《スカイツリーダンジョン編:第一層 ― 影の回廊/二日目・再開》
ダンジョン内で迎えた朝は、不思議なほど静かだった。
外界の朝のような鳥の声も、風の音もない。ただ、遠くで魔力が脈打つ低い振動だけが、一定のリズムで空間を満たしている。
内部拡張テントの中で目を覚ました俺は、まず鑑定を発動させた。
無意識に近い感覚で視界が切り替わり、周囲の魔力の流れが淡い色となって浮かび上がる。
「……問題なし」
結界の外を徘徊していた影鼠や影蟲は、夜の間に自然と離れていったらしい。
魔獣避けの効果は想像以上だった。
簡単な朝食を済ませ、装備を整える。
剣の刃こぼれ、革鎧の留め具、ポーションの残数。
ダンジョンではこうした確認を怠った者から脱落していく。
テントを収納し、通路へ一歩踏み出した瞬間、空気がわずかに重くなった。
「……昨日より、濃いな」
影の回廊の奥へ進むほど、魔力密度が上がっているのが分かる。
ここからが、本当の探索だ。
■ 影狼との遭遇
通路が緩やかに曲がった先、黒い霧の中から現れたのは――
獣型の魔獣だった。
全身を覆う影の毛並み。
赤く光る瞳。
動きは静かで、音もなく距離を詰めてくる。
鑑定結果が即座に浮かぶ。
《影狼》
危険度:低〜中
特徴:集団行動/奇襲
ドロップ期待値:魔石・牙・影属性素材
「単体なら問題ない……けど」
直後、左右の影が揺れた。
二体、三体。
合計で四体。
第一層とはいえ、油断すれば一気に囲まれる。
「よし、いくぞ」
俺は距離を詰めてきた一体に踏み込み、剣を振るう。
影狼は素早いが、昨日までの魔獣とは明らかに違う“読みやすさ”があった。
――レベルが、確実に上がっている。
横から噛みつこうとした個体を避け、体勢を崩した瞬間を狙って反撃。
一体、二体と影が霧に還っていく。
最後の一体が低く唸ったかと思うと、逃走を選んだ。
「……深追いはしない」
無理はしない。
それがダンジョンで生き残る鉄則だ。
■ ドロップと成長
消えた影狼の跡に、光が残った。
・魔石(中)×1
・影狼の牙 ×2
・影属性の毛皮
魔石(中)は、弱い魔獣のものより明らかに価値が高い。
換金すれば数千円にはなるだろう。
さらに、体の内側にわずかな変化を感じた。
《レベルが上昇しました》
《SPが増加しました》
「……少しずつ、だけど確実にだな」
派手な成長ではない。
だが、この積み重ねこそが探索者を強くする。
■ 引き際
その後も数体の魔獣を倒したところで、俺は足を止めた。
体力はまだ余裕があるが、集中力が少し落ち始めている。
「今日はここまでにしよう」
一日ごとにダンジョンを出る。
買い出しと休息を挟み、数日おきに潜る。
それが、長く生き残るためのやり方だ。
来た道を引き返しながら、次の探索について考える。
(次は……ボス部屋の前まで、様子を見るか)
職業の石盤。
スキルと職業の真実。
まだ知らない情報が、この先に待っている。
地上への出口が見えたとき、俺は一度だけ振り返った。
影の回廊は、何も語らず、ただ静かにそこに在った。
次回
《スカイツリーダンジョン編:第一層 ― 影の回廊/買い出しと準備の日》
地上に戻った主人公は、装備の更新と物資の補充を行い、
次の探索――ボス部屋挑戦に向けた準備を始める。




