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夏日落桂  作者: 楓谷青茂
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第二章 朝


明今は陽光で目を覚ました。


最初に目に入ったのは見慣れた天井だったが、視点がいつもと違った。いつもは壁の方を向いて寝ているのに、今は窓の方を向いていて、カーテンの隙間から朝日が細く一筋差し込んで、枕の上に落ちていた。


そして気づいた。自分の頭が何かに乗っている。温かい。動く。


「起きた?」


宋随の声が頭上から聞こえた。低く、寝起きの掠れた声だった。


明今の意識が一気に戻った。昨夜のことを思い出した——宋随のエアコンが壊れて、自分の部屋で一緒に寝たんだ。寝る前は二人ともベッドの端に寄っていて、間に十分な隙間があったはずなのに。いつの間にか自分が彼の方に移動していて、頭は彼の肩の上、手は彼の胸の上に乗せていたらしい。


彼は素早く手を引っ込め、後ろに跳ねるようにして距離を取ろうとした。勢い余ってベッドの縁に手をつき、危うく落ちるところだった。


宋随が素早く彼の腕を掴んで引き戻した。


「何してるんだ」


「な、なんでもない」


明今はうつむいて宋随の顔を見られなかった。布団の模様をじっと見つめ、まるでそこに何か深い意味があるかのように。彼の耳は灼けるように熱く、自分の顔が真っ赤になっているのが分かった。


宋随はしばらく彼を見ていたが、何も言わずに自分から先に起き上がった。背を向けてベッドサイドのスマホを手に取る。パジャマの襟元が少し開き、うなじが覗いていた。朝の光が彼の輪郭を柔らかく縁取り、髪はところどころ跳ねていて、まるで起きたばかりの猫のようだった。


明今は一瞬見つめて、すぐに目をそらした。


「七時半だ」宋随がスマホを見て言った。声はもう普段の調子に戻っている。「朝食、どうする?」


「適当に」


「適当って、食べるのか食べないのか」


「食べる」


「じゃあ買ってくる」


「買わなくていい。昨日のカップ麺、残ってなかった?」


宋随が振り返った。「朝からカップ麺か?」


「悪いか」


「悪くない」宋随は立ち上がり、ドアのところで立ち止まった。「先に顔を洗ってこい。俺が作るから」


ドアが閉まり、明今は天井を見つめてしばらくぼんやりした。自分の手を見た。さっきまで宋随の胸の上にあったこの手だ。昨夜、自分はどうやって眠っていたんだろう。寝る前はあんなに離れていたのに。彼は寝返りを打ち、宋随が使っていた側の枕に顔を埋めた。洗衣液のほのかな香りがした。宋随の服にいつもついているあの匂いだ。


彼は急に起き上がり、自分の頬をパンパンと叩いた。


「しっかりしろ」


小声で自分に言い聞かせてから、ようやく布団から出た。畳もうとして、宋随の布団がきちんと畳まれているのに気づいた。先に起きたのに、いつの間に畳んだんだろう。明今は二人分の布団を重ねて部屋を出た。


キッチンからもう物音がしていた。鍋とフライパンのぶつかる音、水道の音、宋随の足音。


宋随はキッチンに立っていた。カップ麺が二つ並べられ、彼はスープの素の袋を手に真剣な表情で何かを考え込んでいる。明今が貸したパジャマは少し小さくて、裾が足首の少し上で止まっていた。


