ドッキリから始まったこの悪夢に、種明かしの日は来なかった。
AIに本文を書いてもらったのですが、また色々修正してしまいました。
土台がある分、書くのは楽ですが……どうにも丸投げすることができませんでした。




