《スカイツリーダンジョン編:第一層 ― 影の回廊(夜の章・続き)》
テントの外では、遠くで“何か”が這うような音が小さく響いていた。影の回廊は夜になると魔獣の数が増え、探索者たちは基本的に野営を避ける。だが、千秋たちは違った。
──魔獣避け結界付き、内部拡張型のテント。
通常の探索者が一生で一度見られるかどうかのレアアイテム。それを、偶然拾ってしまったのだから仕方ない。
「それじゃ、今日は本当にここで寝るの?」
玲奈が寝袋を広げながら、不安と期待が混ざった声で訊く。
「うん。大丈夫、安全だよ」
千秋は穏やかに答えつつ、掌の上の《影核の欠片》をじっと見つめた。
村瀬も腕を組んでうなった。
「……それにしてもお前、本当に運が良すぎる。影核なんて普通、上層の中ボス級だぞ。第一層で見つかるとか……」
「せっかく拾ったんだから、ちゃんと鑑定してから使おうね」
玲奈が言うと、千秋は苦笑した。
「鑑定……できればいいんだけど」
鑑定スキルは超超超レア。劣化版の鑑定メガネですら数百万級。
彼らはまだそんな高価なものを手にできる立場ではない。
「とりあえず、寝よう。明日も第二層を目指すんだろ?」
村瀬の一言で、三人は寝袋に潜り込んだ。
光度を落としたランタンが、テントの内側を柔らかく照らす。
千秋は目を閉じながら、小さく息をついた。
――今日はよく動いた。経験値も少しずつ溜まっている。
――レベルも、ほんの少しだけど確かに上がっている。
――明日も前へ進める。
そう思ったところで眠りが訪れた。
だが――。
眠りに落ちる直前、千秋のポーチの奥で、
《影核の欠片》がわずかに脈動した気がした。
鼓動のように、微かに。
まるで――「見ている」ように。