「何してるの」


明今はキッチンのドア枠にもたれて聞いた。


「水の量を考えてる」宋随は顔も上げずに鍋を指さした。「説明書には五百ミリリットルって書いてあるけど、少し多めでもいいかと思って」


「カップ麺に説明書なんてあるの?」


「初めて作るから」


明今は一瞬戸惑った。そういえば、家ではいつも自分がカップ麺を作っていた。宋随は皿洗いや片付け担当で、キッチンに立つことはほとんどなかった。


「どのくらい入れた」


「だいたい七百」


「じゃあスープの素を半分多めに入れればいい」


「なるほど」


宋随はスープの素の袋を開け、半分ほど入れた。少し考えて、さらに足した。また少し足した。


「もういい!」明今は慌てて止めた。「それ以上入れたら塩辛くなる」


宋随は残りの袋を置き、鍋の蓋を閉めた。振り返ると、二人はキッチンで向かい合った。途端に空間が狭く感じられた。


「歯磨き粉、出しておいたぞ。洗面所に」


「え?」


「洗面所に行け」


「……うん」


明今は洗面所へ向かいながら振り返った。「ありがとう、兄ちゃん」


「うん」


洗面所の鏡に映った自分の顔はほんのり赤かった。寝起きのせいなのか、それとも別の理由なのか。水で顔を洗い、歯を磨き、髪を整えてからリビングに戻った。


カップ麺はもうできていた。二つの器がテーブルに並び、湯気が立ち上っている。宋随は片方に座ってスマホを見ていたが、足音を聞いて顔を上げた。


「食べよう」


明今は座り、器の中の麺を見た。見た目は自分が作るよりずっとましだった。麺がほぐれていて、団子になっていない。一口すすると、塩加減もちょうどいい。麺も適度な硬さだった。


「どうだ」


「まあまあかな」


明今はもう一口食べた。宋随が口元をわずかに上げて自分の分を食べ始めた。二人は向かい合って座り、静かに食べた。窓の外の日差しはさっきより強くなり、カーテンの隙間からテーブルの上に金色の線をいくつも描いている。


「今日、授業あるの?」明今が聞いた。


「午前はない。午後から」宋随が言った。「お前は」


「午前にある。教授のやつ」


「じゃあ多めに食べておけ」


「豚じゃないんだから」


明今はぶつぶつ言いながらも、箸は止まらなかった。


食べ終わり、宋随が皿を洗いに行った。明今は「俺がやる」と言いかけたが、彼がもう水道の蛇口をひねっていたので言葉を飲み込んだ。部屋に戻って服を着替える。白いTシャツとジーンズを選び、鏡の前で見て、別の水色のに着替えた。なぜかは分からないけど、今日はこっちの方がいい気がした。


着替えて出ると、宋随はもうキッチンを片付け終えていた。玄関で靴を履いている。


「先に行くぞ。鍵をかけ忘れるな」


「うん」


宋随がドアを開け、一歩外に出て、また振り返った。「そういえば、昨夜うなされてなかったか?」


明今は一瞬固まった。「何?」


「寝言を言ってた。何て言ったかは聞こえなかったけど」


明今の顔がまた熱くなる。「なんて言ったんだ」


「聞こえなかった。よく眠ってたよ」


「……そっか。いびきかもしれない」


「お前はいびきをかかない」


「なんで知ってるんだ」


「三年も一緒に住んでて、いびきをかくかどうかくらい分かる」


明今は言葉に詰まった。何も言い返せない。宋随は彼を見て、口元をわずかに上げて「行ってくる」と言い、ドアを閉めた。


明今は玄関に立ち、閉まったドアをしばらく見つめていた。


三年。彼らがルームメイトになってからもう三年になる。一年生のとき同じ寮の部屋になってから今まで、千日以上。宋随は明今のことを明今自身よりよく知っている——寝相が悪いこと、雷が怖いこと、いびきをかかないこと、寝言を言うこと。


彼は自分の耳を触った。熱い。


寮を出ると、日差しが道いっぱいに広がっていた。六月の荊市は朝から暑い。八時過ぎというのに、もうその蒸し暑さを感じる。道端の鈴懸の木の葉はぐったりと垂れ、風が吹いても熱風だった。


明今はうつむいて歩いた。頭の中は昨夜のことでいっぱいだった。雷が鳴ったとき、彼は宋随の頬に口づけをした。ほんの一瞬だった。自分でもなぜそんなことをしたのか分からない。ただ怖かった。雷の音で頭が真っ白になって、気づいたら唇が彼の頬にくっついていた。


