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無能王女と最強勇者伯~無能王女は無能が無能らしく生きていける平和な世界が欲しい~  作者: たけすぃ


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俺が君にしたい事4

 *


 なんか偉そうな奴が出てきたなと思ったら。

 メフティアの兄だった。


 貴族社会に興味のない俺だが、流石に自国の王子の名前ぐらいは知っている。

 ヴァンセルだ。確か第一王子で、武勇に優れた人で、えーっとなんだ? 派閥も軍閥というか、実質的に王国軍を掌握している、だったかな?


 要は優秀な人間である、という事だ。つまり俺の目的には合致しないので用のない人間だ。聞いた話しでは身分を問わず、実力さえあれば取り立てる人間だと聞いている。

 逆を言えばこの王子は、部下も友人も公平に《《選んでいる》》人間だ。


 俺は友達になりたいのであって、友達に選ばれたいのではない。

 たぶん王族としては当たり前なのだろうが、俺はそんな友人はゴメン被る。


「メフティアに迷惑をかけた事を謝罪しているんだ、邪魔をしないでくれ」


 俺は正座を解いて、メフティアの隣に移動しながらヴァンセルに言った。

 俺の謝罪を邪魔しやがって、これでメフティアが俺を許してくれなかったらどうしてくれるんだ。


 ヴァンセルが片眉を上げる。


「妹よ、勇者殿はそう言っているが?」


 ちなみに俺はまだ勇者ではない。現在の勇者は俺の父だ。

 母と一緒にいる時間が少なくなるから、という理由で王国からの雑用を俺に押し付けてくるような人間だが、間違いなく現役の勇者はあのクソオヤジだ。


「いえ、兄様。その、えっとショウ君が食堂の窓ガラスを粉々にしたのはですね」


「ショウ君?」


 ヴァンセルが物言いたげな顔から、軽く眉間に皺を寄せる表情に顔を変える。不愉快な気分だと、自分の気持ちを宣言しているのだろう。

 どうせ礼儀がどうのこうのって話しだ。


 メフティアが俺をショウと名前で、しかも君付けで呼んだ事に反応したのだろう。

 こちとら結構な長い問答の末に、メフティアに名前呼びを了承させたのだ。礼儀なんぞ持ち出されて元に戻されてたまるか。


 兄からの、自分は今不愉快ですが? の表明にアワアワしそうになっているメフティアの前に出る。

 優秀な兄に気後れする妹を守る、これは結構友達っぽくないだろうか?


「俺がメフティアの頼みを聞いて動いてる中でミスしたんだよ。全面的に俺が悪い」


 なぜかメフティアが頭痛を堪えるように眉間を指で揉みだす。

 メフティアは気配が素直なので、背後にいようと動きが良く分かるので助かる。


 おかげでメフティアが不満を抱いている事が分かった。

 メフティアにお願いされた内容は言っていないが、もしかしたらお願いされたという事自体を秘密にしたかったのかもしれない。


「いや違う、俺が勝手にメフティアがやりたがっている事を叶えてやろうと動いて失敗しただけだ」


「ほぉ」


 ヴァンセルが興味深げに頷く。視線が俺とメフティアの間を交互に動いている。


「勇者殿は勝手に我が妹の願いを叶える為に動いていると?」


 コイツ、意外と素直で物わかりの良い人なのかもしれない。

 背後でメフティアが、ぐぅう、と唸っている理由は分からないが。


「そうだ」


 こういうのは強引にでも言い切ってしまえば、事実はそうだとなる。


「勇者殿には、我が妹と随分と仲良くして頂いているようだな」


 なかなか良い事を言う。実の兄からもそう見えるという事は、俺がメフティアと友達になる日も近いかもしれない。


「ああ、メフティアには世話になっている」


 ゆくゆくは友達となって、先祖の借りを返すのだ。

 それでお前ら王家から押し付けられる雑用からもおさらばだ! 俺は自由になる!


「待ってください! お願いします、ちょっとショウ君は黙っててください!」


 メフティアが何故か悲鳴じみた声を上げる。

 なんだ? お前はあれか? 人の優しさに触れると叫びたくなる病気か何かか?


 無能無能と呼ばれるお前に、お世話になっていますと、お前の兄貴に言ってやってるだろ。知ってるぞ、家族にも無能と呼ばれている悲しき王女の話を。

 何をそんなに嫌がるんだ。


 メフティアが溜息を吐きながら俺の横に立つ。

 お? なんだ? 優秀な兄に噛みつくか? そうだよな? 自分が誰と仲良くしようが兄弟だろうと口出しされたくないよな。


 それが若さだよな、悪い奴ともだいたい友達。


「〝これは〟私がショウ君に頼んだ事による騒動ですので」


 メフティアの吐いたセリフは、俺の予想とは違った。

 なんで今その話になるんだ?


