◆《スカイツリーダンジョン編:第一層 ― 影の回廊》
第12話:影の狭間で迎える初めての夜
天候も時間も存在しないダンジョン内部だが、外界の時計ではすでに夕方を過ぎていた。
初日の探索で手に入れたアイテムは少なかったものの、スライムの魔石と劣化スキルを持つ革片、そして何より「内部拡張型・魔獣避けテント」と「上位鑑定スキルロール」を拾えたのは奇跡に近い。
「よし……今日は、もう無理だな」
影の壁が揺らめく通路の奥で、一ノ瀬は足を止めた。
第一層の出口までは30分ほど戻れば着く距離だが、せっかくテントを手に入れた以上、実験してみたいという好奇心が勝った。
◇魔獣避けテントの展開
袋から取り出したテントは、普通のキャンプ用品のように見えた。
だが地面に広げ、固定具を打ち込むと、まるで空気が反転するような軽い衝撃が走り、布が一瞬で光を帯びて膨らんだ。
——ぼんっ。
「おお……!」
内部は、外見の三倍以上ある。
四人用の広さ。
しかも空気は外より暖かい。
入口には小さな魔法陣が刻まれており、そこから微弱な波動が広がっている。
(なるほど……これが魔獣避けの結界か)
テントの周囲に“魔獣の気配を遮断する膜”が張られ、弱い魔獣は近寄ることさえできない。
ただし、あくまで低層の雑魚に限られるらしい。
◇鑑定スキルの検証
内部に入り、早速一ノ瀬は手に入れた「鑑定:Lv10」のスキルロールを広げた。
黒地に銀の紋様が走る紙片で、触れるとわずかに温かい。
「……本当に、こんなものが落ちてるのかよ」
政府のダンジョン管理課が喉から手が出るほど欲しがる、最上位鑑定。
普通は億単位の値がついてもおかしくない。
だがルールは単純。
スキルロールを肌に触れさせ、自分の意志で吸収するだけ。
——スッ。
銀色の光が皮膚に吸い込まれ、頭の奥で何かがはまる感触がした。
《鑑定スキルを習得しました:Lv10》
「……まじか」
試しにスライムの魔石を手に取ってみる。
※名称:スラ・ジェル魔石(下級)
※品質:C-
※用途:武器強化素材/下級ポーション精製
※換金額:1,200円
※付与効果(劣化):持ち主の体力回復微小(発動率5%)
情報量が、今まで見たどの鑑定よりも桁違い。
劣化効果まで丸見えだ。
「これは……やばい。ほんとに最高ランクなんだな」
この瞬間、一ノ瀬はまだ知らない。
鑑定Lv10とアイテムボックスLv10を持った人間が、後に“協会の歴史に名を刻む存在”として呼ばれることを。
ただ、このときはただ便利さに驚いていただけだった。
◇軽い食事とレベルアップの確認
持参した携帯食と魔石を燃料にした小型ストーブで簡単に湯を沸かし、インスタントのスープを作る。
魔獣避けの結界の中では料理も安全だった。
「今日はスライム10体、シャドウラット5体……結構戦ったよな」
鑑定で自分のステータスを見てみる。
《レベル:3(+2)》
《獲得スキル:鑑定Lv10》
《潜在SP:+4》
「レベルが2つ上がったか。まあ、第一層だしこんなもんか」
レベルは簡単には上がらない。
上位層の冒険者でも年に1、2上がれば良いとされるほどだ。
だが初日にしては十分すぎた。
◇そして、ダンジョン初夜
テントの明かりを落とし、簡易ベッドへ横になる。
結界のおかげで外の気配は一切感じない。
まるで安全な部屋にいるようだった。
(明日は……もっと奥まで行く。
スキルロールも、魔獣の部位も、もっと見つけられるはずだ)
アイテムボックスLv10はまだ未入手だが、鑑定だけでも十分なアドバンテージになる。
目を閉じながら、一ノ瀬は小さく息を吐いた。
「……よし。今日は寝よう」
こうして、ダンジョンでの最初の夜が静かに更けていった。