宋随はあのとき、どんな反応をしたっけ。何も言わなかった。ただ髪を揉んで「本でも読め」と言っただけ。それだけだ。


明今は唇を噛みしめ、足早に歩いた。


午前中の授業は音韻論だった。教授が黒板に国際音声記号をびっしりと書いていく。明今は前列の三番目に座り、熱心にノートを取っていたが、頭の中ではずっと宋随の声がこだましていた。途中で教授に名前を呼ばれ、質問に答えようとしてどもり、クラスの笑いを買った。


「昨夜は眠れなかったのか」授業が終わった後、教授が笑いながら言った。


「すみません。次から気をつけます」


明今は深く頭を下げて教室を出た。


午後は授業がなかった。明今は寮に戻って本を読もうと思ったが、気づけば図書館に足を向けていた。図書館の三階、窓際の席に座り、教科書を開く。しかしまたしても宋随のことを考えてしまう。宋随は今何をしているんだろう。研究室か、それとも別の教室か。


スマホを取り出してメッセージを打ちかけて、やめた。何て送ればいいんだ。「何してる」って?それじゃあまるで構ってほしいみたいじゃないか。


彼はスマホを机の上に置き、教科書に集中しようとした。数分後、再びスマホを手に取り、また置いた。その繰り返し。


三度目に手に取ったとき、スマホが震えた。宋随からだった。


「図書館か」


明今はドキッとして、すぐに返事を打った。


「なんで知ってるんだ」


「見えたから」


明今は顔を上げて周りを見回した。数席向こう、同じ窓際の列の端っこに、宋随が座っていた。彼もこちらを見ていて、目が合うと軽く手を上げた。


明今の胸の鼓動が速くなった。彼も図書館に来ていたのか。さっきまで気づかなかった。宋随はもう本に視線を戻し、何かを読んでいる。横顔は真剣で、眉をわずかにひそめている。


明今はしばらくその横顔を見つめてから、慌てて目をそらした。心臓の音がうるさくて、周りに聞こえてしまいそうだった。


彼は深呼吸をして、自分の本に集中しようとした。今回はちゃんと読み進められた。宋随が同じ空間にいると思うと、なんだか落ち着くのだ。


しばらくして、隣の席が引かれる音がした。顔を上げると、宋随が真横に座っていた。


「調べものか」宋随が小声で聞いた。


「うん。お前は」


「資料を借りに来た」


二人は並んで座り、それぞれの本を読んだ。陽光が窓から差し込み、机の上に、二人の腕の上に落ちている。図書館は静かで、ページをめくる音と遠くのエアコンの音だけが聞こえる。


明今はまた気が散り始めた。宋随の横顔を見てしまう。真剣に本を読んでいる横顔、指でそっとページをめくる仕草。宋随は集中しているようで、明今の視線には気づいていないようだった。


明今は何度かチラッと見て、そのたびにすぐに目をそらした。四度目に見たとき、宋随が突然口を開いた。


「見てるな」


「見てない」


「三回は見た」


「数えてたのか」


「お前がバレバレに見るから」


明今は言葉に詰まった。顔が赤くなるのを感じた。うつむいて本に集中しようとしたが、文字がぜんぜん頭に入ってこない。


宋随は何も言わず、ただ本を読み続けた。


昼過ぎ、二人は一緒に食堂へ行った。学内の道を歩きながら、宋随が半歩前を行く。時々振り返って明今を確認する。明今はその後ろ姿を見つめながら歩いた。宋随の肩幅は広くなくて、姿勢はいつも良かった。半歩前を行くその背中は、まるで自然に明今を導いているようだった。


