◆秋・第一話「秋風のピクニックと、小さな予感」
秋風が日常を少しだけやわらげてくれた季節。
二人の関係は、特別とも家族とも恋とも言えない、曖昧で静かな距離のまま続いていた。
だけど、風に揺れた木漏れ日の下で、おじさんが見せたほんの一瞬の表情――
それは、これから訪れる運命の前触れのように思えた。
まだ誰も、その意味を知らなかった。
秋分が過ぎ、東京の空気に乾いた冷たさが混ざりはじめた頃。
私は久しぶりに休日らしい休日を迎えていた。
「たまには外でメシ食うか? 弁当でも作って、公園で」
おじさんの唐突な提案だった。
朝の電話は相変わらず不器用で、言わんとすることが半分くらい伝わってこない。それでも、私の心は少しだけ、あたたかくなる。
「いいよ。お弁当……ちょっとだけ頑張る」
そう言うと、電話の向こうでおじさんが、ほんの少しだけ嬉しそうに息を漏らすのがわかった。
ピクニック場所に選んだのは、家から電車で20分の大きな公園。
大木の影がゆらゆら伸び、子どもたちの笑い声が風に混ざる。
シートを広げ、作ってきた卵焼きやから揚げを並べていると、おじさんがジッとそれを眺めていた。
「……ちゃんと、すげぇな」
「なにそれ。褒めてるの?」
「褒めてる」
短い。雑。でも……悪くない。
二人で弁当をつつきながら、たわいのない話をし、空を見上げ、また話して、黙った。
“秋って、なんかずっとこうしていたくなるな……”
ふと横を見ると、おじさんが目を細めて木々を眺めていた。
目尻のしわに秋の光が優しく落ちる。それはまるで、ずっと昔からそこにあった風景のように自然だった。
午後、ベンチでコーヒーを飲んでいると、おじさんがぽつりとつぶやいた。
「……お前さ、来年、どうしたい?」
「来年?」
「仕事とか、生活とか。まぁ、なんでも」
こんな質問をされるのは初めてだった。
私はすぐには答えられず、カップを握りしめた。
「考えたこと、ないかも」
「そうか」
それきり、おじさんは何も言わなかった。
でも――
あのときの横顔が、少しだけ切なげだった気がする。
(私とおじさんの“来年”が、まだ想像できなかった頃の話だ。)
秋イベントの1話目では、二人の関係性が「一緒にいるのが自然になってきた」段階を描きました。まだ恋愛的な空気には踏み込まないけれど、距離が縮まる気配だけが静かに積み重なる時期です。物語としては、ここから冬の“宝くじ当選”という大きな転機へ向かって伏線を置きつつ、日常の温度を丁寧に描く流れを作っています。
次の秋イベント第2話では、もう少し感情的な揺らぎを入れ、冬への伏線をさらに強くしていきます。