「勇者殿は勝手にやった事だと言っているようだが?」


 ヴァンセルが吠えるチワワか、威嚇するレッサーパンダを見るような目でメフティアを見下ろす。

 良く分からんが、なんか腹立つので、食堂の窓を吹き飛ばしたのは俺のせいだと訂正しようとしたらメフティアに脇腹を肘で突かれる。


 小声で「やっぱり分かってない」とメフティアが呆れる。


「ええ、そうです兄様。これは私の責任の範疇でありますので、兄様のお手を煩わせる必要はありません」


「なに言ってんだメフティアこれは――」


 なんでお前が責任を被ろうとするんだと、抗議したらメフティアに襟首を掴まれて無理やり顔を寄せられた。


「ショウ君にここの窓ガラスの弁償できるんですか?」


 ちなみに値段はこんな感じですと、ドコで知ったのか、メフティアが商人が使うようなハンドサインで俺に示してくる。


「マジか」


 その金額に思わずメフティアと見つめ合ってしまう。


「マジです。ですから黙っていてください」


 いや待て、流石にこれをメフティア一人に背負わせたら、違う意味での借りが出来てしまう。


「妹よ」


 俺も半分もつと言おうとしたらヴァンセルの声で遮られた。

 その声は完全に呆れていた。


「内緒話を聞こえないようにする程度の配慮はできないのか? それとも何か? 兄に対する牽制か何かのつもりか?」


 そりゃこの距離なら聞こえるわな。

 メフティアがキューと鳴く。ハムスターか何かかお前は。


「不出来な妹の尻拭いも兄の義務であろうさ」


 メフティアの狼狽っぷりに本当に聞こえていないと思っていた事が分かる。


「勇者殿、ここは俺が持たせもらおう」


「兄様!」


 メフティアが悲鳴みたいな声を上げるが、ヴァンセルは煩そうに手を振って黙らせる。


「安心しろ、言った通り愚妹の後始末を兄がするだけだ」


 もしかして良いお兄ちゃんなんだろうか?

 あの金額を妹の為にとポンと出せるのは、相当だと思う。


「勇者殿も、そのあたりお間違えないように」


「良いお兄ちゃんだ」


 俺の素直な感想にヴァンセルが、家のトイレを綺麗ですねと褒められた時の母みたいな顔をする。あの時は他に褒める場所があるだろと母がキレていた。

 しかしこれなら俺も納得できる。


 妹のやらかしを兄が面倒見ただけなら、借りでも何でもない。

 良かったー無駄な借りを作らなくて。


「家族が家族を助けるだけなら、何の遠慮もいらないな。良かったなメフティア」


 俺の隣で、真顔のまま窒息でもしてるのかと疑いたくなる顔で固まっているメフティアに話しかけたら、思いっきり肘鉄をくらった。

 なんだよぉ、これなんかちょっと友達っぽくない?


「ええ、はい。では兄様、そういう事で。《《文字通り》》そういう事であると」


 何故か決死の覚悟を滲ませた声でメフティアが確認を取ると。


「くどいぞメフティア。勇者殿が言った通りだ、偶には俺に兄らしい事をさせろ」


 そう言ってヴァンセルがこの話しはこれで終わりだと、目で告げる。

 凄いな、第一王子ともなると目だけで周囲に圧をかけられるのか。


「それではな、我が妹よ。これ以上ここにいては他にも世話を焼かねばならぬ事になるかもしれんので、さっさと退散させて貰おうか。ここの請求に関してはあとで部下をやる。すまないがラドラリー卿、学園側との繋ぎを頼んでもよいか?」


 ヴァンセルは問いかけという形で命令をすると、俺達に軽く挨拶し、食堂の他の生徒たちにも「騒がせたな」と、謝罪のような言葉を残して立ち去ってしまった。

 メフティアと違って実に王族って感じだった。


 うーん、優秀。たぶんきっと周りは人で溢れているだろう。

 毎週末に仲間集めてバーベキューとかしてそう。


 やはり俺には用のない人間だ。


「あーもう、なにが、どうしたら、こうなるのですか」


 河原で一人バーベキューしてそうな女が隣で疲れた顔をしている。

 知らない人ばっかりのバーベキューに参加するより、コイツと二人で肉食ってた方が俺はなんとなく嬉しい気がする。


「今度二人でバーベキューでもするか?」


「え? 何でですか? 嫌ですよ外とか」


 そうか、残念ながらメフティアはインドア派だったようだ。


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