食堂は混んでいた。二人は料理を二品ずつ取って、窓際の席を見つけた。


「お前、さっき授業で当てられたんだって」宋随が言った。


「誰から聞いたんだ」


「李遠から」


「あいつ、早いな」


「ちゃんと答えられたのか」


「……まあな」


宋随は彼を見て、口元をわずかに上げた。明今はその表情にむっとして、自分の料理に箸を伸ばした。


「そういえば」宋随が言った。「今週末、実家に帰らないか」


「え?」


「母さんが電話してきた。二人で帰れって」


明今は一瞬考えた。実家に帰るのは久しぶりだった。夏休み以来だから、もう三ヶ月近く経つ。宋随は年末にも帰っていない。


「いいよ。でも、なんで急に」


「なんでも、最近連絡がないから心配してるって」


明今はうなずいて、またご飯を食べ始めた。


食後、寮に戻る道すがら、宋随が急に立ち止まった。


「どうした」明今も立ち止まった。


宋随は何かを考えているようで、口を開きかけては閉じた。


「なんでもない」


そう言ってまた歩き出した。明今はその後ろ姿を見て、なんだか変な感じがした。宋随が何かを言いたそうにしているのに、思いとどまっているのが分かった。


寮に戻り、宋随はすぐに机に向かって本を読み始めた。明今はベッドに座ってスマホをいじっていたが、何となく落ち着かなかった。


「兄ちゃん」


「ん」


「さっき、何を言おうとしたんだ」


宋随は手を止め、振り返って彼を見た。少し迷ってから言った。


「実家に帰ったら、母さんに何て言う」


「どういう意味だ」


「俺たちのことだ」


明今は一瞬固まり、すぐに顔が赤くなった。「……なんでも普通に話せばいいじゃん。『元気にしてます』とか『勉強頑張ってます』とか」


宋随は彼をじっと見つめ、何も言わなかった。その目はいつもより少し深くて、明今はその視線に捉えられて、動けなくなった。


「何だよ、その目は」


「なんでもない」


宋随はまた本に視線を戻した。明今はドキドキしながらそこに座っていた。さっきの宋随の表情、あれは何だったんだろう。何かを確かめようとしているような、何かを待っているような。


彼は深く息を吸って、ベッドに寝転んだ。天井を見つめながら、また昨夜のことを思い出した。唇が宋随の頬に触れた感触。あれはたぶん、ほんの一秒にも満たなかった。でもその感触は、ずっと彼の唇に残っている。


彼は手を上げて自分の唇に触れた。熱い。


「兄ちゃん」


「ん」


「昨夜のこと、覚えてるか」


一瞬の沈黙があった。


「覚えてる」


宋随の声は低く、穏やかだった。明今はその声を聞いて、急に何も言えなくなった。何て言えばいいのか分からなかった。「ごめん」と言うべきか。それとも「あれはただの事故だった」と言うべきか。


でも彼はどちらも言いたくなかった。


「……そうか」


それだけ言って、彼は体を壁のほうに向けた。背中越しに、宋随の気配を感じる。彼はまだそこに座っていて、動かない。その沈黙は気まずくなくて、むしろ毛布のように二人を包み込んでいた。


しばらくして、宋随が立ち上がる気配がした。足音がベッドのそばまで来て、止まった。


「明今」


「ん」


「今夜、何を食べたい」


明今は思わず笑ってしまった。昼ごはんを食べたばかりなのに、もう夜のことを考えている。


「お前が作るのか」


「作ってもいいぞ」


「じゃあ、またカップ麺か」


「それ以外にもできる」


「じゃあ、期待してるよ」


宋随は「うん」とだけ言って、自分の机に戻った。


明今は壁に向かったまま、口元を緩めた。昨夜のあの口づけは、何も変えていないように見えた。宋随は相変わらず寡黙で、相変わらず彼の世話を焼き、相変わらず「おやすみ」と言う。


でも何かが変わったような気もした。どこが変わったのか、うまく言葉にできないけれど。


彼は目を閉じて、宋随のページをめくる音を聞いた。規則正しく、穏やかで、その音を聞いていると心が落ち着いた。


今夜もまた、あの音を聞きながら眠れる。それで十分だった。


第二章 (終り)

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