《スカイツリーダンジョン編:第三層 ― 深層境界/守る理由》
第三層の特殊エリアを拠点として使い始めて、五日目。
滞在時間は短く、最長でも二時間。
俺のSPが安全域を下回る前に、必ず撤退する。
そのルールは、今のところ完璧に守られていた。
■ 変化に気づく
「……人、増えてません?」
後衛が、小声で言った。
結界の外。
岩陰や通路の奥に、微かな気配。
直接近づいてくるわけじゃない。
ただ、見ている。
(やっぱりな)
特殊エリアの存在は、
遅かれ早かれ知られる。
問題は――
どう知られたか、だ。
■ 最初の接触
撤退準備をしていた時、
一人の探索者が、結界の外から声をかけてきた。
「悪い、少し話せるか?」
敵意はない。
だが、距離が近い。
俺は、一歩前に出た。
「要件は?」
「ここ、休める場所だろ?」
直球だった。
「第三層じゃ、貴重すぎる。
共同で使えないかと思ってな」
合理的な提案。
悪くない話に聞こえる。
だが――
「条件は?」
俺がそう返すと、
男は一瞬、言葉に詰まった。
「……そっちが、鍵なんだろ?」
視線が、俺に向く。
その瞬間、
空気が変わった。
■ “場所”ではなく“人”
(やっぱり、そう来る)
この拠点は、場所じゃない。
俺がいるから成り立っている。
それを、相手も分かっている。
「悪いが、断る」
はっきり言った。
「俺たちは、俺たちの判断で使う」
「……独占か?」
「違う。
責任を取れる範囲でしか、使わないだけだ」
男は、しばらく黙っていた。
そして、肩をすくめる。
「まあ、そう言うと思ったよ」
それだけ言って、引いた。
だが――
問題は、これで終わりじゃない。
■ 仲間内の会話
結界の中で、短い相談をする。
「今の人、悪い感じはしませんでしたけど……」
「全員が、そうとは限らない」
弓使いの言葉に、全員が頷く。
第三層。
余裕のない探索者ほど、
“安全”に執着する。
(……守る必要が出てきたな)
場所を。
仲間を。
そして――
自分の役割を。
■ 守戦士としての覚悟
俺は、盾を握り直した。
今までは、魔獣から守ればよかった。
これからは、違う。
人の欲。
焦り。
妬み。
それらも含めて、
前に立つ必要がある。
(……逃げない)
ここを手放せば、楽になる。
だが、それは――
第三層攻略を諦めるのと同じだ。
■ 静かな警告
その日の撤退直前。
結界が、微かに揺れた。
(……触られたな)
外から、試すように。
俺は、意識的に《絶対防衛》を強めた。
SPが、削れる。
だが――
結界は、びくともしない。
「……見せつける必要は、あったな」
剣士が、小さく言った。
「ここは、簡単には取れないって」
その通りだ。
優しさだけじゃ、守れない。
■ 地上へ戻りながら
ダンジョンを出た後、
妙な疲労感が残った。
魔獣との戦闘より、
ずっと重い。
「……人相手の方が、疲れますね」
後衛の言葉に、苦笑する。
「これから、増えるぞ」
そう言うと、誰も否定しなかった。
■ それでも前へ
宿の部屋で、一人考える。
守戦士としての役割は、
どんどん広がっている。
盾役。
判断役。
拠点の鍵。
重い。
だが――
仲間が、前に進めている。
それだけで、
背負う理由には十分だった。
(……俺は、ここに立つ)
第三層は、
ただのダンジョンじゃない。
人の本性が、
少しずつ剥き出しになる場所だ。
拠点の存在が他パーティに知られ始め、人との摩擦が生まれる回でした。安全地帯は「資源」になり、守戦士である主人公自身が“価値の核”になっていきます。




