第3話:聖夜の奇跡
聖夜祭の朝、フィーナたちは朝早くに目を覚まし、ユウイチの木に駆け寄った。
「お姉ちゃん!見て!熱が下がったよ!」弟が元気に叫んだ。
「ありがとう、聖夜の木!」フィーナはユウイチの幹に抱きつき、感謝の言葉を囁いた。
(いや、俺じゃない。クラウスさんが医者を呼んだおかげだろう)
そうツッコミを入れたかったが、声は出ない。しかし、フィーナの「心からの感謝」の魔力は、ユウイチの木全体を、じんわりと温かく満たした。
そして、もっと大きな「奇跡」があった。
ユウイチの木の、昨夜まで何もなかった枝に、パンの入ったバスケットや、暖かいウールの靴下などが、いくつも吊るされていたのだ。
「わあ!聖夜の奇跡よ!」
孤児たちは歓喜の声を上げる。
もちろん、ユウイチにはわかっている。これは「秘密の配達人」クラウスの仕業だ。
ユウイチの木は、クラウスの善意と、孤児たちの純粋な信仰を繋ぐ、中継点になっていた。
ユウイチは、その光景を見て、前世では決して得られなかった「満足感」に包まれた。
モテたい、認められたい、という自分のエゴは、もうどうでもよかった。
ただ、この子たちのために、そこに立っているだけでいい。自分は、彼らにとって必要な存在なのだ。
フィーナは、パンをちぎって、小さな弟たちに分け与える。そして、自分の分を少しだけ、ユウイチの木の根元に置いた。
「聖夜の木にも、ありがとう」
その「無償の愛」の魔力が、ユウイチの木の成長を促す栄養のように、ユウイチの意識を深く満たした。
***
しかし、その日の午後、ユウイチは再び危機に晒された。
「おい、あのデカいモミの木。教会の連中が勝手に植えやがって。切り倒して売り払えば、いい金になるぜ」
地元のチンピラたちが、ユウイチの木を狙って教会の庭に侵入してきたのだ。
フィーナたちは恐怖で泣き叫ぶ。
(やめろ!頼む!動けない、話せない、何もできないのか、俺は!)
ユウイチは、全身の葉を震わせ、心の中で絶叫した。動かない木の幹の中で、前世の「無力感」と「恐怖」が再び襲いかかる。
チンピラの一人が、斧を振り上げ、ユウイチの太い幹に狙いを定めた。
ズザァン!
斧が打ち下ろされる直前、教会の門が大きな音を立てて開いた。
「何をしている!」
クラウスが、騎士団の兵士たちを引き連れて、そこに立っていた。彼の冷徹な表情は怒りに燃えている。




